訓練の後、カヅキおばさんから明日の休みに、ある家に行くよう言われる。
その場所を聞き、僕らはゲンナリした。
「ママ…それマジで言ってる?」
ユエがおばさんに尋ねるが、おばさんも眉を寄せて本当に嫌そうなため息をつく。
「じゃなきゃ、お前らには言わんだろう。私だって、あんな奴の家になんかお前らを送り込みたくねぇよ。でもなぁ…」
カヅキおばさんは、母様を見る。
見られた母様は、首を傾げた。
「あたしがなぁに?」
「お前、ベルナールの所に行くとか言ったよな?」
僕らはマジか、と母様を凝視してしまう。
ベルナール家の現当主、グレゴワール・セレンディバイト・ベルナール。
彼は母様に初めて会った時から、母様に執着している二人のうちの一人である。
母様に何らかのパーティーで会う度、父様が横にいるのにも関わらず母様を口説き、最初期は自分は王だから穏便に事を済ませよう、と考えていた父様の堪忍袋の尾を引き千切る勢いで母様に接近するものだから、最近では母様を口説こうとした瞬間父様の魔法が発動するか、カヅキおばさんがベルナール卿を阻むかになっていた。
よく懲りもせず同じ事をやるなぁ、なんて毎度見る度に思ってはいたのだが…。
もう一人は、隣の国であるオーシア王国の勇者である、沖田青葉。
彼もベルナール卿と同じく母様に会う度に口説こうとはしていたが、大体女王陛下と共に来ていて、彼女に抑えられ母様とあまり話せないようだった。
父様は表情を取り繕ってはいたが、勇者が母様を見ている間は眉が吊り上がっているのが常だ。
まぁ、彼は滅多にこちらには来れないから、実害はないとしても。
「行くって言ったけど…グンジョウ達が行くより、あたしが行った方が話がすんなり通りやすいと思って…」
「んなわけねぇだろ。毎度毎度お前がパーティーで口説かれてて、そのせいでナズナの機嫌がクソ悪くなってるの知ってるくせに…そんなに行きたいんなら、ナズナの許可取ってから行け」
うぐ、と母様は言葉に詰まり、目を泳がせる。
父様の機嫌が悪くなった翌日、母様は寝室から出て来れない事が多かったので…まぁ、お察しではあった。
僕はユエにそんな無茶させたくはないけど…嫉妬に狂ったらするかもなぁ。
二人の様子を見ながら、手で口元を隠しニヤリと笑う。
「アオ、顔。なんで笑ってるの?」
「気になるなら読み取れば良いじゃん」
僕に触れて思考を読み取ったユエは、少し顔を赤らめて僕の腕を思い切り叩いてくる。
「アオのえっち!!」
「…結婚したらするんだから、別に…いって!!」
今度は背中を蹴られたので、僕は前のめりに倒れそうになった。
僕らの痴話喧嘩に、他のメンバーはまたかという顔を向ける。
それでも、ユエを泣かす事態にはなっていないし、彼女のこれも照れ隠しだろうから、別段僕は気にしていない。
「アオの馬鹿っ! 馬鹿、ばーか!!」
「ユエ、語彙力…いたっ! 痛いって! 脛はやめて?!」
言葉では勝てないからと、僕に暴力を振るってくるユエだったが、流石に急所はちょっと困ったので、彼女の足を素早く掴んで上にぶん投げる。
「っ! きゃぁぁぁあっ?!」
まさか僕がそんな事をすると思ってなかったユエは、何の反撃もできず上空に飛ばされ、浮遊魔法を使う事なくそのまま落下してきていた。
「おー…グンジョウ、お前やるなぁ」
「お褒め頂いて有難いんですけど、ここは怒る所じゃありませんか? カヅキおばさん」
悲鳴を上げながら落下するユエを見ながら、おばさんは僕を褒めてくるが、娘の心配をした方が良いのではないだろうか。
僕は脚力強化をしてユエを途中で抱き留め、地面に着地する。
驚いて目を丸くし、僕を見つめてくるユエの額にキスを落とした。
とりあえず、みんなから背を向けているから見えてはいないはずだ。
「…し、死ぬかと思った…」
「君を死なすようなヘマ、僕がするとでも? それに、なんで浮遊魔法使わなかったの?」
疑問に思って尋ねてみたが、ユエはハッとなり、
「…驚きすぎて、忘れてた…」
と、ポツリと呟くように言った。
「シャナじゃあるまいし…」
そう言うと、どういう意味だ、と後方から怒鳴り声が上がる。
そこの部分だけ聞こえていたようで、僕はシャナの方を振り返った。
姉はツルギに羽交い締めにされてて、こちらに来ようと暴れている。
「ツルギ君、離して! あの馬鹿、彼女ぶん投げて平然としてるとか、頭おかしいんじゃないの?! グンジョウ! お姉ちゃんそんな子に育てた覚えないよ?!」
「シャナ…確かに、原因は殿下かもしれないが…それでも、暴力に訴えた、のは…ユエの、方だ」
それはそうなんだけど、それシャナに理解出来るんだろうか。
あと誰が育てた、だ。
逆だよ、逆。
僕が姉を育てたと言っても過言じゃねぇよ。
「また失礼な事考えてるー?! グンジョウ、そこに直れ!! 根性叩き直してやる!!」
「シャナちゃん、まぁまぁ…ツルギの言い分も正しいし…ユエも何見たか分かんないけど、グンちゃんに暴力はダメだって」
ユタカに指摘され、ユエはグッと押し黙った後、僕に小声で謝ってくる。