アオと会うのは、訓練の時だけ。
その際も視線は感じるけど、私に話しかけようとはしていなかった。
朝食も夕食もアオ達とは摂らず、一人部屋で食べていた。
夢渡りも、アオが夢を見ているのはわかっていたけれど、せず。
アオ達の誕生日パーティーは流石に出たけど、嫌がらせでやった事も、彼は全く何も言わず表情を取り繕って私を微笑みながら見つめるだけ。
何か言ってよ、アオ。
いつもみたいに、私を怒ってよ。
こんな事くらいで腹を立てるなって。
ちゃんと愛しているのは、君だけなんだからって言って、私を抱きしめてよ。
アオ…アオ…寂しいよ…っ!!
ポロポロ涙を溢しながら、私は顔を覆って蹲る。
自分の気が強い所が嫌いだ。
自分の我を通してしまう所が嫌いだ。
アオを傷つけるなと、ツェリちゃんに言ったのにも関わらず、アオを傷つけている自分が嫌いだ。
ケーネからの文章は、ツェリちゃんと抱き合っていたという一文のみ。
でも、優しいアオの事だから、お別れの挨拶としてツェリちゃんを抱きしめただけなんだって、頭では理解していたのに。
ユタカ達からも、そう言われていたのに。
「アオ…アオ…っ!!」
ごめんなさい。
ごめんなさい、アオ。
殴ってごめんなさい。
怒ってごめんなさい。
こんな私でも…それでも見捨てず、婚約破棄もせず、隣に置いてくれる貴方が、大好きなの。
涙が止まらない。
アオが私と会う事を望んでいないと思って、避け続けていたのに…今はとても寂しい。
会いたいよ、アオ。
「っ、ユエっ!!」
部屋で泣いていると、ユタカが慌ててノックもせず入ってくる。
泣いている私の肩を掴んで、抱き起こしてきた。
「ユタカ…どうした」
「グンちゃんが桃華に攫われた!!」
その言葉に、私は息を呑む。
意味がわからない。
だってアオは、城の中にいるはずでしょう?
ここはママの結界があるから、桃華も侵入出来ないはずじゃなかったの?
「なん、で…」
「グンちゃん、ユエの事で罪悪感凄かったんだって。ユエを傷つけまくっている、最低な奴だって。シンクと違って、ユエを大事にしたいのにそれ以上に悲しませている、最悪な奴だ。そんな奴、ユエに相応しいと思うか。ユエには笑っていて欲しいのに、泣かせている方が多い。ユエを幸せに出来ない僕なんて、って言ってたってシンクが…」
それを聞いて、死にたくなった。
アオが精神的に脆い所があるのを、忘れていた。
だから、私に謝る為に姿を消そうとしたの、アオ?
結界が張られていない外に、行ってしまったの?
私を幸せに出来ないから、泣かせてしまう自分が悪いからって?
全部、私のせいだ。
ツェリちゃんの事、言えないじゃない。
「アオ、アオは何処?! ユタカ!!」
私は半狂乱になりながら、ユタカに縋り付く。
桃華に攫われたのもだけど、アオがどんな状況なのかが分からないのが、私にとって一番の問題で。
だが、ユタカはフルフルと首を横に振る。
「分かんない…シンクが桃華の魔力を追って、飛んだらしいんだけど…途中で撒かれたって…」
「あ…あ…」
絶望した。
アオの顔が、私の脳裏に浮かぶ。
私を大好きだと笑ってくれた顔。
困って眉を下げた顔。
私に注意する時の、厳しい顔。
悲しくて、初めて涙を見せてくれた時の顔。
『ユエ』
私を、愛していると言ってくれた顔。
私の名前を呼んでくれた、低い声。
それが、消えてしまう。
私から離れてしまう。
この世から、いなくなってしまう。
「やだ、嫌だ…っ!! アオっ!! アオ!!」
私は立ち上がり、扉に向かって駆け出す。
ごめんなさいも言えず、彼と離れてしまうのは絶対に嫌だ。
私を置いて逝かないで、アオ。
逝くなら、一緒に連れていって。
「ユエ、落ち着け」
扉を開け放ち、更に駆け出そうとしてシンクに腕を掴まれ、止められる。
離してと私は叫び、もがいた。
「グンジョウのいる所は、母様が星読みで見つけた。ユエ、落ち着いて聞け。母様から伝言だ。もしかしたら、元のグンジョウに戻らないかもしれないけど…それでもお前は、グンジョウと添い遂げられるか?」
「愚問すぎる…っ! 私は、アオを愛してる!!
彼以上の人なんて現れないし、いらない!! アオは何処にいるの、シンク!! 早く、早くアオを助けないと…っ!!」
アオがアオ以外になる?
それでも、アオはアオだ。
どれだけ泣かされようと、酷い事されようと。
私は、アオを愛している。
ねぇ、アオ。
私、結構執着するタイプなんだよ。
だから、私を幸せに出来ないとか、泣かせてしまうとか、自分が悪いなんて考えなくて良いんだよ。
それでも、私はアオから離れたくないんだから。
「何百年も放置されてる古城にいるってさ。その場所も教えてもらったから、みんなで行こう」
「…わかった」
ユタカが後ろから私を抱きしめてくれる。
私はその腕に触れながら、桃華は絶対殺すと誓った。
◆◆◆
バルザック領の端の端。
解体も何も出来ず、放置されている城がある。
どうして解体しないのかと、妃教育で疑問に思って教師であるテスタロッサ夫人に聞いてみたが、他の領の事情なので知らないと言われた。