落ち着け、と言われたユエは僕を睨み続けていた。
「…アオのばーか…記憶容量小さすぎない?」
「いや、はい、あの、仰る通りで…申し訳ありませんでした…」
僕は誠心誠意、平身低頭でユエに謝り続ける。
城に着く頃には少しは許してもらえたが…これ、結婚してからも言われ続けるんだろうな、と内心で頭を抱えた。
◆◆◆
リューネ国際空港。
そこに僕とツェリ、数人の護衛と共に車から降りる。
ユエは付いてきていない。
城からツェリを迎えに行き、そのまま空港に向かう事になったと話した時、すごく不満そうな顔をしながらも、いってらっしゃいと送り出してくれたのだ。
ついてこないのか、と聞いたのだが、
「ユタカ見習う」
と一言だけ言われ、別にユタカはユタカだし、ユエはユエなのだから、見習う必要性はないんじゃないだろうか、と思ってしまった。
おばさんが用意してくれた航空艦で、一路オーシアに向かう。
ラウンジとかも併設されている豪華客船ではあるが、ツェリは護衛の人達に囲まれ、椅子に座って微動だにしていない。
自分が輸送対象なのは、自覚しているようだった。
「ツェリ、飲み物飲む?」
「…大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます…グンジョウ殿下」
ぎこちなく笑うツェリの向かいに座り、僕はラウンジから持ってきた飲み物を飲む。
萎縮し、目を伏せ顔を俯かせているツェリに、僕は言った。
「別に、今から行く場所は怖い人がいるわけじゃない。そんなに怯えなくて良いと思う。あと、そんな堅苦しくしなくて良いよ、ツェリ。一応君を送り届けるという名目でここにいるけど、君は僕の幼馴染だ。それとも…僕が怖い?」
フルフルとツェリは首を横に振り、ここに来て彼女らしい笑顔を浮かべてくれる。
「…ちゃんと、臣下として、接してるのに…グンジョウ君ったら…」
「そっちの方がいいよ、ツェリ。そっちの方が…君らしい。ユエには内緒にしてて欲しいんだけど…君の笑顔、結構好きだったよ。ツェリ」
僕の言葉に彼女はポッと頬を染め、目を逸らしながら困った顔をした。
「グンジョウ君…ユエちゃんから、女たらしって、言われた事ない…?」
「ある。でも、伝えておきたかったんだ。これをユエが知ったら…まぁ、怒られて殴られるだろうなぁ…」
二回ほど頬叩かれてるし。
この間は首絞められかけたし。
次は半殺しにされるのだろうか。
ユエになら何をされても構わないけれど。
「…先生経由で…知らされてるんじゃ、ない…?」
「うわぁ、あるー…過去形で話してるんだけどなぁ…。ユーリおじさんからも、説教という名の半殺しにされそー…。リューネ帰りたくなくなってきた…」
項垂れる僕を見て、ツェリはクスクス笑う。
本当に、その笑顔が大好きだった。
たまに見せてくれる、その表情が。
ごめんね、ツェリ。
僕の初恋の君。
ちゃんと、君の事が好きだったよ。
「リューネに、帰るんだよ…グンジョウ君?」
「うん、それは勿論。ユエに殺されるなら本望だしね」
それはちょっと、とツェリは苦笑する。
彼女と幼少期からの他愛無い話をしていると、オーシアの空港に着いたとアナウンスがかかった。
楽しい時間はとても早く過ぎると言うけど、本当にそうだなと実感する。
航空艦からタラップを降りると、ケーネ君と数人の護衛と共に、年若い女性が待っていた。
僕はその女性に頭を下げる。
「お久しぶりです、アオイさん。この度は、こちらの要望を聞き入れていただき、感謝します」
「久しぶり、グンジョウ君。その子がツェリちゃん? まぁ、お姉ちゃんお人好しだからね。私もだけど、人を拾ってくる癖があるみたいで。ツェリちゃん、私は要葵。こっちが息子の刑音。これからよろしくね」
手を差し出され、ツェリはその手を握った。
「…こちら、こそ。ご迷惑、おかけするかも…しれませんが、よろしくお願い、します…」
ぎこちなく笑うツェリの頭を撫でる。
シャナから、彼女の頭を許可なく撫でるんじゃないと言われた日が、とても遠く感じた。
「グンジョウ、君…?」
「ツェリ」
戸惑って僕を見上げるツェリを抱きしめる。
驚いて固まった彼女へ、僕は言う。
「体に気をつけて…元気でね、ツェリ。幼馴染として、君が健やかに過ごしていく事を願っているよ」
「…グンジョウ君…うん、ありがとう。貴方も、お元気で…。魔王討伐、頑張ってね」
僕の背に手を回し、抱き返してきたツェリが、最後の方は小声で呟いた。
彼女に声をかけようと口を開きかけるが、ケーネ君の声で口を噤む。
「なんだグンジョウ、ユエがいるのに浮気か?」
「……幼馴染として、別れの挨拶してただけだよ。これで浮気になるんだったら、異性との挨拶のハグ出来なくない?」
ツェリを僕から離し、ケーネ君に問う。
だが彼は、わからないといった感じで肩を竦めた。
「…まぁ、良いや。アオイさん、よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、グンジョウ君。またね。行こうか、ツェリちゃん」
ツェリの手を引き、アオイさん達は車に乗り込んでいく。
手を引かれた彼女は少し振り向き、僕に手を振ってきた。
それに振り返し、車へと乗り込み発進するまで見送る。
見送った後、僕は航空艦に戻りリューネへ戻った。
まぁ、この事はケーネ君からユエへリークされており、戻った瞬間平手ではなく拳で殴られたのは…うん、僕が悪いです。
ごめん、ユエ。