「ユタカ…」
「グンちゃん、しー。ツェリちゃんに気付かれちゃうよ。私がここにいるのは、シンクが気にしちゃうから。さっき言った通り、傷つきはしない。でも、ほんのちょっと寂しいだけなの」
人差し指を立て、自分の口元に当てながらユタカはそう言う。
シンクが自分以外の女の子とキスをしているというのに、嫉妬も怒りもせず、ただ寂しいと笑うユタカ。
僕はどうする事も出来ず、彼女を見るしかない。
『「グンジョウ、君…?!」』
ツェリの驚愕の声に、僕は顔をそちらに向けた。
シンクがツェリを拘束魔法で縛り上げ、胸元から赤黒い球状の何かを取り出そうとしている所だった。
『「なんで、どうして…グンジョウ君…っ!!」』
拘束魔法を解こうともがくツェリに対して、シンクはニコリと笑う。
「ごめんね、ツェリ…なんて言うと思ったか。俺とグンジョウの違いも分かんねぇくせに。ちょっとはユエとユタカ見習えよ、ツェリ。俺がグンジョウに変装してたって、あいつらすぐ見破るぞ。お前、それでもグンジョウの幼馴染かよ」
ツェリとのキスの感触を消そうとしているのだろうか、グイッ、と強めにシンクは口を拭う。
『「シンク、君…? じゃあ、グンジョウ君は…っ?!」』
ツェリがこちらを見た。
僕は手を挙げ、彼女に向かって手を振る。
『「あ…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」』
途端、ツェリが絶叫した。
絶望と悲しみと、羞恥心からの叫びだろうか。
庭に広がっていた紙が彼女の叫びに呼応するかのようにさざめき出したが、シンクがツェリの魔力を封じたのかすぐに治った。
「なんで分かんないかな…本当に、上辺だけしかアオの事見てなかったんだね、ツェリちゃん」
「ユエ…」
僕の隣に来たユエが、侮蔑のこもった目でツェリを見ている。
僕は、彼女に尋ねた。
「ユエは、僕とシンクをどうやって見分けているの? 眼鏡外したらそっくりだろ?」
「え? 全くの別人じゃん、アオとシンクは。ね、ユタカ?」
ユエは自分の姉に話を振り、振られたユタカもうんうんと頷いている。
そんなに別人に見えるのかな?
眼鏡の有無だけで、判断してたりしない?
「えっと…感覚? で見分けてる? 君達」
「そんなわけないでしょ。そんなに気になるの?」
うん、と頷くとユエはうーんと少し考えてから指折り始める。
「視力悪くて眼鏡かけてるのは大前提として。まずは、笑うとシンクは歯を見せて笑うのに対して、アオは全く見せない。困った時もそう。あとは声。シンクは結構高めなのに対して、アオは低いんだよ。あとはねぇ…魔力波の有無。怒った時って、つい魔力を放出しがちなんだけど、アオは魔力値が低いからそれが全くない。それと、私とユタカ…というか、他の人を見る時の目。普通に見てるか、優しい目になるかの違い。体つきも少し違うよね。アオは結構引き締まってるけど、シンクはそんなに鍛えてないからこう…柔らかいというか」
「そこが良いんじゃん!」
ユタカから抗議の声が上がるが、僕は少し嬉しくなってユエを抱きしめた。
「アオ?」
「そこまで細かく僕の事見ててくれたんだ…ユエ、大好きだよ」
僕の背に手を回し、ユエは微笑んでいるようでクスリと笑う。
「まだあるんだけど、アオ?」
「そこ、イチャつくんじゃねぇよ。こっちはしたくもねぇキスして、ウンザリしてるっていうのに…っ!!」
じゃあしなきゃ良かったじゃないか、と僕はシンクを見た。
ツェリの絶叫が聞こえなくなったあたりで、シンクが何かしたのだろうなとは思っていたが、弟の手にはコアらしきものが収められている。
「シンク、大丈夫?」
今まで黙ってシンクを見ていたシャナが、弟に声をかけた。
そんな姉を見上げ、シンクは少し情けない声を上げる。
「姉ちゃーん…兄ちゃんのために働いた弟を慰めてくれよー…」
「うんうん、頑張ったねシンク。今日はシンクの好きな物作ってあげるから、もうちょっと頑張れ」
バキリ、と音がし、シンクはコアを粉々に破壊した。
途端、紙で真っ白に染まっていた庭が、コアが無くなった事により紙自体が消失し、その姿を現す。
危険性が無くなった事を確認し、シャナはユタカに頷いた。
「シンク!!」
「ユタカ!」
先程のシンクと同じく、助走をつけてユタカは飛び降りる。
彼女を抱き止めたシンクだったが、体勢を崩して二人して倒れてしまった。
怪我してないかと様子を伺っていたが、二人とも大丈夫だったようで、ユタカが少し身動きした後、シンクがしみじみといった感じで言う。
「やっぱ、ユタカとのキスの方がいい…」
「イチャついてんじゃねぇよ」
そっくりそのまま返してやると、シンクから中指を突き立てられた。
喧嘩売ってやがるな、あいつ。
それ買ってやろうか。
若干眉が吊り上がった僕を見ていたユエだったが、ハッとして自分の左側を見、僕を突き飛ばす。
「っ、アオっ!! 避けてっ!!」
「っ?!」
突き飛ばされたのにも驚いたが、目の端に映った色にも驚く。
次いで防御した腕にきた衝撃で、僕は彼女の名を呼んだ。