こんな若輩者に頭を下げるなど、本来ならしたくもないだろう、と思う。
彼が一重に僕らへ頭を下げるのは、僕らが王族だからだ。
僕は未だ、王の器になれるような統率力も、精神性もない。
僕と同じ歳の頃、父様はお祖父様の代わりに政務を
それどころか、王太子として周りの貴族を統率してもいたのだとか。
僕は、そんな父様の後を継ぐ。
出来るだろうか、ではなく、やるしかない。
父様みたいな、王にならなくてはならないのだ。
一度目を閉じ、再び目を開けて僕はベルナール老へ声をかけた。
「
「は…重々承知しております、グンジョウ殿下」
顔を上げたベルナール老は、少し口の端を上げている。
何故そんな表情をするのか分からず、僕は眉を
「あぁ、いや…申し訳ない。陛下の若い頃によく似てらっしゃったもので。殿下達がお産まれになった時の事は、よく覚えていますとも。王妃殿下がとても苦しんでおられて、陛下が心配気に部屋の前を
「…カルデラは、僕らが産まれた時その場にいたのか?」
はい、と僕らのお祖父様みたいに、ベルナール老の目元が綻ぶ。
孫を見るような目だな、と思った。
「ちょうど陛下と謁見する予定がございましてな。まさかその日に、王妃殿下が産気づくとは思いませんでしたが…無事に殿下方がお産まれになった時、陛下は王妃殿下のお傍に行き、お身体を労わりながら泣いておられましたよ。よく頑張ったと仰っていました」
「そう、か…」
少し気恥ずかしさを覚える。
自分が産まれた時の話を聞かされるとは。
そしてその場にいたという事は、シンクがいなかった事もこの人は把握しているはずだ。
さて、どうしたものか。
記憶を弄るにしても、そんな技術僕にはないし。
シンクも出来るかどうか怪しい。
ここから帰った後、おばさんに報告しなければならないか。
「元気な
「……そうだったのだな。あぁ、シンクは幼い頃病弱で、僕らも会わせては貰えなかったんだ。つい最近、やっと健康体になったらしくてな。王宮に戻って来れたのだ。な、シンク?」
僕はシンクに話を振る。
三人、と言った時点で、この人は信頼出来る人物だと、確信した。
シンクの存在はひた隠しにされており、一年前に王宮に帰ってきた、と国中に触れ回っている。
何故と問われれば、シンクは産まれた時に極低出生体重児であり、すぐさま治療を必要としたからだ。
母様が実家であるテスタロッサに治療と療育目的で預けていた、と説明している。
だが、ベルナール老は僕らが産まれた瞬間その場にいたという。
なら、産まれたのは僕とシャナだけだと理解しているはずだ。
この人は王室がついている嘘に乗ってくれた、という事に他ならない。
それに、カヅキおばさんがベルナール老と会ったのは数回しかないはず。
その後ベルナール卿に代を譲っていたので、暗示をかける事もできないだろう。
代を譲って数年後にシンクがこちらに来たのだから。
「はい、兄君。幼少期はお祖父様やお祖母様が私を育ててくださいましたが、兄君達のお話は聞いておりました。会えた時は本当に嬉しく思いましたとも」
にこやかに笑うシンクに、僕も穏やかに笑いかける。
内心の顔は引き攣ってはいたが。
嘘つけ。
初めて会った時、ユタカといちゃついてただろうが、お前は。
何が嬉しく思った、だよ。
結構人を馬鹿にしたような笑い方してたろ。
そうですか、とベルナール老は言い、僕らの邪魔をして申し訳ないと謝りながらその場を去った。
「……お前、詐欺師になれるんじゃないか?」
ベルナール老の気配が遠ざかってから、僕はシンクに言う。
だがシンクは、僕の肩に腕を回しため息をついた。
「何馬鹿な事言ってんだよ、兄ちゃん。舌先三寸で引いてくれて助かったって見るべきだろ、これ。結構な覇気だったじゃねぇか。あー、おっかねぇ…現役じゃなくてもあれかよ。よくベルナール卿は逆らえるもんだ。俺怖くて言う事聞くわ、あんなん」
そんなにだったか?
僕には人のいい顔に見えたけれど。
帰ったら、父様達にベルナール老の評価でも聞いてみようか。
「引っ付くなよ。男にされる趣味はないぞ」
「俺だってねぇけどよ。いやぁ…こんな姿ユタカに見せらんねぇわ…」
本当に怖かったのか、シンクの顔は青ざめ少し震えていた。
あれで怖がっていたら、父様や本気で怒った母様はどうなると言うのか。
僕はそっちの方が断然怖い。