「昼食がまだなら、ご一緒にどうかと思ったのですが。如何でしょうか、殿下?」
ユエとユタカが頭を下げて僕に挨拶してくる。
僕はカナリアの方を見て、苦笑した。
「父様達長くなるかもしれないから、その間誰もここを通さないようにね」
「その前に王妃様の結界で、誰も入れないですよ。入れるの立花卿くらいでしょうけど、流石に察していただけるとは思いますよ。こういう展開、何回もありますから」
お盛んだな、父様。
それだけ母様を愛しているという事なのだろうが。
僕はユエ達に向き直り、僕の部屋に行こうかと言う。
ユタカが何か期待をするような目をしていたが、ユエが彼女を小突いた。
「いった! 何するのよ、ユエ」
「いい加減にしなよ、ユタカ。テスタロッサ夫人の授業で何も学ばなかったわけ? アオちゃんが女たらしならともかく、部屋に行った所で何か起こるわけないでしょ。ただ、私達とお昼ご飯を食べてくれるだけ。そうでしょ? アオちゃん」
僕は彼女の言葉に頷く。
というかお祖母様の所から戻った後、ユエは別人のように大人しくなったな…。
行く前は、ユタカと一緒になって騒いでいたというのに。
「カナリア、メイドに昼ご飯僕の部屋に持ってきてって伝えてくれる? ユエ達の分もって」
「了解です、殿下。いってらっしゃいませー」
カナリアが手を振ってくれたので、僕らは歩き出した。
ユタカは少し拗ねたように、僕を見ているようでまたユエに小突かれている。
「ユエ、さっきから何なの? グンちゃんにアプローチしてるだけじゃん」
「それがいけないんだって、なんでわかんないかな。それに、私達の事は友達以上に思ってないよ、アオちゃんは。アオちゃんの初恋、冬夏ちゃんだもん」
ユエのその言葉に、僕は歩みを止めた。
そしてぎこちなく後ろを振り返る。
「ユ、ユエ? 何を言って…」
「冬夏ちゃんに告白してるとこ、見ちゃったんだよね。アオちゃん、速攻振られてたけど」
そう。
僕の初恋は、カヅキおばさんの妹である冬夏さんだ。
僕のスキルが発動した際、母様が自分の手に負えないからと冬夏さんにお願いして、付きっきりでスキルの使い方を教えてもらっていた。
その時だろうか、冬夏さんを好きになったのは。
それが憧れか、それとも愛情だったのかはわからない。
僕も幼かったから。
それでも、冬夏さんに告白した。
ユエが言う通り、速攻で振られたけど。
子供に興味ないと言われて。
それをまさか、ユエが見ていたとは。
「いや、あの…僕も小さかったし…」
「だから、アオちゃんのストライクゾーンは年上なんだよね?」
ユエが少し、悲しそうな顔で僕を見つめていた。
その顔を見ていると、心が騒めく。
「そんなの、振り向かせれば良いだけじゃん!」
ユタカはユエの肩を掴み、揺さぶった。
いい加減にしろ、と彼女から殴られていたが。
◆◆◆
二人といる所を、ちょうど昼食を取るために部屋から出てきたシャナに見つかった。
「ユタカちゃん、課題とかいいの?」
「課題? 何の話?」
どうやら僕の推測は外れたようで、ユタカはギリギリで赤点回避などしていなかったようだ。
この様子から見るに、余裕だったみたい。
「え、ユタカちゃん、今回の順位どれくらいだったの…?」
「ん? 100位以内だったけど?」
それを聞いて、シャナが崩れ落ちた。
どうやらユタカを同類と思っていたようだ。
「…シャナ、ユタカに勉強教えてもらったら? カヅキおばさんよりは、気を遣わなくていいだろ?」
そう言うと、シャナはユタカの手を取り、一目散に自分の部屋の方へ駆けていく。
善は急げといった風だったが、ユタカが悲鳴じみた声で
「ユエ! 抜け駆けしたら許さないからね!!」
と大声で言った。
ユエは手を振って
「抜け駆けも何も、眼中に入ってないって言ったばかりだっつーの、馬鹿姉」
と悪態をつく。
「あの、ユエさん? 流石に二人きりでは…」
「わかってます、殿下。メイドなり何なり控えさせてください。未婚の男女が密室でなんて、誰に噂をされるかわかりませんものね?」
よくわかってらっしゃる。
今の時代そんな事言う輩はいないだろうが、あらぬ噂を立てられるのは、僕も彼女も本意ではない。
でも、そう言うユエの顔が諦めに似た表情をしてて、また少し心が騒めいた。
これが何なのかわからないまま、僕達は僕の自室に入り一緒に昼食を取る。
扉の横にはメイド達数人が控えており、僕らが食事を終えるまでいてもらった。
「殿下、午後からのご予定はありますか? 昼食を食べ終えたら、姉と共に失礼をさせていただこうと思っていたのですが…」
食事を終え、ユエを見送ろうと思った僕は彼女と共に部屋の外に出る。
ユタカは今、シャナに捕まって勉強を教えている所だろう。
流石に一人で帰るのは、と思ったらしい。
「なら、ルカさんの所に行きたいんだけど、連れてってもらえる? 眼鏡の度が合わなくなってきてて、見辛いんだよね。両親があぁだから、午後からの予定無くなっちゃっててさ」