ここで魔法が使えるかは分からなかったけど、持っている本を復元してみた。
文字がどんどん現れていき、やっぱり私との記憶だったと、確認出来て。
涙が出てきたがそれを拭い、本を片手に持ってアオを探す。
暫く歩いていると、リヒト城の中にはない場所に辿り着いた。
天井まで本棚で覆われたホールで、普通なら重力に従って落ちてくるであろう本も、キチンと本棚に納められ落ちる気配はない。
リヒト城の中は、隅々まで探した。
それでも、アオは見つからない。
私はホールに足を踏み入れる。
途端、真横から手が伸びてきて私の首を掴んだ。
「っ?!」
そのまま押し倒され、苦しくて少し暴れたけど、目に映った青色に、私は抵抗するのをやめる。
「よくも…よくも桃華を…っ!!」
私を憎しみの目で見てくるアオが、私の首を絞めていた。
あぁ、ここまでなのか。
ここまで、桃華に壊されてしまったのか。
そう思って、それを自分で否定する。
ううん。
壊したのは、私。
傷つけて、悲しませて、苦しませたのは、私。
アオ。
私の、大好きな人。
「アオ…ごめんね…ごめんなさい、アオ…そこまで、悲しかったんだね…苦しかった、んだね…辛かった、よね…私が、怒っ、て…殴らなけれ、ば…貴方は…そう、ならなかったのに…アオ……グンジョウ、殿下。私は…立花、月は…貴方を、心から、愛して、います…貴方に殺され、るなら…本望、です……大好き、アオ」
彼の頬に触れながら、私は言う。
意識が遠退いていく。
多分、これは本当に死ぬやつだ。
電車に轢かれた時は、衝撃と一緒に意識が無くなったから、痛かったというよりは、何が起こったか分からなかったけど。
私は、アオへ微笑んだ。
もしも彼が記憶を取り戻して、その時首を絞めた時の私の顔が、苦悶に染まっていたら。
今度こそ、心が壊れてしまう。
だから、笑顔でさよならしよう。
また、貴方に会えたら、良いな。
涙が一筋、目からこぼれ落ちる。
意識が暗転する直前、私の上から彼がいなくなった。
急激に肺へ空気が流れ込み、私はむせるように蹲りながら咳をする。
「ユエっ!! ユエっ!!」
私の背を撫でながら、私の名前を呼ぶ、大好きな声。
私は咳き込みつつ、声の方に顔を向ける。
心配そうな、泣きそうな顔のアオが、そこにいた。
「ア…オ…」
「喋るな、ユエ!! ごめん、僕がごめん…っ!! 君の首を絞めるなんて、どうかしてる…っ!!」
私を抱きしめ、安堵したアオが泣いている。
どういう事だろう?
アオに首を絞められたのに、アオに助けられるなんて。
「お前…そいつは桃華の仇だろう?! なんで殺さない!!」
私の首を絞めていたであろうアオが、私を指差しながら、私を抱きしめているアオに向かって叫ぶ。
アオの精神世界だから、分裂とかしてるのかな、なんて、ボンヤリした頭で思った。
「…筋違いも甚だしい。誰が桃華の仇だというんだ。むしろ、よくそこまで自我を持てたものだな、偽物の僕。桃華が持っている魔王の遺物の力なんだろうが…よくも、ユエを殺そうとしたな。それどころか、僕の体まで乗っ取りやがって。僕の顔で、僕の体で、僕の声で。僕の大切なユエを傷付けたんだ。簡単には殺さない。殺してくれと懇願するまで、何回でも生き返らせて殺してやる…っ!!」
それからのアオは、人が変わったようにもう一人のアオを切り刻み、治し、切り刻みを繰り返していく。
もう一人のアオの服が血に染まっていっても、構う事なく。
どこにそんな魔力があるのかと思ったが、ここはアオの精神世界。
彼が望めば、どのようにでもなるのだろう。
反撃もされたが、アオはそれを無視してもう一人のアオを殺して、また回復させて。
人が変わったようになったアオが、知らないアオのように思えて、私は彼に手を伸ばした。
「アオ…アオ…っ!!」
私の声に、もう一人のアオの声が重なった。
殺してくれと叫ぶ、もう一人のアオの脳天に、アオはブランシュを突き立て黙らせる。
ブランシュから手を離し、アオは私の傍に来ると少し屈んで私を抱きしめてきた。
「ユエ…ごめん…傷付けて、ごめん…っ!」
謝るアオへ、私は首を横に振る。
「違、う…傷付けたの、は…私…ごめん、なさい…アオ…」
「ユエ、まだ喋らない方が…」
私はアオを押して体を離してから、また首を横に振って彼に言った。
「アオ…ちゃんと、お話、しよう…? 私、ね…ツェリちゃんと、抱き合ってるアオ、想像して…悲しくなったの…でも、ね…アオは、優しいから。ちゃんと、お別れ、したかったんだよ、ね? だから、お別れの、ハグ、してただけ、だったんだよね?」
私の問いかけに、アオは一つ頷いた。
だから、と私は続けて言う。
「分かってたのに、怒って…殴って、ごめんなさい。誕生日の時、も。嫌がらせ、して…私、婚約者に、相応しく…ないね。アオ、私…」
「婚約破棄してくれなんて言うなよ、ユエ。誰がするものか。君が傷ついたのは、僕が悪いんだ。僕の軽率な行動が全て悪い…君を傷つけて泣かせて、幸せに出来ない僕なんて、死んだ方がマシだと思った。君には、一年喪に服させる事になるけど…それは、大変申し訳ないとは思った。死ぬ為に、迷いの森に行こうとして…」
私は彼の服を掴み、今日何回目になるかわからない涙を流しながら、アオに懇願した。