「ツェリ!!」
真っ白になってしまった彼女の髪は、夕陽のようなオレンジに戻っていて、少しだけ安堵する。
ツェリは何も言わず僕に攻撃を仕掛け、僕はそれを防御していく。
母様やカヅキおばさんからの訓練の成果で、ツェリの動きがちゃんと見える。
そして、その表情も。
「ツェリ…」
泣いていた。
彼女は大粒の涙を流しながら、僕を睨みつけていたのだ。
その表情から読み取れるのは、どうして? という感情だけ。
どうして、自分を選んでくれないのか。
どうして、ユエでなければならないのか。
どうして、こんな事になってしまったのか。
どうして、どうして、どうして。
僕はそれに対して、かける言葉が見つからない。
何を言った所で、彼女には意味がないものばかりだったから。
「アオ…っ!! …っ、ツェリちゃん、良い加減にしてよ!!」
ユエが叫ぶ。
だが、ツェリからの攻撃が止む事はない。
ユエとリンクを繋いでいるおかげで魔法が使え、ツェリを止めようと雷属性を纏いつつ、彼女に反撃する。
「…グンジョウ君…
どうして、私を選んでくれないの…?
私の方が、ユエちゃんより先に出会った…!
私の方が、先にグンジョウ君を好きになった…!!
…っ、なんでユエちゃんなの?!
私の方が、ユエちゃんよりもグンジョウ君が好きなのに!!」
彼女は泣きながら、僕に問う。
僕らの攻防は、側から見れば舞踊に見えるだろう。
ツェリの問いかけに、僕は答えた。
「前も言ったはずだ。僕は、ユエ以外と婚姻するつもりはない。側妃だっていらない。僕の初恋は君だったけど、それはもう昔の話だ。君の気持ちに応えられなくて、悪いとは思ってる…でも、僕は…ユエからの愛だけが欲しい!!」
ツェリの顔面に拳を叩き込もうと腕を振るう。
彼女はそれを防御する為、腕を交差させた。
僕は拳に
勢いよく飛んだツェリは庭の方、シンク達よりも遠くへ、落ちていった。
「…ユエ、ごめん。結構魔力使って…」
「…いーよ。でも、私もツェリちゃん殴りたかった…」
あとで思う存分殴り合いすれば良いだろ。
なんだっけ、キャットファイトだっけ?
僕もユエも、疲れ果ててその場に座り込む。
暫く休んでいると階下からハインリヒ卿とエミル君の声がし、シャナとツルギに介抱されながら僕らはツェリがいる方を見た。
「ツェツィーリエ…お前なんという事を…!」
父親であるハインリヒ卿が、ツェリの身を起こしなら、嘆いている。
彼女の腕は僕の攻撃で黒く焦げており、それも卿の嘆きに拍車をかけているようだった。
「ツェリ、気が済んだか? グンジョウに気持ち伝えて、気は晴れたか?」
ハインリヒ卿の隣でツェリを見ながら、エミル君が問いかける。
彼女は兄を見ながら、お兄ちゃん、と呟いた。
「…私、何がいけなかったのかな…グンジョウ君に、好きだって…ちゃんと伝えられなかった事かな…それとも、グンジョウ君を…好きになっちゃった事かな…辛いよ、苦しいよ…お兄ちゃん…っ!」
ポロポロと涙を零しながら、ツェリはエミル君に自分の気持ちを訴える。
その言葉を聞き、エミル君は妹の頭を撫でた。
「それが失恋って事だろ。グンジョウも頑固だからな。自分が決めた事は、テコでも変えようとしねぇ。だから…そうだな。兄としては、好きな奴と添い遂げて欲しかったけどよ。相手が悪かったと思うしかねぇよ、ツェリ」
僕は少し罪悪感を覚え、二人から目を逸らす。
もし、僕がもう少し精神的に成長していたのなら、ツェリの申し出を受けていたのだろうか。
ユエも愛しつつ、ツェリの事も慈しんでいたのだろうか。
そんな仮説が浮かぶが、すぐに否定する。
僕はそんなに器用ではない。
二人を愛して慈しむなんて、出来ない。
僕は一人にしか、自分の愛を渡せないのだ。
それがツェリではなく、ユエだった。
エミル君の言うように、相手が悪かったと諦めて欲しい。
ユエがスッと立ち上がり、階下に飛び降りた。
そのままツェリの元に歩いて行き、彼女の胸ぐらを掴んで起き上がらせると、ツェリへ平手打ちする。
パァンッと、とても良い音がしたのだが、僕はその音で我に返り、慌ててシャナやツルギと共に階下に飛び降りた。
「ユエ!! 何やってるんだ!!」
彼女の肩を掴み、制止するよう彼女の名を呼ぶ。
それ以上ツェリに何かしないよう、ツェリを掴んでいるのとは逆の方の手を抑えた。
「…ふざけないでよ。全部、自分の事ばっかりじゃないっ!! アオの気持ち考えた事ある?!」
ユエが僕のために怒っている。
僕は少し驚いて、彼女を抑えていた手の力を弱めた。
「ユエ、ちゃ…」
「アオはね、ツェリちゃんの事も大事に思ってたよ! 私に向ける気持ちではなかったけど…それをツェリちゃんは欲しがっていたんだろうけど…でも、アオはツェリちゃんを大事な友達として大切に思ってたんだよ?! シャナちゃんだって、ユタカだって…私だって、そうだよ!! それを、こんな形で…っ!!」
ユエの声に涙が混じり始める。