「跡継ぎがいれば、その限りではなかったんだろうね。夫人やベルナール老はまともな人達だから、その人達を後見人として、跡継ぎが育つまで領の運営をお願い出来たんだんだけど…」
あの阿呆、それすらもサボって母様に熱をあげまくった挙句、こんな事態を引き起こしやがって。
僕は腹いせに、地下に続く扉を力任せに閉める。
地下の燃焼が他に行くのを防ぐためであったが、結構大きな音がしてユエが驚き、体を跳ねさせた。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「だ、大丈夫。びっくりしただけだから…。分家の人、当主に立てるって出来ないの?」
僕はうーん、と唸る。
それも一応は考えた。
だが、ベルナールの一族は信用に値しないと父様が判断したのなら、その家名を取り上げ称号化した挙句、中流か下手したら下流貴族の地位にまで一族を落とす可能性がある。
勿論反発は免れないだろうが、その責任はベルナール老にあると言っても過言ではない。
自分の息子を次期ベルナール家当主にと推したのは、ベルナール老なのだから。
それに、反発するくらいなら自分で家を作り上げ、地位向上を目指せばいいだけの話ではある。
21貴族になれなくても、中流までなら上がれるのだから。
まぁ、その能力があれば、の話だけど。
ベルナール卿みたいに甘い汁を吸っていた連中は、そんな向上心も何もないだろうが。
「そこは陛下の判断だから。僕が安易に言える事じゃないかな」
「そっか。いや、別に気になっただけで深い意味はなくて…ごめんね?」
何を謝る事があるのだろう。
突き放すような言い方、僕したか?
少し首を傾げた僕は、部屋の扉の所へ行きドアノブを回す。
ユエも僕の傍に付いて来たが、別に部屋の外に出るためにドアノブを回したわけじゃない。
鍵が開いてるかどうかの確認である。
普通に扉が開いていたので、僕は扉を閉めてついでに鍵も閉めた。
「? アオ? なんで鍵閉めたの? 部屋の外に出るんじゃないの?」
疑問符を浮かべるユエに向き直り、僕は彼女を抱きしめる。
突然の事で、彼女は困惑気味に僕の名前を呼んだ。
「ア、アオ? どうしたの?」
「いやぁ…ここへ来て色んな事に遭遇しまくってさぁ…君に甘えたくなった」
彼女の頭に頬擦りすると、くすぐったかったのかユエは笑い始める。
なんで笑うんだと少しムッとなった僕は、彼女の首筋に唇を埋めた。
「ん、もう…アオ、ここ人の家なのに…」
「フリーデリーケで言ってた事と違う事言ってるよ、ユエ。人の家だからって、イチャつこうって言い始めたの君なのにね」
くっくっ、と笑い始めると頭を叩かれる。
痛くて顔を上げると、顔を赤く染め、涙目で僕を睨みつけるユエと目が合った。
そんな顔も可愛らしくて、僕は彼女の唇を奪う。
そんな折だった。
〈遺物見つけたぞ、グンジョウ〉
シンクから念話が入り、僕は名残惜しげにユエから唇を離す。
「アオ…?」
「ちっ…良いとこだったのに…。ユエ、シンクが遺物見つけたって。行こうか」
僕は鍵と扉を開けながら、彼女の肩を抱いて歩き出した。
◆◆◆
遺物はやはり宝物庫にあったようだが、部屋に入るなり僕は自分の頭を押さえ、ため息をつく。
「なんだ、この杜撰な管理は…」
フリーデリーケでも見たような光景だったが、あれより手狭な部屋の中、足の踏み場もないくらいの財宝が散らばっていた。
まだフリーデリーケの部屋の広さだったら見栄えも良かったのだが、下手したらコインを踏んで転ぶんじゃないかというくらい酷い。
棚もついていたのだがそれらは使われる事なく、何かのトロフィーやらが床に転がっている。
あのおっさんの代になってから、こんな惨状になっているんだろうなぁ…。
何の権力誇示だよ。
整理整頓くらいしろよ。
夫人、この部屋に入れさせてもらえなかったんだろうなぁ…可哀想に。
「お、ようやく来た。ごくろーさん、グンジョウ。あの子の処遇はどうなった? あとジャケットどうしたよ」
「あの子は葵さんの所に送られたよ。ジャケットは…まぁ、あの子に渡したまま、かな」
シルフ2の月だから若干肌寒さを感じるが、仕方がないと諦める。
一応、中に長袖は着ているわけだから。
それでもジャケットが厚かった分、薄いのだけど。
「アオが風邪引く…っ!!」
ユエはそう言い、僕に抱きついてくる。
自分で暖を取れと言いたいんだろう。
僕は彼女を抱き上げて、そのまま抱きしめた。
「あー…暖かい…いい匂いする…落ち着くわー…」
「とりあえず、グンジョウは置いておいて。多分これだと思うんだよね」
シャナは僕を呆れた目で見つつ、財宝の中から杖を引っ張り出す。
魔力探知が低い僕でも分かるくらい、異様な雰囲気のそれに眉を顰めた。
「今回なんだって言ってた?」
「杖だって。だからこれで合ってるよ。まぁ、魔力は失われてるからただの杖だろうし。ほい、シンクパース」
僕の問いかけにシャナは軽く肩を竦めた後、それをシンクに投げ渡す。
弟はそれをキャッチして、繁々と眺めた。