どうやら気分の方は良くなったようで、シンクやユタカ達も戻って来ている。
僕は手で彼女を制して、待つように言った。
「シャナ、浄化魔法かけて。気分悪い」
「そんなにだったの? えーと…」
シャナは魔法陣を僕の上に展開し、それを下に降ろす。
多分これでオッケーと姉が言うので、僕はユエに向かって手招きした。
「アオっ! ごめんなさい、迷惑かけて…っ!!」
抱きついてきた彼女を抱きしめ、その頭に頬擦りする。
ユエが使ってるシャンプーの匂いだろうか?
甘い匂いと彼女の体の柔らかさに、先程まで気分が悪くなる部屋にいた身としては、とても癒された。
「それは大丈夫だけど、もう気分平気? …ユエ? 泣いたね、君?」
ユエの頬に手を添えて、僕は彼女を見つめる。
目が潤み、その目元が赤くなっていた。
僕はチラリとシンクを見る。
「泣かせたの俺じゃねぇからな」
泣かせたろ、という目線だとでも思ったのか、シンクは少し眉を上げて抗議してきた。
そんなつもり一切ないんだけど。
「それは分かってるよ……ユエ? 僕に迷惑をかけたと思って泣いたのかい?」
そう問いかけると、彼女は僕の胸に顔を埋めてしまった。
何も言わないあたり、僕は肯定だと受け取る。
ユエが僕の服を握りしめる感覚がして、彼女の頭を優しく撫でた。
「迷惑なら、ちゃんとそう言うから。ユエ、気分は大丈夫? まだ無理そうなら、一回宿泊予定のホテルに帰る?」
「…大丈夫。ごめんなさい、アオ…あの、我儘…言っても良い?」
僕は目線を上げ、皆を見る。
やれやれと肩を竦めるシンク、苦笑しているツルギとユタカ。
シャナに至っては、早く行ってこいと追い払うような手の動きをしていた。
「良いよ、言ってごらん?」
途端景色が変わる。
ベルナール家の屋根だろうか、趣味の悪い庭が眼下に見えた。
「…キスして欲しい。それで、元気になるから…」
「…夜まで待てなかったの、ユエ? まったく…僕の姫は、甘えてくる時はいつも以上に可愛いね」
彼女の顔を上げさせ、その唇を奪う。
深いものに変えると直ぐさま肩を叩かれてしまった。
「そこまで、は…」
唇を離すと、それは望んでいないと彼女から言外に言われる。
顔を赤らめ、僕を見つめるユエがとても愛おしくて、彼女の額にキスを落とす。
「少しは慣れようよ、ユエ?」
「…慣れない…アオが格好良すぎるのがいけないんだもん…」
本当に僕の彼女可愛すぎないか?
顔を赤らめて目を潤ませ、目を逸らすその動作。
押し倒したい、その気持ち一択しかない。
まぁ、やらないけど。
自分的には、少し精神が成長したと思っているし。
ヘタレでは断じてない。
結婚したら、初夜でドロドロに甘やかす予定だからだ。
「あー…本当好きユエ。君を抱きしめてると癒される…」
「アオ…そろそろ戻ろ…?」
頭に頬擦りしながら言うと、ユエからそう言われてしまう。
その提案に、もう少しこのままでいたいと思った僕は、彼女の腰辺りを撫でた。
「ひゃ…っ?!」
「もうちょっと、ここにいない? ユエ…」
耳元で低く囁いてやると、顔を真っ赤にしたユエが僕だけ転移させ、皆の元に飛ばす。
途端、頭の中に彼女からの念話の声が響いた。
〈アオの馬鹿!! 変態!! すけべ!!
淫乱!!〉
「………」
あの、僕の何処が淫乱だって言うんですかね、ユエさん…。
少し頭が痛くなり、僕は自分の頭を押さえる。
「おー、お帰り。その様子だとお前、またユエに何かやったのか?」
僕の様子に、シンクがクックッと面白そうに笑いながら尋ねてきた。
人の痴話喧嘩を笑うものじゃ無いと、すぐにユタカから注意されていたが。
「…彼女の望みを叶えただけなんだけど…そうだね…罵倒されてる時点で、彼女に何かやったんだろう。
ユエ、あんまり念話でキーキー叫ばないでくれないかな…」
「ご愁傷様。あぁ、シャナ達は先に宝物庫の方調べて来るってんで、行っちまったぞ」
この場にユタカがいるという事は、シャナと行ったのはツルギだろう。
まぁ、ベルナール卿に襲われた所でツルギなら何とか出来るだろうし、魔法の腕ならシャナの方が上だ。
流石に、母様が手に入らないからと娘を狙う外道ではない…と信じたい所だが。
「そう…。じゃあ、僕らも捜索を始めようか。確かここ、娯楽室もあったよね? …ユエ、気が済んだかい?」
僕に罵倒しまくっていたユエが転移で戻ってくる。
彼女は少し気まずそうに、僕から目を逸らした。
「ユエ、またグンちゃんに何か言ったんでしょ。自己嫌悪に陥るならやめなって、あれ程言ったじゃない」
「ユタカ、良い。あれは僕が悪かった。ユエが動揺するのも無理はない。罵倒も受け入れよう。
さて…ユエ、ユタカ達と行動を共にすると良い。僕は1人で充分だ」
ユエに注意するユタカを止め、僕は首を横に振る。
戻ろうと言ったのはユエだったのに、それを止めたのは僕だ。
あの行動をしたのも僕。
彼女が動揺して、そんなアクションを取るのは無理からぬ事だ。
あ…とユエが小さく、不安そうな顔をしながら声を上げる。
それに、僕は苦笑した。