「ちょっと上戻っとけ、グンジョウ。今きついんだろ?」
「…気遣ってくれるのはありがたいんだけど、はいそうですかって言って戻れないからな」
僕は立ち上がり、近くにあった全てのパソコンの電源をつけ始める。
「詳しく報告書を書くためにも、証拠は全て持ち帰る。手伝え、シンク」
「あいよ。でもちょい待ち、グンジョウ。シャナに念話飛ばして事情説明するわ」
立ち上がった順から僕は中身を見ていく。
不用心なのか、自分しかここに入らないからなのか、パスワードは設けておらず、簡単に中を見れた。
パタパタと上から人が降りてくる音がして、僕はそちらに目を向ける。
「うわ…マジじゃん…ほんっとあり得ない…母様が見たら失神するレベルじゃないの、これ…」
「シャナ……シンク、来いって言ったのか?」
降りてきたのはシャナとツルギで、培養槽に入った母様のクローンを見て顔を
言うわけねぇだろ、と弟は床に散らばった書類らしき紙を集め見ている最中だったみたいで、僕の方に顔を向けずそう言う。
「シャナ、ベルナール卿の動きが気になる。上に戻って牽制なりしてきてくれないか?」
「それについては大丈夫。ここの部屋の扉に鍵はかけておいたし。今ベルナール卿、夫人に文句言われまくってこっちに意識向けるどころじゃないから。ユエちゃん達がいる娯楽室で、あいつ遊んでたみたいでさ。状況は逐一教えて貰ってる。こっちに来るようなら引き止めててってお願いしてるから」
うわ、うちの姉優秀?
というか、ユエ達がいる場所にいんのかよあのおっさん。
彼女達が何かされてないか、心配になるのだが。
そんな僕の心情を察したのか、状況が動いたのか、シャナがため息をついた。
「グンジョウ…ユエちゃんから報告。『夫人に怒鳴られて逆ギレしたベルナール卿が、何を血迷ったのかユタカに掴み掛かろうとしたから取り押さえた。拘束魔法で縛り上げてるから、ゆっくり調べられるよ』だって」
「なんでユタカ?」
疑問に思ったが、今日の二人の服を思い出して、納得する。
ユエはいつものポニーテールにスタイリッシュな服装、ユタカは髪を編み上げて甘ロリとでもいうのだろうか、フリルがついたワンピースを着てきていた。
逆上して掴みかかるのなら、動きやすい服装をしているユエより、ユタカの方に矛先が向くのは当然の帰結だろう。
むしろ、そこの判断が出来るぐらいには冷静だったのか、ベルナール卿。
「…は? あのおっさん殺す…!!」
ユタカが狙われたと聞いて、シンクが怒り出す。
僕はそれを宥めた。
「シンク、気持ちはわかるがいずれそうなるだろうから、今は落ち着け。やりたいなら止めないけど、せめて報告書提出してからやってくれないか? シャナ、ツルギ。ちょっと手伝って。パソコンの台数が多すぎる」
僕の要請に、二人は短く返事をして動いてくれる。
暫く調べているとシンクが僕を呼んだので、弟のいる場所へ足を運んだ。
「どうした?」
「とんでもねぇもん見つけた」
シンクが数枚の紙を僕に渡してくる。
それは、この培養槽の中にいる女の子についての記録だった。
女の子は母様の名前を少し文字って、シャルロッテと名付けられており、歳の頃は見た目通りの5歳。
生まれたのは統合騒乱後らしい。
ベルナール卿の文字だろうか、走り書きで成長剤を使うべきだ、とか書かれている。
自分と出会った時の年齢まで、シャルロッテの体の年齢を引き上げるつもりだったのだろうか。
それらを見ながら紙を捲り、ある一枚の書類に驚愕した。
「これ…」
「な? とんでもねぇだろ…」
それは、契約書。
片方はベルナール卿の名前が署名されているが、もう一方。
テレジア卿の名前が署名されていた。
「…テレジアの研究内容に、クローンの作成なんて項目…なかったぞ…」
毎年、各領の収入に加え、何で領を運営しているかの調査も入る。
今年テレジアは、魔物の遺伝子操作による無害化とそれを家畜化するに伴う研究内容を提出してきた。
その中に、クローンなんて項目は一切ないと記憶している。
その内容は父様及び、僕も目を通しているからだ。
「って事は、秘密裏に事を動かしていたって話だよな。テレジアのとこの家宝って何だったっけ」
シンクはシャルロッテを見上げ、眉間に皺を寄せる。
研究職を目指しているシンクからすれば、テレジアの技術力は凄いものなのだろうが…流石にこれは非人道的過ぎるのだろう。
「眼だって話だよ。グンジョウ、ここテレジアの研究施設っぽい。ベルナール卿に取り入って、母様のクローンを作る代わりにここを使わせろって話があったみたいだよ。契約書もその時に交わしたみたい。費用も全部テレジアが出したって、日記に書いてある」
何台目かのパソコンを見ていたシャナが、僕にそう告げてくる。
姉の方を見ると、シャナはそれらをプリントアウトしていたのか紙を手にして振っていた。