バタバタと後ろから階段を上がってくる音がして、みんながここに来た事がわかった。
「ユエちゃん!! グンジョウは…っ!」
シャナちゃんが座り込んでいる私を見て聞いてきたが、部屋の中を見て私と同じように動きを止める。
「シャナ、シンク…どうしたんだよ。てか、その女誰? 五月蝿いんだけど」
「おま…」
シンクも言葉を失ったかのように、唖然としているようだった。
「ユエちゃん、これ、どういう…」
「…私を、忘れちゃった…アオ、が…私を…」
涙がとめどなく溢れる。
シンクとシャナちゃんを覚えている。
本当に、私の存在だけがいない。
「ユエ、しっかりして!! グンちゃんがそう簡単にユエを忘れるわけないじゃん!!」
ユタカに肩を掴まれ、揺さぶられる。
でも、と私は姉に言った。
「アオの記憶、私との思い出…全部桃華が変えたって…っ!! ユタカ、どうしよう…どうしたら良いの?!」
「ほーん? んな芸当、簡単に出来るわけねぇよなぁ?」
シンクがニヤリと笑い、桃華を見る。
桃華は不機嫌そうに眉を吊り上げるだけで何も言わなかった。
彼は私の肩を掴み、言い聞かせるように告げる。
「ユエ、グンジョウを戻せるのはお前だけだ。弱気になるな、桃華に負けんな。不可能を可能にしてやるよ。あいつは俺で俺はあいつだからな…ショック療法だ!! ツルギ、ユタカ!! グンジョウを抑えろ!! シャナ、ユエ!! 桃華を殺せ!!」
私は涙を拭い、立ち上がる。
シンクの指示で、ユタカとツルギはアオと戦闘に入った。
桃華の所に行かせないように、上手く立ち回っている。
「シャナちゃん、サポートお願い」
「任せて。よくも、うちの弟の精神破壊してくれたな…万死に値するぞ、この野郎っ!!」
シャナちゃんが私とリンクを繋いでくれた。
私はそれを使って桃華の横に転移し、銃弾を撃ちまくる。
「桃華ぁっ!! くそっ…邪魔だ!! どけぇっ!!」
アオが叫ぶ。
その声に心が痛くなるが、私はそれに構っている暇などなかった。
魔力を総動員して、桃華に銃弾の雨を降らせる。
跡形も無くなるように。
「グンジョウ…助け…」
「桃華!! 桃華ぁっ!!」
桃華は反撃する事も出来ず、血の海に沈む。
そこへシャナちゃんが炎魔法で桃華を消し炭にした。
ツルギ達に拘束されたアオは、私達を睨みつけ怨嗟の籠った声を上げる。
「シャナ、シンク…お前ら気が狂ったのか…? なんで桃華を殺した!! 桃華を返せ!! 絶対、お前ら許さないからな!! 桃華と同じ目に合わせてやる!! 俺の、俺の…大切な桃華を…!! 返せ…返せよっ!!」
「狂ってんのはお前だよ、グンジョウ。お前、本当に耐魔力値高いのか? 一回調べて貰えよ」
シンクがコツンと、アオの頭に魔武器を当てた。
途端、アオは意識を失ったようでガクンと頭を垂れる。
「シンク…」
「眠らせただけだよ。あーもー!! 本当に手のかかる兄ちゃんだな、こいつ!!」
シンクはアオの横に座り、その頭に手を置く。
そしてもう片方の手を私に差し出してきた。
「仲介して、お前をグンジョウの精神に送る。あとはお前次第だ、ユエ。グンジョウをこのままにするか、元に戻ってもらうために、努力するかは」
私はシンクの手を握った。
答えなんて、もう決まってる。
「お願い、シンク」
「あいよ。ったく、早死にしたらグンジョウのせいだからな!」
シンクのそんな言葉が聞こえてきたが、私は意識が遠退いていき、目の前が暗転した。
◆◆◆
次に目を開けるとリヒト城の中で、私は辺りを見回す。
人は全くいない。
アオの精神の中って話だったから、誰もいないのは頷けるのだけど。
「……本が、浮いてる…」
所々、本が浮遊している。
私はその一つを取って、中を開いてみた。
それはアオの記憶のようで、開いたそれは幼等部の出来事を綴っているようだ。
ツェリちゃんに会った事。
可愛い子だなと思った事。
たまに見せる笑顔が好きだな、と思った事が書いてある。
ツェリはとても大人しいけど、でも周りを見ていてさりげなく助けてくれる。
僕の大切な幼馴染。
シャナが迷惑かけてごめんね、ツェリ。
ページをめくっていくと、そんな一文を見つけて、私は苦笑した。
「…アオらしいなぁ…」
特別な感情を持たなくても、その人の良い所を見つける。
あまり、人の悪口を言っている所を見た事がない。
私の、大切な人。
私は本を離し、廊下を進む。
色々な本が浮遊していて、それを少しずつ読んでいった。
本が浮遊している中で、一つ気になるものを見つける。
全てが赤い表紙で、真ん中に一つ、大きく見覚えのある宝石がはまっていたのだ。
「…ペリドット…」
アオが、私の誕生石だと言ってノンホールのピアスをくれた。
二つあったそれを、私は一つアオに渡してお揃いにした事を思い出し、その本を手に取って中を見る。
中は全て塗りつぶされていて…でも、端々に見える文章は、私との思い出のようだった。
告白して、それを受け入れてくれた時…とても嬉しかった。
泣かせてしまったけど、それでも僕が好きだと言ってくれる君が、僕も大好きだ。
⬛︎⬛︎、愛してる。
私の名前も、あった出来事も、ほぼ塗りつぶされていたけど…これは、私との記憶だ。