父様…。
将来、息子の嫁になるからって、ユエにそう言わないでくれないかな…。
苦労かけるつもり全くないのに…。
心配は…毎度かけまくってはいるけれど…。
「アオ、大丈夫?」
「…大丈夫…ごめん、ユエ…」
僕の様子を心配したユエが、肩に手を置いてくる。
彼女の手に自分の手を重ねて、軽く握り締めた。
そんな僕を見かねたのか、シャナがパンパンと手を打ってくる。
「ベルナールのこのホテルって、結構人気みたいでね。あの家に泊まりたくないからってクロノスに部屋を取って貰ったんだけど、ロイヤルスイートのここしか空いてなかったんだって。で、問題はここからなんだけど。ここ、ダブルベッドが置いてある部屋が三つあるのね? ……寮の部屋の通りで部屋分けするか、こ、恋人同士で、部屋を分けるか……どうする?」
シャナのその言葉に、僕は驚いて体勢を戻す。
なんだそれ、と思った瞬間、シンクが後ろからユタカを抱きしめた。
「別に恋人同士でもよくね? 疾しい事する奴なんてこん中にいる?」
「…シンク。みんながみんな、貴方みたいに達観してないんだよ?」
ユタカもクスクス笑いながら、弟の頭を撫でている。
精神年齢高い組は、これだから…。
「アオ…」
「シャナ次第だろ、これ。別に寮の部屋通りでも僕は良いとは思うけどね。みんなの仕事は終わってるわけだし。明日の仕事があるのは僕だけだから。夕方までクロノスは迎えに来ないだろうし…領都観光しておいで、ユエ?」
見上げると、ユエが少しムッとしていた。
何でだろうと少し首を傾げる。
彼女は僕の頬を軽くつねってきた。
「私は、アオと一緒に観光したいの。私も手伝うから、明日の仕事早く終わらせて観光しよ?」
「分かったからつねらないで。で、どうすんのシャナ?」
赤面している姉に尋ねると、シャナはチラリとツルギを見る。
見られた彼は、首を少し傾けた。
「どうした、シャナ?」
「いや、あの…ツルギ君…同衾とか…平気なタイプ、デスカ…?」
なんで最後カタコトになってんだよ。
それにお前、テスタロッサの屋敷で一回ツルギと同衾してんじゃねぇか。
忘れてんじゃねぇぞ。
問われたツルギは、シャナに微笑む。
「大丈夫だ、シャナ。結婚するまで、君に手は出さない。出した瞬間、俺は腹を掻っ捌いて詫びよう」
「そこまでしなくていいよ?!」
シャナが慌て始めるが、硬派なツルギなら本当に結婚するまで姉に手は出さないだろうし、もしその制約を破ろうものなら本気で腹を自分で割いて、シャナ及びうちの両親に詫びるだろう。
「はい決まり。今日は恋人同士で寝ようや。外に出るのも億劫だし、こいつが奇異の目で見られてビュッフェにも行けそうもねぇから、ルームサービス頼もうぜー。ほい、これメニュー」
ユタカから離れ、シンクはテーブルにメニュー表を置いた。
色んなメニューが載っており、僕らはそれぞれ食べる物を決め、それをシンクが備え付けの電話で注文する。
届いた夕飯を食べ、簡単なルームツアー的なものをやった後、僕はシャナへ文句を言った。
「シャナ…各部屋に風呂とかついてるって、なんで先に言わないんだよお前!!」
「うぇーん!! だって、大きいお風呂もあるんだもん!! そっち使えば良くない?! ユエちゃんと入りたいんでしょ、グンジョウのエッチ!!」
あぁ言えばこう言うんじゃねぇよ、クソ姉!!
この鳥頭!!
僕はシャナの頬をつまんで伸ばす。
痛い痛い、と涙目になっているが許すわけにはいかない。
それを事前に知っていたら、ユエと同室なんて発想になるわけないだろうに。
「アオ、落ち着いて。私達が大浴場の方使えばいいんだし。それとも逆がいい?」
「…ユエの優しさに感謝しろよ、馬鹿姉」
パッとシャナから手を離すと、姉はツルギに泣きつき始めた。
ツルギは仕方ないなと言った感じで、シャナの頭を撫でている。
甘やかさんでよろしい。
女性陣が大浴場の方へ、僕ら男性陣は各部屋についてる個人風呂に入る。
風呂場も結構な広さで、これで個人風呂なのかと驚いた。
「城のより広くないか、これ…?」
城に付けられてる客室用の風呂より、とても広い設計になっている。
つい最近になってからこのホテルは建てられているはずなので、これもベルナール卿の権力誇示の為なのか、と多少ゲンナリした。
最上階だからか、景色が見渡せるようにと大きめの窓が嵌められており、確かにベルナール領の領都が一望出来る。
端にライトアップされた、ベルナール家が見えなければ最高の眺めではあっただろう。
ロイヤルスイートルームなだけあって、部屋も広ければ風呂も広い。
大浴場はどれくらいの広さなのだろうか。
そこは見てなかったので、後でユエ達が上がったら見に行くとしよう。
「はぁ…」
湯船に浸かりながら、僕はため息をつく。
これからの事が憂鬱で仕方ない。
ベルナール家で証言とかを集めるのは良い。
帳簿もまぁ、押収して金の動きを見るのも良いだろう。
問題は、その先。
ベルナール卿、及びテレジア卿の処刑を、僕は見届けなければならないだろうという予感。