「ベルナール老は関係なさそうだね。譲った後の日付から始まってるし。他の培養槽にも色んなモノが入ってたみたい。母様だけじゃない…あのジジイ、魔王の研究もしてる。グンジョウ」
シャナが真剣な目をこちらに向ける。
僕はそれへ、一つ頷いた。
「緊急事態だ。シャナ、それらを持って王宮へ。父様に判断を仰いでくれ。シンク、ユエにそのままベルナール卿の拘束を続けるよう通達。ユタカにも、周辺に異変があったら僕へすぐ知らせるように言ってくれ。ツルギ、悪いがシンクと共に宝物庫方面へ行ってくれないか。一応、僕らは遺物探しの為にここへ来た。その目的は達成されなければならない」
シャナに書類等を渡し、城へ転移してもらう。
ツルギも頷いた後、シンクを見た。
一切動こうとしない弟に、僕は少し首を傾げる。
「どうした、シンク」
「いや…お前はどうすんの?」
弟の問いかけに、僕はノワールを呼び出した。
それを振りかぶって、培養槽へ投げる。
魔武器の扱いとしては最低級だろうとは思ったが、割るならこれしか思いつかなかった。
バリンと培養槽に罅が入り、中の水圧で亀裂が大きくなった後、シャルロッテごと液体が外に飛び出してくる。
僕らの足元を濡らしたがそれを気にする事なく、僕はシャルロッテに近づいた。
「おま…やる事大胆だな…」
「良いから指示通りに動け、シンク。あるわけないとは思うが、この機に乗じてテレジアにベルナールの家宝を持って行かれたら、目も当てられん」
言いながらチラリとシンクを見る。
僕は更に言葉を重ねた。
「魔王の手先かどうかはこの際どちらでも良いが、これは重罪である。王妃殿下の許可なく、そのクローンを作ったベルナール卿も、魔王がどういう存在であるかを理解した上で、国に報告もあげず秘密裏に研究していたテレジア卿も。どちらも処刑対象だ。理解出来るな、シンク?」
そう言うと、弟は僕に一礼してくる。
「申し訳ありません、兄君。愚鈍な弟をお許し下さい。お言葉通りに行動致します。ツルギ、悪い待たせた。行くぞ」
ツルギを伴い、シンクは上階へ向かっていった。
ケホ、と咳をする声が聞こえ、次いで水を吐く音が聞こえる。
培養槽を満たしていた液体を吐いたのだろう、と推測出来た。
僕は着ていたジャケットを脱いで彼女にかける。
上体を起こしたシャルロッテは、不思議そうに僕を見上げた。
「こんにちは、初めましてシャルロッテ。僕はグンジョウ。僕が言ってる事がわかるかい?」
問いかけると、彼女は頷く。
怯えた様子も無い事から、一応意思疎通が出来るくらいには知能が発達しているらしい。
人間、わけがわからない場所にいたり、意思疎通が出来ないと怯えるらしいから。
「自分の状況は理解出来ている?」
コクリ、とシャルロッテはまた頷く。
今まで声を出さずにいたから喋れない、もしくは培養液等が入り込んでいてうまく話せないのか?
僕は、次の質問を彼女に投げる。
「シャルロッテ、君…言語は喋れる?」
それに初めて、彼女は首を横に振った。
まさか、と嫌な想像が頭をよぎる。
「…話せる?」
シャルロッテはもう一度首を横に振り、少し頭をのけぞらせた。
彼女の首には、横一文字に傷痕が走っている。
喉の辺りの傷で、明らかにそこを潰したか声帯を取ったかのような、そんな傷だった。
「なんて事を…」
やったのはベルナール卿ではなく、テレジア卿だろう。
母様の代わりに愛でようとしていた彼女に、ベルナール卿が傷をつけるとは思えない。
話されるとまずい事が起きるとでも思ったのか。
シャルロッテの存在自体、まずい事だろうに。
嫌な想像が当たってしまい、僕はギリッ、と歯を食いしばる。
そんな僕を見て、シャルロッテは僕に向けて手を伸ばしてきた。
その手を取ると、頭の中に声が聞こえてくる。
〈こんにちは、初めましてグンジョウさん。シャルロッテと言います。聞こえていますか?〉
〈聞こえているよ、シャルロッテ。君はどうして念話が使えるのかな?〉
僕の問いに、シャルロッテは首を傾げた。
〈わかりません。喋れない代わりに、そちらの方が発達したのかもしれません。声帯を取られたのは3年前でしたが、痛くなかったのでまぁいいかと思っていました〉
彼女の声は母様より少し高めである。
だが声質的に一緒なので、やはり母様のクローンなのだなと思った。
〈自分が、この国の王妃のクローンだって事は知っている?〉
〈はい、知っています。レフさんとグレゴワールさんが、そう話していたのは聞こえていましたし…それにグレゴワールさん、仰っていました。『愛しい僕のシャルロットさん、貴女が僕に振り向いてくれないのなら、代わりにこの子を愛するとしようじゃありませんか』って〉
あのおっさん、諦めるって事を知らねぇのか…?!
だから母様からも敬遠されるし、父様やカヅキおばさんがキレるんだろうが…!!
それに、レフという名前…。
レフ・スフェーン・テレジアがここに来ていたのは、やはり確定だろう。