僕は少しため息をついて、身体強化をしシンクを担ぎ上げた。
「おまっ?!」
「大人しくしていろ。落ち着いたら降ろす。ユタカに見られたくないのなら、早々に回復して欲しいんだが。わかったな、シンク」
ちっ、と舌打ちしながらシンクは大人しく僕に運ばれる。
その状態で他の客室も見て回っていたのだが、ある一室だけ鍵がかかっている感覚がした。
ドアノブを回しても開かないのだ。
場所は客室エリアの一番奥。
この部屋に通されるのだとしたら、僕達みたいなベルナール卿より立場が上の者だろうが…。
「今僕達以外に、この屋敷を訪れている者はいたか? シンク」
「いや、いないはずだ。そこの予定は確認している。なんで鍵かかってんだ? 降ろせグンジョウ」
僕は言われた通り、シンクを床に降ろす。
弟は僕と同じようにドアノブを回し、ガチャガチャと音を鳴らした。
「いや、マジで鍵かかってんじゃん。部屋の中に人の気配はねぇし…どうするよ、グンジョウ?」
「どうもこうも、鍵借りて開けるしかなくないか? 王家から家宅捜索するって通達が来てるのに、鍵をかけておくなんて…やましい事があるって言っているようなものだろ?」
だよな、とシンクは鍵穴を見る。
少し唸った後、ポケットからおもむろにヘアピンを取り出した。
「…何でそんなもん持ってんだよ、お前…」
「あ? ユタカの髪セットする時に必要だろ?」
やってあげてんのか、お前…。
確かに、最近ユタカの髪型が可愛いものになってきてるな、とは見てたけど。
ユエがやってあげてるものだとばかり思っていた。
逆にユエは、ポニーテール一択だ。
前は下ろしていたけど、それで髪を切られた事があるせいなのだろうか?
掴まれたらすぐわかるように?
切られるなら一思いに、とか?
単に鬱陶しいからとか?
疑問が頭をよぎるが、まぁ彼女に似合う髪型ならどれも可愛いとは思う。
今度デートする際、髪型指定してみようかな。
服は僕からプレゼントするにしても。
着飾ったユエ、可愛いだろうなぁ…。
「手先器用だな、シンク…」
「お前だって出来るだろうよ。好きな女の髪いじるの楽しいぞ。シャナで練習させて貰えば? 二つ返事で練習台になってくれたし」
いつの間に。
そんな暇あったか?
…いや、シンクの事だ。
時とか止めて、その中でシャナに練習させて貰っていたのだろうか。
憶測ではあるけど、母様達と同じ事出来そうだしな、こいつ。
シンクはヘアピンを曲げたりして加工した後、鍵穴にそれを突っ込んだ。
「何やってんの」
「鍵開け。最近カヅキおばさんとこで覚えた。ベルナール卿も不用心だよな。こんな旧式の鍵、鍵なくたって開けようと思えば開けられるってのに。それか、魔法式の鍵。あれも暗号化されてはいるけど、解除コードなんてその手の魔法流せば一発でわかるしよ。これがディンプルキーじゃなくてマジ良かったわ。あれなら俺お手上げだもん」
鍵開け出来る時点で、お手上げも何もないだろうに。
あと、何でそんな技術持ってるんですか、おばさん…。
あれですか、篠原の侍従たるものそれくらい出来なくてどうします、とか言ってお祖母様に仕込まれたんですか…?
それ、うちの弟に教えてどうするんですか…。
何とも頭を抱えたくはなったが、今は目を瞑ろう。
ガチリ、と音が鳴り、シンクはヘアピンを鍵穴から引っこ抜いた。
「開いたぞ」
「うわー…うちの弟が詐欺師な上、泥棒の技術まで確立しちゃったぞー…」
何阿呆な事言ってんだ、と僕の肩を強めに叩き、シンクは扉を開ける。
程なくして閉めたが。
「なぁ、グンジョウ…俺もう帰りたい…」
「…アレより強烈なのがあったのかよ…僕だって帰りたい…ユエ達連れてくるか…?」
こんな部屋見せられるかよ、とシンクは言う。
僕も同意見ではあるが。
ちょっとここの部屋の捜索、僕ら二人だと精神的にきつい気がする。
「せめてシャナがいてくれたらなぁ…」
「そうだ、シャナ呼ぼう。死なば諸共だ」
言い方を考えろ、シンク。
姉を巻き込むのは非常に心苦しいのだが…やっぱり、こんな時頼りになるのはシャナ以外いない。
シンクが呼んでくれたのか、すぐさまシャナはツルギと共に転移してきてくれた。
「何、どうしたの? 男二人して、シャナいないと無理って。何事? グンジョウはともかく、シンクも無理って言ってくるって…」
「この部屋の中見て、シャナ…」
僕が指差した方向にあった扉を開けたシャナは、すぐさま閉め、僕らに何とも言えないような顔を向けてくる。
「何この部屋…」
「多分、ベルナール卿の趣味の部屋だと思う…。僕らが言った意味わかった?」
シャナはため息を吐きつつ、僕とシンクの頭を撫でてきた。
精神的にやられた僕らを慰めてくれているのだろう。
うちの姉優しい。
「シャナ…一体この部屋、何があるんだ?」
「見ればわかる」
そう一言だけ言ったシャナに、ツルギは首を傾げながらも扉をそっと開き、無言で閉めた。
僕らの心情がわかってくれたのか、彼は複雑そうな顔を向けてくる。