僕はユエの手からツェリをゆっくり離した。
ツェリの方はエミル君が支えてくれたのを見て、口を開こうとしたが…嗚咽混じりで、ユエがツェリに言う。
「アオを…っ…これ以上、傷つけないで…っ! アオは…優しい人なの…っ! 本当は泣きたいくらい、辛いはずなのに…っ! 周りに気を遣って、笑ってて…っ!!」
「…ユエ、もう良いよ…ありがとう。君の気持ちだけで、僕は救われるから」
ユエを後ろから抱きしめ、彼女の頭に口付けを落とす。
そして、僕はツェリを見て困ったように笑った。
「まずは感謝を。ありがとう、ツェツィーリエ…こんな僕を好きになってくれて。僕の…初恋の君。でも…君の気持ちには応えられない。僕の愛は一人にしか捧げられないんだ。だから、ごめんという言葉以外言えない」
「…グンジョウ、君…」
ツェリは少し驚いて目を見開くが、やがて諦めたように微笑んだ。
「…私も、ありがとう…グンジョウ君…ずっと、大好きでした…」
「ツェリ…」
妹を心配して名前を呼ぶエミル君へ、そして自分の父親を見て、彼女は言う。
「お父さん…お兄ちゃん…私を…ツェツィーリエ・パパラチア・ハインリヒを…この家から、追放してください」
◆◆◆
ツェリの言葉に、その場にいた全員が驚く。
「ツェツィーリエ…! それは…!!」
ハインリヒ卿も驚き、ツェリに考えを改めるようにと彼女の肩を掴んだ。
だが、ツェリはゆっくりと首を横に振る。
「私がここにいても、ハインリヒ家に迷惑になるだけ、だよ…お父さん。王族に、牙を向いた…その罪は、死で贖わなけば…ならない。私がここに、いたら…一族、分家、みんな死んでしまう。だから、その前に…私を、追放して。お父さん達は、何も知らなかったんだから…。グンジョウ殿下…どうか、ハインリヒ家には、処罰を、下さないでください…」
悪いのは私一人だけだから。
ツェリはそう言い、僕に頭を下げた。
僕はユエから離れ、腕を組んで俯く。
この件は、父様達に相談しなければならない事だ。
だがそうした場合、ツェリは確実に死刑だろう。
減刑を願い出た所で、僕やシャナに攻撃をした段階で、却下されるに決まっている。
死刑にしたくて、助けたわけではない。
彼女に生きてて欲しかったから、シンクに頼んでまでツェリを助けたのに。
シャナやシンクにも、頼る事は出来ない。
これは、王太子であり、次期王である僕が判断しなければならない。
僕の腕にそっと触れる手があり、顔を上げるとユエが心配そうに僕を見つめていた。
安心させるように、僕は彼女に微笑む。
「グンジョウ殿下…」
「グンジョウ…」
ハインリヒ卿と、エミル君から名を呼ばれる。
僕は二人に向かって、考えを告げようとした。
その瞬間。
「待て、グンジョウ」
この時間、城で執務をしている父様がハインリヒ家に現れた。
僕は驚いて父様を見つめてしまう。
傍らには母様がおり、多分星読みでこの状況を知った母様が、父様を転移で連れてきたのだろうと推測出来た。
「久しいな、ニコライ。前に会ったのは、子供達の誕生祭の時だったか」
「はっ。陛下もお変わりないようで安心致しました」
ハインリヒ卿や、エミル君、ユエやユタカ、ツルギが臣下の礼を取り、頭を垂れる。
母様がツェリの傍へ行き、治癒魔法をかけた。
瞬時に、彼女の黒焦げた腕が元の綺麗な腕へと治っていく。
流石母様。
リューネのヒーラーオブバーサーカーの名は伊達ではない。
ちなみに、何故バーサーカーと付くのかと言えば、僕らが生まれて少ししてから起こった戦争で、キレた母様が父様の制止も聞かず一人で戦場に突っ込み、敵陣を壊滅させたから、らしい。
その際、負傷した味方の兵を一気に治癒魔法で治したので、そんな異名がついたと母様自身が嘆いていた。
自業自得だと、おばさんからは言われていたが。
「王妃、様…ごめんなさい…魔力…使わせてしまって…」
申し訳なさそうに言うツェリへ、父様が問いかけた。
「ツェツィーリエ。お前に問わねばならん。グンジョウやシャナを攻撃したのは、お前の意思か? それとも、魔王の意思か? 正直に答えろ」
厳しい目をツェリへ向ける父様の言葉に、彼女は口を開きかけるが、僕はそれを制止する。
「待ってツェリ。陛下、王妃殿下からこの状況を聞いて、いらっしゃったのは見て分かります。ですが、僕の見解を聞いていただけないでしょうか。一年前から、ツェツィーリエは魔王の遺物に意識を乗っ取られているような、そんな言動や行動が多く見受けられました。普段の彼女は大人しく、このような行動を起こす女性ではない事は、陛下も王妃殿下もご存知のはずです」
「だからなんだと言うのだ、グンジョウ」
父様がツェリに向けていた目を、こちらに向けた。
厳しく、威圧するような目に怯みかけるが、こんな事で怯んでいたら王位なんて継げないと自分に言い聞かせ、父様の目を真っ向から見据える。