「私染めた事ない」
「私も」
ユエとユタカも、自分の髪を触りつつそう言う。
むしろ、君達は染めないで欲しいと思ってしまった。
綺麗な黒髪なのに、勿体無い。
「ユタカに色目使うなよ」
「使ってない。黒髪が綺麗だから、染めたら勿体無いと思っただけだ」
シンクが釘を刺してくるが、色目を使うならユエにするわ。
それに、ユタカの髪はユエと違って少し猫っ毛っぽく、光に当てるとそこだけ栗色に見える事があった。
ユエは艶やかな黒髪で、烏の濡れ羽色とでも言うのか、抱きしめるとその髪がサラサラと僕の顔に当たり、とても心地良い。
ともかく、二人には髪を染めるなんて事して欲しくないと、そう思っただけなのだが。
シンクからの嫉妬が凄いけど、気持ちは分かるからそれ以上僕からは何も言わない事にする。
「あの、殿下…求婚って…ベルナール卿、結婚してらっしゃらないんですか…?」
僕達の染髪の話を遮り、ツルギが小さく挙手しながら質問してきた。
まぁシャナが標的になるって聞いて、いてもたってもいられなくなったのだろう。
「いや? 奥方はいらっしゃるよ。パーティーでも連れて来てはいるんだけど…奥方放り出して、母様を口説きに行くから…僕らがここへ来た事に、良い顔はしないよね…」
「うちの国、重婚認められてるからね。男性にだけだけど。だから、奥方いても側室にって女性を娶る人は一定数いるんだよ、ツルギ君」
シャナが肩を竦め、やれやれと首を振る。
ひいお祖父様の時代で制定された法律だとは言うが、どうにか覆せなかったのだろうか父様は。
おかげで未だに、側室にどうかと父様宛に来る事も多々あり、それを見た母様が笑顔で見合いの書類とか握り潰していたりするのに。
これだけ産んでるのに、まだ足りないっていうのか!!
と、この間キレ散らかして、父様とカヅキおばさんに宥められていたっけ。
ツルギは姉の肩を掴み、真剣な顔で言った。
「俺は、シャナ以外を娶るつもりは全くないから、安心して欲しい」
「いや、あの…そこは心配してないっていうか…その…」
彼の言葉に赤面したシャナを、今度は僕が呆れた目で見る。
目の前でいちゃつかないで貰えないだろうか。
ユエも期待した目でこっちを見ないで、お願いだから。
人ん家の前でやる事ではないだろ、これ。
僕はため息をついて、今まで成り行きを見守ってくれていた門番に声をかける。
「王の命を受け、参った。通してもらえないだろうか」
「お話はお館様から伺っております。どうぞ、殿下方」
門番が門扉を開けてくれ、僕らはベルナールの敷地内に進入した。
屋敷までの道は一本道なので、趣味の悪い庭を無視しながら進む。
屋敷の扉の所にも番の兵がおり、こちらにも話がいっていたようで屋敷内にある応接室まで案内してくれる。
道中、廊下にも自分の肖像画やら彫像やらがあり、こんな趣味でよく母様を口説こうと思ったなと、逆に感心した。
〈アオ、ごめん…ベルナール卿の趣味が悪すぎて、気分悪くなってきた…〉
〈大丈夫? 吐きそう?〉
僕の腕に抱きつき、ユエは首を少しだけ横に振る。
その顔は若干青ざめていた。
〈吐いたって胃液しか出ないし…女の子にそう聞かないでほしい…でも、ちょっとだけ抱きつかせて…気分悪すぎて目を閉じたいの…〉
〈それはごめん。良いよ、誘導するから〉
僕はそっと彼女の腕を外し、肩を抱き寄せる。
こっちの方が安定するからなのだが、目の端に映ったユタカもユエと同じ状態になっているようで、シンクが心配そうに彼女を見つめながら、ゆっくりとした歩幅になっていた。
「どうしたの、二人とも」
「気分悪くなったみたい。シャナは平気?」
ユエとユタカの様子を見てシャナが首を傾げながら僕に聞いてくる。
なので、そう答えながら姉に問いかけた。
「あたし? やだなぁ、グンジョウ。これで気分悪くなってたら、王室で生きていけないって。そんな事になったら、あたし深窓の令嬢扱いだよ? 趣味が悪い子息どもの相手してたの忘れた?」
「忘れてないよ。そうだね、成金息子共がシャナに群がってたけど、平気な顔をしていたもんね…。ユエ、無理そうなら一回帰るかい?」
シャナの話を聞いて、ユエはフルフルと首を横に振る。
負けず嫌いが発動したようで、僕は苦笑しながらシンクに言った。
「シンク。ユエとユタカを連れて一回離脱しろ。ユエ、平気になったら戻っておいで。その間に話は進めておくからね」
「やだ、アオ…っ!」
あいよ、とシンクは言い、ユエの肩に手を置く。
自分に抱きついていたユタカごと、弟はユエを連れて何処かへ転移して行った。
それを見ていたシャナは僕に尋ねる。
「良いの、グンジョウ? あとでユエちゃん拗ねるかもよ?」
「そこはシンクがフォローしてくれるだろ。今は目の前の問題に集中したい。後はどう父様に報告するかが、僕にとっては一番の問題ではあるけれど」
本当にこの成金趣味何なんだよ。
ナルシー気取ってんじゃねぇぞクソが。
報告するこっちの身にもなりやがれ。