「年代物の杖なはずなのに、こんなとこに埋もれてたのか…杜撰すぎねぇ?」
「前はちゃんと管理されてたと思うけど。まぁ、杖もこんなとこに放り出されてたら、嫌になって魔力も抜け落ちるだろうね」
ケタケタと笑うシャナだったが、うん? と背後を振り返った瞬間、影が大きく伸びて姉に何かが覆い被さる。
「ふにゃ?!」
「シャナ!!」
それでバランスを崩した姉が、更にコインを踏んで倒れそうになった。
ツルギが咄嗟にシャナを抱き止めて、事なきを得たが。
「え? 何これ?」
「あ、僕のジャケットだ」
自分に覆い被さったものを取ってシャナは首を傾げるが、それはシャルロッテに渡したままだった僕のジャケットで。
多分カヅキおばさんが、シャルロッテにいらなくなったからと、影渡りで投げてきたのだろう。
なんで僕じゃなくて、シャナの座標なのかは分からないが。
シャナは僕にジャケットを投げて寄越してきたので、それを受け止めユエを降ろす。
「…もっとしてたかった」
「城に帰ったらしてあげるから」
ジャケットを羽織っているとユエがポツリと呟いたので、苦笑しながら彼女の頭を撫でた。
まぁ、これで当初の目的は達成されたわけだが、僕にはまだ仕事が残っている。
「じゃあ、ここで解散って事で」
「グンジョウはどうすんの?」
シャナが問いかけてくるので、僕はため息を吐きつつ父様からの仕事があるからと、姉に話した。
「でもさ、それ今日じゃなきゃダメなわけ? もう日が暮れかけてるんだけど」
窓の外を見ると確かにシャナの言う通りなのだが、父様…陛下からの仕事である。
今日はもう遅いから明日にしなさい、なんて誰が許すというのか。
「だから、シャナ達は先に戻ってて良いって…」
「はいはい、うだうだ言わない。シンク、グンジョウに拘束魔法。ツルギ君は拘束された後のグンジョウ持ってきて。こんだけ豪勢な家なんだから、ホテルもどれだけ豪華なとこなんだろうね? ユエちゃんユタカちゃん、楽しみだねぇ」
シャナが二人の手を引き、部屋の外に出ていった。
シンクがすかさず僕に拘束魔法を撃つが、それを僕は避ける。
足場が悪いのが難点ではあるが、避けられないわけじゃない。
「ちょこまか動くんじゃねぇよ!! シャナの言う通りにしやがれアホ!!」
「なんで言う事聞かなきゃいけないのかなぁ?! 仕事だっつってんだろボケ!!」
流れ弾に当たりたくなかったのか、ツルギは部屋の外に避難している。
しかし、自分同士だからどう動くかの予想が立てられて、裏の読み合いみたいな心理戦も始まり、お互いに疲労が見え始めた頃。
シャナと共にホテルに行っていたであろうユエが、顔を出した。
服も着替えたようで、黒一色だったスタイリッシュな服装から、部屋着なのだろうか。
ゆるふわ系のワンピースに、彼女は着替えていた。
髪も下ろしていて、とても可愛い。
「…アオ、寂しいんだけど…」
その一言で、僕は陥落する。
姉の言う事には反発するが、愛しい恋人のお願いをどうして無碍に出来ようか。
「……ユエが言えばよかったんじゃねぇ、これ? 俺魔法使う必要あったか…?」
肩で息をしながら、シンクが地を這うような声で呟いた。
ようやく僕を拘束出来たので、ツルギも役目を果たす為に捕まっている僕を抱え上げる。
そのままの状態で、ベルナール領にあるホテルに連れて行かれた。
奇異の目が集まったが、僕はそれを体をぐったりさせる事で何とか回避する。
ツルギは何とも思っていないようで、取っていた部屋へ僕を持って行った。
「あ、お帰りー」
テレビをユタカと見ていたシャナだったが、僕の状態を見て爆笑する。
僕を肩に担ぎ上げた細身のツルギという図なもので、姉にとっては面白いものなのだろう。
「グンジョウ、完璧荷物じゃん! ウケる!!」
「言ってろ馬鹿姉」
ツルギがゆっくりと僕をソファーに降ろしてくれた。
一緒に着いてきてたシンクが、拘束魔法を解く。
僕はため息をついて、ソファーの背もたれに頭を乗せた。
「まったく…」
「文句言われる筋合いないからね、グンジョウ。あのままあそこにいたら、使用人達の迷惑になってたし。連れて行かれたのはベルナール卿だけだから。それに、父様も卿の事情聴取とかあるからすぐじゃなくて良いって、絶対言うはずだよ?」
シャナが笑うのをやめ、そう言ってくる。
僕はシャナにごめんと謝った。
今回は、さっさと終わらせようと思って周りが見えていなかった、僕が悪い。
「ユエ、陛下はあれ以上何か言ってた?」
僕は少し首をのけぞらせ、部屋の鍵を閉めてきたであろうユエに尋ねる。
僕らの後ろを着いてきてたから、少しだけこちらに来るのが遅れたようだ。
うーん、と彼女は少し首を傾げながら唸り、何か思い出したのかポンと手を叩いた。
「兵を残して事情聞いてるから、まとめて持ってこいって話だよね? えっと、あの後ー…『うちの息子が迷惑をかけてすまないな。呆れず、離れないでいてくれて感謝する。グンジョウは真面目が故に、お前に苦労をかけるが宜しく頼む』だったかな」
僕は自分の顔を覆う。