my way of life   作:桜舞

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216話『よく頑張った』

こんな若輩者に頭を下げるなど、本来ならしたくもないだろう、と思う。

彼が一重に僕らへ頭を下げるのは、僕らが王族だからだ。

 

僕は未だ、王の器になれるような統率力も、精神性もない。

僕と同じ歳の頃、父様はお祖父様の代わりに政務を(こな)していたと聞く。

それどころか、王太子として周りの貴族を統率してもいたのだとか。

 

僕は、そんな父様の後を継ぐ。

出来るだろうか、ではなく、やるしかない。

父様みたいな、王にならなくてはならないのだ。

 

一度目を閉じ、再び目を開けて僕はベルナール老へ声をかけた。

 

(おもて)を上げよ、カルデラ。別に僕らへ頭を下げる必要などない。ただ、お前の息子は流石に目に余る。あれは行き過ぎれば処罰の対象だ。一人息子だからと甘やかしたツケではあろうが、よく言い聞かせる事だ。あれの首をすげ替え、分家の誰かにこの家を引き継がせても良いのだ、と」

「は…重々承知しております、グンジョウ殿下」

 

顔を上げたベルナール老は、少し口の端を上げている。

何故そんな表情をするのか分からず、僕は眉を(ひそ)めた。

 

「あぁ、いや…申し訳ない。陛下の若い頃によく似てらっしゃったもので。殿下達がお産まれになった時の事は、よく覚えていますとも。王妃殿下がとても苦しんでおられて、陛下が心配気に部屋の前を彷徨(うろつ)いていましてな。私も妻の出産の時は、大層狼狽えましたとも」

「…カルデラは、僕らが産まれた時その場にいたのか?」

 

はい、と僕らのお祖父様みたいに、ベルナール老の目元が綻ぶ。

孫を見るような目だな、と思った。

 

「ちょうど陛下と謁見する予定がございましてな。まさかその日に、王妃殿下が産気づくとは思いませんでしたが…無事に殿下方がお産まれになった時、陛下は王妃殿下のお傍に行き、お身体を労わりながら泣いておられましたよ。よく頑張ったと仰っていました」

「そう、か…」

 

少し気恥ずかしさを覚える。

自分が産まれた時の話を聞かされるとは。

そしてその場にいたという事は、シンクがいなかった事もこの人は把握しているはずだ。

 

さて、どうしたものか。

記憶を弄るにしても、そんな技術僕にはないし。

シンクも出来るかどうか怪しい。

ここから帰った後、おばさんに報告しなければならないか。

 

「元気な三人(・・)のお子で…あぁ、シンク殿下はすぐ別の部屋に連れて行かれてましたな」

「……そうだったのだな。あぁ、シンクは幼い頃病弱で、僕らも会わせては貰えなかったんだ。つい最近、やっと健康体になったらしくてな。王宮に戻って来れたのだ。な、シンク?」

 

僕はシンクに話を振る。

三人、と言った時点で、この人は信頼出来る人物だと、確信した。

 

シンクの存在はひた隠しにされており、一年前に王宮に帰ってきた、と国中に触れ回っている。

何故と問われれば、シンクは産まれた時に極低出生体重児であり、すぐさま治療を必要としたからだ。

母様が実家であるテスタロッサに治療と療育目的で預けていた、と説明している。

 

だが、ベルナール老は僕らが産まれた瞬間その場にいたという。

なら、産まれたのは僕とシャナだけだと理解しているはずだ。

この人は王室がついている嘘に乗ってくれた、という事に他ならない。

 

それに、カヅキおばさんがベルナール老と会ったのは数回しかないはず。

その後ベルナール卿に代を譲っていたので、暗示をかける事もできないだろう。

代を譲って数年後にシンクがこちらに来たのだから。

 

「はい、兄君。幼少期はお祖父様やお祖母様が私を育ててくださいましたが、兄君達のお話は聞いておりました。会えた時は本当に嬉しく思いましたとも」

 

にこやかに笑うシンクに、僕も穏やかに笑いかける。

内心の顔は引き攣ってはいたが。

 

嘘つけ。

初めて会った時、ユタカといちゃついてただろうが、お前は。

何が嬉しく思った、だよ。

結構人を馬鹿にしたような笑い方してたろ。

 

そうですか、とベルナール老は言い、僕らの邪魔をして申し訳ないと謝りながらその場を去った。

 

「……お前、詐欺師になれるんじゃないか?」

 

ベルナール老の気配が遠ざかってから、僕はシンクに言う。

だがシンクは、僕の肩に腕を回しため息をついた。

 

「何馬鹿な事言ってんだよ、兄ちゃん。舌先三寸で引いてくれて助かったって見るべきだろ、これ。結構な覇気だったじゃねぇか。あー、おっかねぇ…現役じゃなくてもあれかよ。よくベルナール卿は逆らえるもんだ。俺怖くて言う事聞くわ、あんなん」

 

そんなにだったか?

僕には人のいい顔に見えたけれど。

帰ったら、父様達にベルナール老の評価でも聞いてみようか。

 

「引っ付くなよ。男にされる趣味はないぞ」

「俺だってねぇけどよ。いやぁ…こんな姿ユタカに見せらんねぇわ…」

 

本当に怖かったのか、シンクの顔は青ざめ少し震えていた。

あれで怖がっていたら、父様や本気で怒った母様はどうなると言うのか。

僕はそっちの方が断然怖い。

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