それは僕も思った。
彼女の出身は下位貴族の出で、それでも21貴族になったのだからと、ベルナール家の為に尽くしてきた事だろう。
ベルナール老も、一人息子に嫁いできてくれたのだからと、夫人を大切に扱ったはずだ。
ベルナール卿だけが何も考えず自分の我を通しまくり、こんな部屋を作り上げて…この部屋を見た彼女の心境は悲惨だった事だろう。
全て、推測でしかないわけだが。
人の心なんて、その人にしかわからないのだし。
僕に人の心を読む力などないのだから。
「早く終わらせて、宝物庫方面を調べよう」
僕の言葉に、三人が頷いた。
◆◆◆
「何これ?」
シャナが魔武器で床をコンコン叩いていた折、音が違う場所を見つけ、そこのカーペットを取り払う。
床下収納と見るには大きな扉が現れ、僕らは困惑した。
「扉、だろうけど…」
「うぇ…あのおっさん、地下にも母様のやつ作ってるわけ…?」
シンクが本当に嫌そうな声をあげる。
カーペットに隠されていたのだから、人に見せられないものだろうとは思う。
いや、この部屋自体、人に見せる用ではないと推測出来るけれども。
むしろ誰かに見せていたら、僕らがここへ来る前に父様かカヅキおばさんの耳に入って、この部屋ごと焼き払っているだろうし。
ベルナール卿の趣味全開というか、母様が愛おしいだの愛でたいだの、果てはあんな事やこんな事までしたい、なんて感じの日記が置いてあったりと…よく今まで処刑されずに済んだな、あの人。
「シャナ、ツルギ。ここで待機してて。あと…シンクの予想通りだったら、浄化魔法お願い」
「わかった。そうでなく、魔王の遺物があれば良いけどね」
本当にそうなんだよなぁ…あれば良いなぁ…。
僕は扉を開ける。
下へ続く階段があったので、それをシンクと共に降りていった。
間接照明があるおかげか、階段を降りるのも苦ではない。
「グンジョウ…」
シンクが僕に声をかけてくるが、それを遮るように僕は喋る。
「やましい事を考えてるならやめてくれ。ベルナール卿が致してるやつなんて見たくないし気持ち悪いし何ならお前に魔力渡して焼き払ってもらうからな…っ!!」
そこまで一気に言うと、お、おう、とシンクが動揺を露わにした。
今正にそれを言おうとして、僕から止められたからなんだろうが。
気持ち悪さを共有、って点なら、お前と同一人物なんだからしてるに決まってるだろ。
嫌だなぁ…ベルナール卿が母様に情欲を抱いて、何かやった跡見つけるの…。
本当気持ち悪い。
自分の母親がそんな対象になっている、と想像するだけでもきついのに。
「おい、グンジョウ…」
シンクが僕の名前を呼ぶが、僕はそれに返事すら出来なかった。
階段を降り切った先、僕らの目の前に広がった光景に絶句したから。
色んな培養槽が並んだ実験場のような場所。
広さを見る限り、この屋敷の敷地内全てを使っているのだろう。
なんでベルナールの屋敷の地下に、こんな物が…。
その中の一つ、奥まった場所にある培養槽が何かの液体で満たされ、光源が入っているのか薄暗いこの場所の中で光っていた。
その大きな培養槽の中に、女の子が膝を抱えて眠っている。
歳の頃は5歳か6歳か。
それくらいの年齢に見えた。
そして、その容姿に僕らは言葉を無くした。
「なんだ、ここ…シンク…これ、何だ…?」
僕は訳が分からず、シンクに尋ねる。
だがシンクも僕と同じ状態のようで、その子から目を離せないでいるようだった。
「俺が知るかよ。でも…どう見たって、母様だよな…この子…」
呆然とした口調で、シンクは返してくる。
母様や、その子供である僕達に遺伝した、蒼髪。
オーシアやベルカはそうでは無かったようだが、リューネでは発現する事のない深い蒼色。
僕らを除けば、この蒼髪は母様唯一だと言っても過言ではない。
しかし、目の前の培養槽の中にいる少女の髪は、僕らと同じ蒼色で。
その瞼は閉じられているものの、容姿は幼くした母様そのものだった。
僕は、頭を抱えて蹲る。
「こんなの、どう報告したら良いって言うんだよ。確実にベルナール卿、処刑じゃねぇか…っ!!」
「…母様のクローン、ってわけなのか…これ…? どうやって母様から細胞抜き取ったってんだ、あのおっさん…? あのコレクションの中から細胞取れるやつあったか…?」
母様に似た少女を見上げながら、シンクはブツブツと自問自答を繰り返していた。
だが、僕は今それどころではない。
これを見つけてしまった以上、父様に報告義務は発生する。
もしかしたら、母様がショックで寝込むかもしれない。
ベルナール卿だって、一族郎党処刑になるだろう。
この子の処遇も、どうしたら良いのやら。
それを考えるのは父様達なんだろうが。
「グンジョウ…ベルナールは武家の家だったよな…? こんな施設、つーか…知識なんてあると思うか?」
「知るかよ…。あの阿呆の考えなんざ、理解出来るわけねぇだろ…」
僕の返答に、シンクは軽く肩を叩いてくる。
見上げると弟は指を上に向けていた。