「お願い…死ぬなんて言わないで…死ぬなら、一緒に連れていって。逝くなら、アオと一緒がいい。私を、置いて逝かないで…。傷付けても…良いの…泣かせても、良い…私は、貴方の隣にいられて…見捨てず、婚約破棄もせず…隣に置かせてくれて…それだけで、幸せなの…」
「ユエ…」
アオが私の頬に手を添え、顔中にキスをしてくる。
額、目、頬、そして唇。
久々のキスに、私はもっととアオにせがむように首に腕を回した。
彼も私の背中に腕を回して、深く抱きしめてくる。
「…アオ、好き…」
「僕も…愛してるよ、ユエ」
少し唇を離して、お互いに愛を囁き合う。
あぁ、とても幸せだ。
これが幻想でなければ良いと、思ってしまう。
「ずっと、アオの中にいたい…。このまま、死ぬまで…アオと一緒に…」
本棚を背に、座っている彼に抱きしめられ、私はアオの胸に頬をつけながら呟く。
あれから、私達は色んな話をした。
何を思っていたか、どんな気持ちだったか。
流石に少し口論にはなったけど、それも笑ってお互いに許した。
アオは困ったように笑いながら、私の頭にキスをしてくる。
「僕もそうしたいのは山々なんだけどさ。ユエがここに来れたのって、多分シンクが何かしてくれたんだろ? 帰ったら怒られそうだな…」
むしろみんなから殴られる覚悟しなきゃな、なんてアオは苦笑いを浮かべた。
「桃華と、キスしてたし、ね…アオは」
私の言葉に、アオは固まる。
驚愕を顔に張り付けて、私を見つめていた。
「マジ、で…? ユエ、それ見て…」
「…見た、よ? むしろ、見せつけられた…というか…」
アオは私を抱きしめていた手を離し、肩を掴んでくる。
一体どうしたのかと思ったら、彼は真剣な顔で言った。
「ユエ、現実に帰ったら消毒させて」
「…良いよ。あと、桃華にキスマークも付けてたから…私にも、付けてね?」
マジか、と更にショックを受けて、アオは自分の顔を覆う。
まぁ、敵とはいえ妹とキスするわ、キスマークつけるわで、アオにとっては有り得ない事なんだろうけど。
「あれ、アオだったの、かな…。一人称は俺になっていたし…むしろ、夕陽君っぽかったよう…な」
「ユエ、まだ喉痛めてるだろ…君は僕の精神世界の人じゃないから、回復させてあげられないんだ。ごめんね」
アオが申し訳なさそうに謝るので、私は首を横に振り、自分の喉へ回復魔法をかける。
そういえば、ここでも魔法使えたんだっけと思い出して。
緑の光が私を照らし、喉の痛みも、押さえ付けられて傷んだ皮膚も、何もかも治っていく感覚がした。
そんな私を見て、アオはホッとした表情をする。
先程の私の疑問へ、アオは答えてくれた。
「ユエ。それはそうなんだよ。魔王の遺物の力で、僕自身の人格は封じられていたし。君が拾ったあの本。復元してくれたよね? あれに封じられてたんだよ、僕の人格」
あれ、と言われ、アオに首を絞められた時それを手放していたっけ、と今更ながらに思い出す。
「…私、グッジョブ?」
「本当ナイスだったよ、ユエ。あぁ、もう!! 本当大好きだ、ユエ!! 僕の彼女最高!!」
強めに抱きしめられ、私は驚いてアオを見る。
こんなに感情的に喋る事、あんまりなかったんだけど。
いや、時々はあったよ?
ここがアオの精神世界だからなのかなぁ?
感情表現、大袈裟。
そして私はふと、あの桃華と抱き合っていたアオを思い出して彼に言う。
「アオ、あのね。私がアオ達を見た時、大きなベッドの上で抱き合っていたんだけど…見た感じ、体の関係…まだっぽそうだったんだよね。もしあったら、どうする?」
「あったら? 僕は君を殺して自害する。今世でなく、来世で君と幸せになる。前世で恋人で、今世でも会えたんだ。きっと来世だって、君と出会って恋に落ちる。なんで僕の初めて、桃華にやらなきゃいけないんだよ。全部ユエにあげたいのに…!!」
ギリッ、と歯を食いしばり、嫌そうな顔をするアオの胸に頬擦りする。
彼は私の頭を優しく撫でてきた。
その動作だけで、私は嬉しくて微笑む。
私が愛おしいと、言ってくれているのも同然だったから。
「帰ったら、検査してもらったら?」
「そうする。次あいつに会ったら八つ裂きにして、殺してやる…っ!!」
本当に嫌そうに言うアオにキスをする。
唇を離すと、彼は私に微笑んだ。
「もう時間っぽいね。ユエ、愛してるよ。前世も、今世も…来世も。ずっと君だけを愛してる」
アオの精神世界が、白く染まっていく。
その言葉がお別れの言葉っぽくて、私は彼の服を掴んだ。
「アオ…ちゃんと、戻ってきてね」
「それは勿論。ユエと仲直りできたんだ。精神崩壊したままで帰るわけないだろ。待ってて、必ず戻るから」
笑うアオに、私も笑い返す。
視界が真っ白に、染め上げられた。
◆◆◆
目を開ける。
朝の光なのか、窓から入った日差しが私を照らしていた。
ふかふかのベッドに、アオと手を繋いで寝かされていたようで、私は隣で眠る彼の顔を見る。
「ユエ、起きたか」
アオと一緒だけど少し高めの声に、私はアオと手を離さず、そちらを振り返った。