シルフ2の月。
甘い匂いがするこの時期、僕はユエと指を絡めて下校していた。
今年も大量のチョコをユエが預かってくれて、彼女はケーネ君に送り付けたらしい。
まぁ、僕はユエからのチョコ以外はいらないので、そのチョコの行方なんて興味はないのだが。
一応宛先に、城からお礼が送られてはいるだろうけど。
「アオ、なんかご機嫌だね?」
僕を見上げ、ユエが尋ねてくる。
あの日から僕らの仲は、とても睦まじいものになった。
お互いの気持ちを確かめ合ったのもあるけど、僕があんな状態だったのに、それでも諦めず僕を助けに、迎えに来てくれた彼女に、惚れ直したのも大きい。
僕の彼女最高、マジ天使、女神の生まれ変わり過ぎる。
「そりゃ当たり前でしょ。愛しい彼女と学校帰りに手を繋いで、しかも誕生日プレゼントとして貰ったマフラー巻いてるんだから。顔もニヤけるよ」
「…結構不格好になっちゃったけど…嬉しい?」
勿論、と僕は返し、マフラーに頬擦りする。
あの日、謝罪行脚した後、僕の部屋をユエが訪ねてきて、マフラーを差し出してきた。
約束してた誕生日プレゼントだ、って。
そして、誕生日のパーティーで酷い事してごめんなさい、ともう一度謝られた。
ノーム1の月に言ってた事かと思い至った僕は、それを受け取りつつ彼女を抱きしめる。
大好きだと、ユエに伝えながら。
「愛しい婚約者から、初めて贈られたものだし」
「…婚約者になる前に、何回か贈り物してたんだけど。アオ、私の事嫌いだったもんね?」
そこを突かれ、僕はウッとなる。
僕は彼女の方を見れず、だが反論した。
「だって、しつこかったから…。やめてって言っても、諦めずに僕に突撃してくるから…贈り物は全部取ってはあるけど」
「そうなんだ…って、いや、うん…その節は、大変申し訳なかったというか…よく、私を好きになったねアオ? 嫌ってたはずなのに」
僕は彼女に惚れたきっかけを思い出す。
淑女教育を終え、自分を使えと言いながら僕を見つめる紅の瞳。
芯の強さを秘めたそれに、僕は心を射抜かれてしまったのだ。
「うーん…その紅の瞳かな。ほら、ユエ覚えてる? 淑女教育を終えた後僕らに会ったろ?」
ユエに顔を向け、僕は苦笑する。
それだけで、彼女は察したようだった。
「…もしかして、その時なの? アオが、私を好きになってくれたの…」
あの時と同じ、紅の瞳が僕を見つめる。
変わったのは、盲目的な愛を秘めた瞳ではなく、僕を愛おしいと、慈しみを込めた瞳になった事。
僕も、君が愛おしいよユエ。
こんなに自分が変わるなんて思わなかった。
君が、僕を変えてくれたんだ。
「うん、まぁ…」
「そっか…へへ…嬉しいなぁ…。私、あの時記憶思い出してて、アオが夕陽君だって気付いてたんだ。だから、アオが幸せに…私を、雪那を思い出さずに、幸せになってくれたなら…私はそれだけで良かったんだ」
寂しそうに笑うユエに、僕はキスをする。
驚いた彼女は目を閉じる事も出来ず、僕を見つめていた。
「…アオ、我慢しようって…言ってたのに…」
「いやぁ…なんかあれ以来、冷静になれてるみたいで…精神的に成長した、のかな?」
はは、と笑う僕だったが、ユエは顔を膨れさせて僕の胸をポカポカと殴ってくる。
「アオだけずるい! ずるいずるいずるい…っ!!」
「いや、ずるいって言われても…ユエ、その怒り方可愛い。君は何もかも可愛いね。好きだよ、ユエ」
僕はされるがままになりながら、彼女を口説く。
ピタリ、と動きを止めたユエを見ると、彼女は頬を染め、狼狽えていた。
「アオ、ここ、道…っ」
「わかって言ってるけど? 僕のユエ。少しは慣れてよ、僕の未来の奥さん」
そう言うと、ブワッと顔を真っ赤にしたユエは脚力強化をして僕から逃げる。
瞬時に点になってしまったユエを見て、僕は笑った。
「僕から逃げられると思ってるの、ユエ? 君が転生者の娘だろうが、絶対に追いついて逃がさないから」
僕も脚力強化をし、ユエを追いかける。
まぁ、結果は分かりきっていて、僕より先に寮に辿り着いたユエは、自分の部屋に閉じこもって鍵をかけてしまった。
「グンちゃん…何したの…」
「道端で口説いた」
ユタカに呆れた目を向けられてしまって、僕は苦笑する。
そんな僕から顔を部屋の中へ向け、ユタカはユエに声をかけた。
「ユエー? グンちゃんに帰ってもらうー? それとも天の岩戸ごっこでもする?」
「するわけないでしょ?! 恥ずかしいから、訓練まで会わないっ!!」
だって、とユタカが苦笑いを浮かべる。
まぁ、そうなるだろうと思っていた僕は、大人しく引き下がる事にした。
「ユエ、まだ子供だねぇ。グンちゃんは成長したっぽいのに」
「そうかな? 君に比べたらまだまだだよ。じゃあ、僕は帰るけど…ユエ! 部屋に来たかったら来て良いからね!」
行かない、と大声で断られてしまう。
僕とユタカは、お互いを見て苦笑した。
「ごめんね、グンちゃん。ユエが意地っ張りで」
「そんな彼女も愛おしいと思っているよ。多分、僕が帰った後泣くと思うから…ユタカ、よろしくね」
任せて、というユタカに僕は手を振り、部屋へ帰った。