「あの…殿下方が無理そうなら…俺一人で行きますけど…」
「ツーマンセルが基本なんだから、一人行動はダメだよツルギ君。あと、ここグンジョウ達の担当なんだからね? あたし達が来たんだから、後であたし達の方も手伝ってよ?」
それは勿論、と僕とシンクは返事をする。
シャナが扉を開け、僕らは部屋の中へと入った。
その部屋は、母様だけで彩られていた。
入ると目の前には巨大な母様の肖像画。
額縁はやはり金で作られており、豪華な装飾を施されている。
部屋の中に置かれたガラス製のショーケースの中には、何処で手に入れたのか母様の毛髪や、いつ落としたか分からないハンカチ、母様が出先で口をつけたコップ、多分滞在先で着たバスローブ。
壁際には母様の彫刻など。
うちの城でもこんなでかいの飾られてないし、むしろ写真があるので描く必要性もない。
あるとしても写真がリューネに入る以前、そんな技術も何も確立されていない時代のお祖父様達の肖像画くらいしかなく。
そして、父様が見たら裁判など諸々をすっ飛ばして、すぐさまベルナール卿の首を落とすであろう物品が、所狭しと飾られていた。
「「きっつ…」」
僕とシンクは、同時に同じ事を言う。
一体いつから、なんてどうでも良い。
自分の母親の物が、本人の預かり知らぬ所でこうもコレクションされているのを知った身としては、気持ち悪い以外の感想がない。
自分の父親がこれをやったのだとしても引きはするが、それだけ母親を愛しているのかと納得はする。
知人程度の間柄であるベルナール卿が、やって良い事ではない。
「はい、呆けてないで遺物探しをする! あたしだって、一分一秒でもここにいたくないんだから!」
シャナの号令で、僕らは捜索を開始する。
ガラスケースを外し、コレクションに触らずクッションだけを退かしたり、彫刻の裏に何かあるんじゃないかと見ている最中の事だった。
甲高い女性の声に、僕らは捜索を止めてそちらの方向を見る。
「貴方方、何やってますの?!」
赤髪をキツく結い上げ一纏めにし、僕らを睨みつける目も鋭いその女性へ、僕は一礼した。
「お久しぶりです、ベルナール夫人。前にお会いした時は、ベジャール家でのパーティーの時でしたか」
「あら、王太子殿下でしたの? お久しぶりでございます。それに、シャナ姫殿下にシンク王子殿下もいらっしゃったのですね。ごめん遊ばせ、賊かと思いましたの。まぁ、ここの物を盗られたり壊されたりしても、あたくし何の不都合もございませんとも。えぇ、夫の物などこれっぽっちも、興味はございません」
扇子を取り出し口元を隠しながら、ベルナール夫人は僕らに向けてそう言う。
夫の、の辺りで眉が吊り上がったが、僕はそれを見て見ぬ振りした。
この部屋自体気に食わないのは言葉から理解出来るし、政略結婚とはいえ自分の夫になった人が別の女性に熱を上げているのは、見てて気分の良いものではないのも分かる。
その熱を上げているのが平民ならば、如何様にも出来ただろうに…よりにもよってこの国の王妃である母様に、ベルナール卿はご執心なのだ。
その母様の子供である僕らも気に食わないのは、察するに余りあるだろう。
「夫人はこの部屋をどう思われますか?」
シャナが夫人に尋ねる。
僕は姉の方を思わず見た。
そんな、藪蛇つつくような真似をするなよシャナ…。
彼女は姉を一瞥し、ふん、と鼻を鳴らす。
「趣味が悪いったらありませんわ! あぁ、この棟が火事で焼失してしまえば良いのに、と常々思っていますとも!! あの方、あたくしを娶ったくせに一度しか閨を共にしてませんのよ?! なんでも、あたくしを娶ったのも声が王妃様に近いからだとか!! なんて失礼な男なんですの、あの方!! 何もなかったら白い結婚で離縁出来ましたのに!!」
それを聞いてて、僕らは彼女に同情する。
確かに、穏やかに話せばベルナール夫人は母様に近い声ではあるだろう。
容姿はかけ離れているが。
そう思うのも、もうそろそろ四十になるはずなのに、うちの両親が全く老けないのが原因だと思われる。
周りから見ても結構浮いていたりするのだ。
まだ二十代だと言われたら信じるレベルで。
今のベルナール卿と並んだら、伯父と姪に間違われる事必死だろう。
「ベルナール夫人、姉君が失礼な質問をして申し訳ない。嫌な気分にさせてしまったようで、謝罪致します」
「いいえ!! 殿下方が悪いわけではございませんわ!! あの方が全て悪いのです!! あぁ、段々腹が立って参りましたわ…失礼致します!! あの方に文句を言いに行きますので!!」
ドカドカと足音を立てながら、僕らに文句というか、愚痴を言うだけ言って夫人は立ち去る。
ポカーンとそれを見送った後、シンクがポツリと呟いた。
「あんな性格だから、子供いないんじゃねぇのか…?」
「夫婦間の問題なんだから、そう言うんじゃありません。まぁ…夫人の気持ちも、わからなくはないけど…」
シャナが同情的な目を、夫人が立ち去った方向に向ける。