「罪悪感とか覚えなくて良いよ、ユエ。あれは僕が悪いと怒ってくれてて良いから。何やったかもユタカ達に話して良いよ。みんな君の味方をするだろうさ」
「はいはい、痴話喧嘩もここまで来ると夫婦喧嘩に昇華するな、これ。んじゃ、ユタカ。ユエのフォローよろ。こっちの馬鹿兄貴は俺が引き受けるからよ」
僕の肩に腕を回し、シンクは自分の恋人にそう言う。
任せて、とユタカは笑い、ユエの手を引いて歩き出した。
「…おい。ユタカ達がベルナール卿に襲われたらどうするんだ」
「あのおっさん、母様しか眼中にねぇだろうよ。それに手を出そうとするなら、シャナの方に行くはずだ。俺もそれを心配して、シャナに防護結界張ってあるしな。あのおっさんがシャナに触れた瞬間、弾き飛ばした挙句俺に通知が来るようになってる」
流石シンク、抜かりがない。
それに、と弟は言葉を続ける。
「ユタカ達に色目を使う事はねぇよ。あのおっさん、カヅキおばさんから会議だの何だので、コテンパンに打ちのめされてるからな。おばさんに恨みはあれど、その娘を襲おうなんて考えるはずねぇじゃん」
「腹いせに、娘へ仕返ししたらどうすんだ馬鹿」
やっぱり、今からでもシンクに向かって貰うべきかと考えたが、弟は首を横に振る。
「カヅキおばさんより、母様より弱いあのおっさんが、ユエとユタカに勝てるわけねぇだろ。今の二人の魔力量、ベルナール卿より多いんだぞ?」
「…ごめん、それ僕はどうなんだ? 二人よりは少ないと自認してはいるけど」
ベルナール卿よりは多いのだろうかと、疑問を口にした。
シンクはニヤリと笑い、僕の背を叩いてくる。
「少なくても、技術で圧倒出来るだろ兄ちゃん! それに、俺らの婚約者だぞ? 害したらどうなるかなんて火を見るより明らかだ」
「まぁ、それもそうか…あっちは娯楽室の方だったか? なら、僕らは客室を見て回ろうか」
おうよ、とシンクは返事をしてくれ、僕らは客室のエリアに向かった。
◆◆◆
ベルナールの屋敷って、そんなに広くないんだな。
客室のエリアに着いて捜索している時に、ふとそう思った。
結構色んな家に行ったりしていたが、捜索は今日中に終わりそうだなと思ってしまう。
今日中に終わるのなら、ベルナール領都を観光しても良いのかもしれない。
ユエとも仲直りしたいし。
後これは直感ではあったが、これだけ手狭なら桃華は多分襲って来ないだろう。
「…桃華といえば。何だっけ、ツェリと同じクラスだった…」
「セツナか? ツェリが退学になってオーシアに送られた後、あいつも退学したっぽいぞ。まぁ…お前が連れ去られた時、身体の損傷全く無かったんだが…あれどうなってんだ?」
シンクがカーペットの裏側とかを見ながら、聞いてくる。
それは僕が聞きたい事なのだが。
だが、そうか。
ツェリという隠れ蓑がいなくなってしまった以上、あの場所にいられなかったのか。
別の者を隠れ蓑なりすれば良かったのだろうが、彼女が魔王の遺物に侵食されていた事と、何か関係があるのだろうか?
「さてね。ここにも無い、か…」
ベッドの下辺りを見ていた僕は立ち上がり、部屋を見渡す。
何の変哲もない客室なのだが、こういう場所に限って地下への入り口だの、隠し扉があったりするから手に負えない時があるのだ。
「シンク、お前の星読みに何か引っかからないのか?」
「引っかかるわけねぇだろ。俺のは母様の劣化版だっての。見たい時に見れるわけじゃねぇからな?」
母様だって、欲しくてその力を手に入れたわけじゃないだろうな。
それはシンクもだろうが。
母様はあれからちょくちょく見えているようで、見えた時表情が固まっている気がする。
それに気付いて、父様が母様を気遣ったりしていた。
客室エリアを捜索している途中、白髪の老人に出会う。
「お久しぶりでございます、殿下方」
「久しいな、ベルナール老。息災にしているようで何よりだ」
僕がそう声をかけるとベルナール卿の父、カルデラは僕らに頭を下げてきた。
「この度は、我が愚息が殿下並びに王妃様方にまでご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。何分一人息子にて、甘さが出てしまったようです…庭や我が家の惨状を見ていただければお分かりかと思われますが、最近あれは暴走気味なようで…」
戦争で母様の影に隠れてしまったが、母様が現れる以前は武神と恐れられていたベルナール老は今もガタイが良く、今だ体を鍛えているのだろうと察せる。
そんな彼が僕らに頭を下げてきている事に、何とも言えない気持ちになってしまった。
「ここ最近なのか、あれ…」
少しずつ改装していったかと思われたのだが、最近なら相当金が動いたはずだ。
後程、ここの帳簿も見なければならないだろう。
仕事増やしやがって、あのクソ…!!
少し眉が吊り上がった僕に、シンクが肩を軽く叩いてくる。
「表情に出てるぞ、グンジョウ」
「…すまない。ベルナール老、ここの捜索が終わり次第帳簿を改めさせて貰う。拒否をするならば…わかるな?」
は、とベルナール老は更に頭を下げた。