普通に持ち上げられるくらい軽いのだけど、一瞬よぎった記憶に僕は地面に彼女を降ろしてから、その体を抱きしめた。
「アオ?」
「…君の首締めた時の記憶が…本当あの時の僕、馬鹿野郎じゃない…? 君がこんなに華奢なの分かってて、喧嘩売るとか…そんで首絞めるとか…あぁ、幼等部生の時に戻りたい…記憶持ったままやり直したい…罪悪感凄い…ごめんね、ユエ…」
嘆いていると、ユエが苦笑しながら僕の頭を撫でてくる。
「私は、嫌かな。ここまでの思い出が全部なくなっちゃうのは。確かに、小さい頃からアオには愛されたかったけど…それでも、あの時があったから今があるのかな、って思うもん」
「ユエさん大人ですね…」
そんな事ないと彼女は言うが、僕より精神年齢が上な気がした。
ユエを見ると、少し困った顔をして笑っている。
何故? と僕は首を傾げた。
「アオ、雪那が死んだ年齢は?」
ユエが僕に向けて指を突きつけてきたので、思い出しつつその問いに答える。
「…確か、16だったね。今は、それより越えたけれど。それが?」
だからだよ、と言われるがどういう事なのだろうか。
僕は彼女から体を離し、思考する。
雪那が亡くなったのが16の時。
今のユエは17歳だ。
前世の記憶を思い出したと、ユエは言っていたはずだから…。
「…ユエの精神年齢、30越えてる?」
ポツリと呟いた僕の腹に、彼女は蹴りを入れてきた。
思わず蹲るが、その行動が正解だと言っているようなもので。
「ユエ…痛い」
「ユタカよりは若いからね?!」
まぁ、あっちは老衰で亡くなったって言ってたから、それはそうなんだけど。
じゃあこのメンバーの中で一番幼いの、シャナなんじゃ無いのかな…阿呆だし馬鹿だし。
「アオ、実の姉に対してそれは…」
「心読むなって言ってんだろ…。まぁ、良いけど。ユエの精神年齢が高かろうが、僕には関係ない事だし。だから何って話。君が大人びていようと、僕の口説き文句に狼狽えるくらいなら、まだお子ちゃまじゃないかな」
更にユエの踵落としが降ってきたので、僕はそれを掴んで彼女を見ながら足へキスをする。
途端、ユエの顔が真っ赤になった。
「ほら、動揺してんじゃん。スカートの中も見えそうだし…見せつけてる?」
「そんなわけないでしょ?! アオのエッチ!! すけべ!!」
スカートの裾を掴み、彼女は僕へ見えないように押さえ付けている。
その動作は可愛らしいのだが、ちょっとしたお仕置きでもしようか。
お腹蹴られて、とても痛いから。
「君が魅力的すぎるのが悪い。僕がそうするのが嫌だって言うんなら、別の女に目を向けても良いんだけど?」
僕は立ち上がりながら、そう言う。
逆に、ユエがぺたりとその場に座り込んだ。
呆然と僕を見上げている。
「…捨て、られる? 私…もう、傍にいちゃ、いけない…?」
ポロポロと涙を溢し始めたユエに、僕は苦笑して彼女の前に屈むと、頬を覆って額を合わせた。
「冗談。誰が他の女に目を向けるんだよ。僕の妃は君だけだって言うのに。そんな軽薄な男に見えた? 僕がそんなに器用だと? ユエ、僕と何年の付き合いなんだよ君。今世では再会してから5年、前世では10年だろ? それに、器用ならツェリの申し出受けてるんだよ。しなかったのは、そうじゃなかったからに他ならないだろ?」
ユエの涙を拭いながら、僕は彼女に笑いかける。
だが、彼女は驚いたように僕を見つめていた。
「どうかした?」
「アオ…記憶思い出したの?」
ん?
あぁ、前世での付き合いの話か。
まぁ驚くよね。
「雪那との付き合いは小学校からだったよね。あの時は可愛い女の子だな、としか思ってなかったけどね。告白してOKもらったのは中学の時だったっけ」
「…あ、うん……いつから?」
そう問われて、徐々にかな、と答える。
夢で見たり、今のように瞬間的に思い出したりと様々だ。
夕陽は硬派だったけど、ちょっと馬鹿だったらしい。
記憶容量が極端すぎる。
覚えてたり覚えてなかったりするのは、多分彼が興味がある事だけしか覚えていられなかったから、だと思う。
要するに、シャナ以上の阿呆の子だったのだ、彼は。
ユエを抱き上げ、彼女の体を片腕で支える。
勿論身体強化をしなければ、こんな芸当は出来ない。
よく父様が母様にやっている事で、自分の背よりも高くなった視界に驚いたユエが、僕の頭に抱きついてきた。
「アオ、ちょ、怖いっ!」
「高所恐怖症だったっけ、ユエ? 大丈夫、落とすようなヘマしないから」
僕がそう言うと、ユエは恐る恐る僕の頭から手を離し、僕の肩に手を置いて目を開けたようだ。
わぁ…という感嘆の声が聞こえる。
「アオの視界、こうなってるんだ…」
「それよりは高いけどね。あの世界にも魔法とかがあれば、花火大会の時もこうやって見せてあげられたのにね」
その言葉に、ユエが僕の方を見て微笑んだ。
あれは中学生の頃で、初めて付き合い始めた時の花火大会だった。
人が多すぎて、今より少しだけ背が低かった雪那は、人の合間からしか花火が見えないと嘆いていたのだ。