「シンク…ここ…」
「グンジョウの寝室。いやぁ、あの後大変だったぜ? 外の掃討を終えた母様達が、俺らんとこ来てさ。俺の術式に怒った母様が、お前とグンジョウの手をリボンで縛った後俺引き剥がして、お説教されたんだよ。その術式は寿命使う物だから、安易に使うなって」
自分も使ったくせにな、なんてケタケタ笑うシンクだったが、私は驚いて言葉を失う。
あれ、寿命使う物だったの?
ならユタカに悪い事をした。
むしろ、私のを使ってくれたら良かったのに。
私の表情を見てか、シンクは苦笑した。
「あれ、術者本人のを使うから対象の寿命貰うわけにはいかねぇんだよ」
「なら、今あげる。私は、ユタカを悲しませてまで、貴方を犠牲になんてしたくない。貴方が負った代償は、私が払います」
私はシンクに手を差し出す。
いやいや、と彼は首を横に振った。
「んな事したらグンジョウが…それに、寿命貰う方法なんて俺は知らな」
「私の伴侶を助ける為です。それに、それは嘘だよねシンク? 嘘をついた時の癖、アオと一緒とか。本当に、同一人物なんだね、貴方」
クスクス笑う私に、シンクは困ったような顔をする。
アオは嘘とかは言わないけど、誤魔化そうとした時に右下をよく見る癖がある。
それを今、シンクがやった。
なら、寿命を渡す方法を彼は知っているという事だ。
「…ユエ、お前さぁ…」
「シンク。お願い。それに、寿命を渡せば…それだけ、アオと一緒に逝ける可能性が高まるって事だから。私は、出来れば彼と同じ時に死にたい。置いていかれるのも、置いていくのも、私は嫌だ。私、結構我儘なんだよ、シンク?」
それは知ってるよ、と彼は言い、アオの方を見る。
なんでアオを見るのだろうと疑問に思うと、シンクはアオに問いかけた。
「お前、それで良いのかよ」
「…寝たフリは、君の前では無理か。いやぁ、ユエは騙せてたんだけどなぁ」
私はアオの方に顔を向ける。
目を開けたアオが、私に笑いかけた。
「おはよう、ユエ。あと…ただいま」
「アオ……アオ……っ!!」
私は起き上がり、彼に抱きつく。
涙がボロボロ溢れ、嗚咽を漏らした。
アオだ。
私の知ってるアオだ。
私の大好きな愛しいアオが…戻ってきてくれた。
彼は私の背を撫で、シンクへ困ったように言う。
「凄く泣かれてんだけど…どうしよう…」
「お前が原因だろうが、ばーか」
呆れた声で、シンクはアオを馬鹿にした。
いつもだったら、そう言ったシンクに私は噛み付くのだが、今はアオが帰って来てくれた事がとても嬉しくて、涙が止まらない。
「ユエ、泣かないで。僕の大好きなユエ。君に泣かれると正直困る」
「誰のせい、なのよ…っ!! アオの馬鹿ぁ…っ!!」
僕のせい、と彼は苦笑して、私を抱きしめてくれる。
そんな私達を見て、シンクは肩を竦めたようだった。
「で、さっきの質問。お前、ユエに寿命渡させていいのかよ?」
泣き止んだ私ごとアオは起き上がり、シンクの問いかけに私の頭へ顔をくっつけたまま答える。
「うーん…僕的には嫌だし、何なら僕の寿命を渡すんだけど…それは、ユエが望まない事だ……僕は、ユエの決めた事を尊重したい。僕と一緒に死にたいというのなら…僕は、その望みを叶えさせてあげたい」
私へ微笑みかけるアオに、私も笑い返す。
頭をガシガシ掻いたシンクは、掻いていない方の手を私に差し出してくる。
とても、寂しそうな微笑で。
「まったく…うちの義姉ちゃんも困った奴だよな」
「…そんな我儘を聞いてくれる義兄さんが、大好きだよ」
ユエ?
と、私を抱きしめてくる腕の力が強まったけど、自分に嫉妬しないで欲しい。
別に異性としてシンクが好きなわけじゃない。
ユタカの将来の夫として、そして私の義兄になる人として、人間的に好きなだけだ。
軽口を言い合える、友達として好きなだけだ。
アオに向けるものとは違う。
「お前さぁ…本当、自分の事棚上げしすぎじゃね?」
呆れた目を向けながら言うシンクに、アオは少し眉を寄せながら目を伏せる。
「…そこ突かれると痛い…っ!! うん、ユエに何か言える立場じゃなかったわ、僕…」
がくりと肩を落とし、私に頬擦りしてくるアオに、私は笑った。
シンクの手を取ると何か吸われる感覚がして、体が急に怠くなる。
これが、寿命を吸われるという感覚なのかと、私は頭の片隅で思った。
「…アオ…ごめん…眠い…」
「うん、良いよ。お眠り、ユエ。僕の愛しい君。君が起きるまで、隣にいるからね」
優しいアオの声を聞きながら、私は眠りに落ちる。
次に目覚めた時、絶望が目の前に現れないよう、願いながら。
◆◆◆
ユエが寝息を立て始めた時、僕はシンクに問う。
「寿命、吸い過ぎたんじゃないか?」
「削った分だけしか貰ってねぇよ。それよか、グンジョウ。お前大丈夫かよ」
ベッドに腰掛け、僕を心配してくれるシンクへ頷く。
「大丈夫、何も問題はない。ユエが僕を助けてくれたから。魔王の遺物も、僕の中で殺しきった。もう…本当に、僕の彼女最高じゃない?」
「へいへい。惚気乙。まぁ、精神的に成長出来たんじゃね? お前、後で謝罪行脚行けよ。ユタカ達、滅茶苦茶心配してたからな」
そうするよ、と答えると、シンクは立ち上がり僕の部屋を出て行った。
ユエと二人きりになり、僕は彼女の寝顔を見る。
とても安らかに眠っているが、瞼が赤くなって、頬にも涙の跡があった。
僕の事で、とても泣いて、とても心配させたのだろう。
「ユエ、ごめんね。助けに来てくれてありがとう。迎えに来てくれて、ありがとう。僕の愛しの君。本当に、君以上の女性なんて何処にもいないよ」
寝ているユエをベッドに寝かせ、その唇を奪う。
そして約束通り、彼女の首筋にキスマークをつけた。
後でカヅキおばさんに検査してもらわなきゃ…変な病気もらってたら嫌だし。
僕はそう思いつつ、キスマークを付け続ける。
起きたユエから、付け過ぎだと怒られてしまったが。
ユエ視点終了
次からはグンジョウ視点に戻ります