僕は盛大なため息をつき、案内役の兵と共に応接室へ向かった。
◆◆◆
「やあやあ!! よく来たね、シャナちゃん! グンジョウ君!! おや、シンク君はいないのかね?」
「どうも、ご無沙汰してますベルナール卿。弟は自分と僕の婚約者が気分を悪くしたので、少し彼女らを連れて席を外して貰っています」
両手を挙げて、テンション高く言うベルナール卿に、僕は愛想笑いをしながら挨拶をする。
相も変わらず声はデカいわ、意思表現は大袈裟だわで、この人を好く人などいるのだろうか、と思わざるを得ない。
「そうかい? まぁ良いさ。シャナちゃん、イメチェンしたのかい? その髪色も可愛いね! さて、今日はどんな用事で来たんだい? あぁ、皆まで言わなくてもわかるとも! 我が家の見物だろう? まぁ、我が家は見る所は沢山あるからね! あぁ、僕の才能が恐ろしいよ! 普通にしていたはずなのに、我が家が観光地になってしまうなんて…!!」
「あー…まぁ、その解釈で良いです…」
捜索だの何だのと言えば、また喧しい事になるだろう。
あと、シンクの言う通りシャナの髪色を蒼にしてなくて良かった。
ボソッと、イメチェンするならシャルロットさんと同じ髪色にすれば良いのに、と聞こえたからだ。
「では、今から始めても宜しいでしょうか?」
「勿論だとも! 未来の息子の頼みを断る父親が何処にいると言うのかね?」
誰が未来の息子だボケ。
僕の父親は、ナズナ・エキザカム・ブリリアント以外いねぇよ。
母様だって、再婚するとしてもあんた以外を選ぶわ。
あぁ、立花製のボイスレコーダー買って来れば良かった…謀反の言葉ばっかりじゃないか。
そう言いたかったが、僕はニコリと笑い彼に言う。
「ベルナール卿、二つ程忠告を。まず一つ。領民の税を、あまり自分の為に使わない方が身の為だと言っておきます。税収が増えていない以上、この屋敷の贅…一体何処からの資金で揃えたのでしょうか? それと、二つ目。先程の発言は不敬と捉えられます。陛下に知られたら、いくら21貴族といえど処罰は不可避でしょう。聞かなかった事にして差し上げますので、僕らの邪魔だけはしないようお願いしますね。では」
ポカーンと口を開けて呆けているベルナール卿にそれ以上声はかけず、僕らは応接室から出る。
扉を閉めた後、シャナがニヤリと笑った。
「何?」
「いや? 言うようになったなぁ、とお姉ちゃんは感心しているんだよ。王太子の貫禄出てきたんじゃない?」
なんだ、王太子の貫禄って。
まぁ、情けない所ばかりで、シャナに迷惑をかけまくってるけど。
「姉君にとって合格点?」
「んー、まだまだ。父様みたいに、もうちょっと威厳出しなさいな。グンジョウは王太子なんだから、偉そうに周りに言う権利はあるよ。まぁ、行き過ぎは厳禁だけど。ダメだったら注意するのは父様や母様だし」
限度はあるだろうに。
それに、偉そうに周りへ命令出来るかって言われたら…まぁ、出来るだろうな。
王太子モードの顔で、だけど。
「さて、ユエ達が戻ってくる前に少しでも捜索範囲を狭めておこう。シャナ、ツルギ。行くぞ」
はーい、とシャナは間の抜けた声を、ツルギは短く返事をして、まずはベルナール卿の寝室エリアを捜索する事にした。
本来なら立ち入りたくも無いのだが、ここに魔王の遺物があるかもしれないとなれば、探さないなんて選択肢はない。
奥方の部屋へは、ベルナールのメイドと共にシャナが入って探してくれたが何も無かったようだ。
シャナに何かあっては嫌なので、ツルギに残ってもらうよう告げ、僕はベルナール卿の寝室に入る。
「うわ…」
部屋の壁紙が青一色。
ベッドも青。
カーペットも青。
ベッドの中には、ベルナール卿が作ったのか母様の姿がプリントされている抱き枕があり、僕はドン引く。
僕は扉を少し開け、外で待っているシャナに言った。
「ベルナール卿の部屋、気っ持ち悪ぃ…」
「そんなの、相手の反応とか性格鑑みればわかる事でしょ。頑張れグンジョウ。別にあたしが入って探してもいいけど」
いや、良い。
僕は首を横に振りつつ、そう言って扉を閉める。
いくら母様が好きだからといって、ここまでは流石に狂気を感じるレベルだ。
父様でも、ここまでは無い。
むしろこれを父様がやった時点で、母様は父様に三行半を突きつけ、テスタロッサに帰る事だろう。
自分の父親が妻を狂愛していなくて本当に良かったと思うのと同時に、本当にこの部屋が気持ち悪すぎて奥方も寝室を分けたのだろう、と思い至った。
普通なら夫婦は寝室など分けず、共に眠りにつくものだから。
どれだけ相手が、別の誰かを想っていたとしても。
「さて…」
気持ち悪いし触りたくも無いけれど、仕事だと割り切って探すとしよう。
後でシャナに浄化魔法でもかけてもらおうかな、とか思いながら。
まぁ見当通りというか、結果的に何も見つからず、僕はベルナール卿の寝室を後にする。
「アオ…っ!」
ユエが僕の名前を呼びながら、こちらに向かって来ていた。