シンクがセットしたであろう髪を掻きむしり、天井を見上げつつ吠えている。
弟も初めてこんな彼女を見たようで、ユタカの背後で狼狽えていた。
ユエも唖然と、隣に座る自分の姉を見つめている。
「ユタカ…すごい鬱憤溜まってたんだね…。愚痴、シンクに聞いて貰ったら…?」
「………ごめん、思い出したら止まんなくなった…ちょっと風に当たってくる…」
ユタカは立ち上がり、ふらふらと扉に向かって歩いていく。
その後をシンクが心配そうについて行った。
まぁ、ユタカは弟に任せるとして。
「日本って凄いところなんだね…」
「いや…多分ブラックって呼ばれてるとこ…限定だと思いますよ、殿下…。篠原の家は、まだマトモだったみたいですし…」
まぁ、母様の生家だからそんな事はなかったんだろうけど。
証言も纏め終わり、シャナがつけてくれた付箋の場所を確認しながら、そちらも纏める。
そんなこんなしていたら領都観光をする時間が無くなり、僕らは泣く泣く王都に帰る事になったのだった。
◆◆◆
ベルナール領から帰ってきて一週間後。
次の日が休みだという日の、深夜訓練後。
母様が、今日は暫く起きていなさいと僕に言ってきて、僕は身を固くする。
来てほしくない日が来たのかと、悟った。
「アオ…。王妃様、ママ。私も同席させて下さい。次期王妃として、私も」
僕の様子を見て、ユエが母様に嘆願する。
しかし、母様は彼女の肩に手を置いて、言い聞かせるようにユエへ目線を合わせた。
「ユエちゃん。貴女はまだ、グンジョウと婚姻を交わしていません。カヅキから預かっている、大事なお嬢さんですもの。グンジョウとは違って、まだそんな思いをしなくても良いのよ?」
だが、母様の言葉にユエは首を横へ振った。
「いいえ、王妃様。私も経験する事だと言うのなら、それが遅いか早いかだけの違いではないでしょうか。それに私は立花の娘です。覚悟は、出来ています」
「ナツキ、諦めろ。ユエは頑固だ。一度自分で決めたら曲げようとしない。グンジョウからの言葉なら、曲げるかもしれんがな?」
そう言い、カヅキおばさんは面白そうにこちらを見る。
笑い事では無いだろうが、僕はフッと笑い返した。
「僕は彼女の意思を尊重します。彼女がそうしたいと言うのなら、僕は何も言いません」
「だとよ」
カヅキおばさんは肩を竦め、母様に言う。
母様は、少し申し訳なさそうにユエを見つめていた。
「母様、あたしも」
「シャナは駄目です。嫁入り前の子がトラウマ抱えたら、ツルギ君に迷惑でしょう」
トラウマ必死って、目の前で拷問でもするのか母様。
やるのはそういう部隊の人達だろうけど。
その場で解散はしたが、みんな僕の部屋に集まってくる。
みんな、僕を心配してくれているのがわかって、嬉しかった。
父様の専属護衛であるルルが、僕とシンクを呼びに来る。
僕だけじゃなく、弟も呼ぶ必要があるのかと僕は彼女にそう尋ねた。
「次期王であるグンジョウ殿下と、その弟御であるシンク殿下を同席させるよう、陛下から仰せつかっておりまして…詳細は知らされておりません。申し訳ありません、殿下」
「いや、良い。こちらこそすまなかった、ルル。案内してくれ」
ルルに先導されて着いた場所は一度も入った事のない場所で、既に父様、母様、カヅキおばさんがそこで僕らを待っていた。
「グンジョウ、シンク、こちらにいらっしゃい」
「「はい、母様」」
母様に呼ばれたので傍に行くと、手を握られる。
その顔は凄く辛そうで、母様も心を痛めているのだと分かった。
「今から貴方達には辛い経験をさせます。これは次期国王であるグンジョウ、そして、グンジョウの弟として兄を支えると言ったシンク。二人には、今後こういう事態があっても心を動かされぬように、との陛下のご配慮です。分かりますね?」
母様の言葉に、僕らは頷く。
そして、母様は僕らの背後にいたユエに声をかけた。
「ユエ嬢、貴女もです。まだ引き返せますが、どうしますか?」
「…私はここに残ります。それが、次期王妃としてグンジョウ殿下と共に歩むと決めた、私の覚悟です」
母様は一回頷くと、僕らの手を離して父様の隣に立つ。
僕らも移動して、その場を見た。
多分、ここは処刑場なのだろう。
確か夕陽の記憶で、死刑執行の部屋みたいなものを画像で見た記憶があるが、あれに近かった。
ただ、フローリングの床でもなければ、首に縄をかける所もなく、床は地面になっている。
一部変色している場所があったので、そこで罪人が絶命しているのだけは、理解が出来た。
「重罪人をここへ」
カヅキおばさんが親衛隊に命じる。
程なくして、拘束されたベルナール卿がその場に連れて来られた。
「シャルロットさん!!」
母様の姿を認めたベルナール卿が、嬉々とした表情で母様の名を呼ぶ。
せめて王妃殿下って呼べよ、不敬罪も追加だぞそれ。
なんて、現実逃避気味に思考する。
何故自分がこの場所に連れて来られたのか、全く理解していない様子のベルナール卿に、父様の眼光が鋭くなった。