父様が瞬時に母様を支える。
親衛隊がベルナール卿の頭を地に伏せさせ、母様から目線を外させた。
僕はその目に見覚えがある。
母様を殺した男、シャナの前世である宮塚麻人と同じ目だった。
そして、その目は母様にとってトラウマであるのだと理解する。
「シャル!!」
「大…丈夫…だから…あたしの事は、気にしないで…あなた…」
母様の呼吸が浅くなり、カタカタと体が震えていた。
そんな母様を放っておく父様ではない。
父様は母様を抱きしめ、ベルナール卿に殺意を向ける。
「よくもシャルを怯えさせたな…っ!! シャルを害するものは、何人たりとも許さん…っ!! 刑を執行しろ…! 俺が良いと言うまで、絶命する事は許さん!!」
親衛隊の何人かが、ベルナール卿が連れて来られた際の扉を開いた。
執行人だろうか、フードを目深に被った人達がベルナール卿の所へ来る。
「シャルロットさんっ!! 離せっ!! 彼女は…っ!!」
「彼女は何だと言うんだ、グレゴワール。貴様、お嬢様の様子が見えなかったか? 貴様を目にするのも嫌だと、お嬢様は態度で仰られている。陛下。こいつの処刑、私も参加する。良いな?」
カヅキおばさんは父様に許可を願った。
父様は一つ頷く。
「カヅキ、王命だ。惨たらしく、生まれてきた事を後悔させてやれ」
「御意」
そこからは言葉にするのも憚れる程の凄惨さで、殺しては生き返らせ、何度も拷問をベルナール卿に施し、人の人権とは何なのだろう、と思うぐらいの悲惨さで。
ユエが僕の腕に抱きつき、手を握ってきた。
その感覚だけで、僕は立っていたと言っても過言ではない。
「グレゴワール・セレンディバイト・ベルナール。何か言い残す事はあるか?」
「…………」
父様が問いかけるが、ベルナール卿の精神はもう崩壊していた。
痛いと泣き叫び、殺してくれと懇願し、それでも終わらない責苦に、もう彼は何も言う事が出来なくなったのだろう。
「グレゴワール…」
母様がベルナール卿の名を呼ぶ。
その声で彼は少し反応し、母様へ言った。
「愛しています、シャルロットさん…」
「……カヅキ、殺せ」
父様からそう命を下され、カヅキおばさんはベルナール卿の頭に触れ、それを破裂させる。
肉片が飛び散り、大量の血液がその場を濡らした。
ユエがフラリと倒れかける。
僕は彼女の体を支えたが、僕自身も力が入らず彼女ごと倒れた。
頭を打たせるわけにはいかないと、自分の体を下にはしたが。
「アオ…ごめんなさい…耐えられなかった…」
「僕も…」
シンクだけがその場に立っていて。
だけど、弟も辛そうな顔をしてベルナール卿だったものを見ていた。
ふと耳に母様が泣く声が聞こえて、そちらに目線を向ける。
躯体の身ではあるが、母様はベルナール卿が亡くなった事を悲しんでいた。
あれだけ、自分に対して気持ち悪い事をされていたのにも関わらず。
母様はとても優しく、慈愛のある人だ。
どれだけ苦手だろうが、嫌いだろうが、それでも相手の死を悼む。
「シャル…だから来なくても良いと言ったのに…」
「だって、グレゴワールは…ギルドで仲間だったのだもの…!!」
泣いている母様を抱きしめ、父様も辛そうに顔を歪めていた。
カヅキおばさんも後処理を拷問部隊の人達に任せ、母様の傍に近寄る。
そんな様子をぼんやり眺めていると、僕の視界にシンクが入ってきた。
「大丈夫かよ、グンジョウ」
「……吐きそう…グロテスクなの、覚悟はしてたんだけど…ユエ?」
僕の上で大人しくなっていたユエに声をかけるが、反応がない。
シンクが彼女の様子を見て、ため息をついた。
「失神してるわ…本当、気が強いなうちの義姉ちゃんは…途中から吐きそうになってたの、我慢してたもんな…グンジョウ、ユエちょっと退かすな」
彼女の脇に手を入れ、シンクは僕の上から横に寝かせる。
僕はゆっくりと起き上がり、ユエの頬を撫でた。
彼女の顔面は蒼白で、これは暫く起きないだろうな、と頭の片隅で思う。
「シンク、お前平気そうだな…」
「何言ってんだよ、兄ちゃん…吐きそうなの我慢してるだけだっての…後で吐いてくるけど。立花卿、俺らは下がらせて貰っていいですかね」
普通に動き回っているシンクに尋ねるが、自分もショックを受けてるんだと返された。
そして弟は、この場から退散して良いかとカヅキおばさんに許可を取る。
「お疲れ様でございました、殿下方。うちの娘は…」
「僕が運びます。今宵は僕らもですが、魘されるでしょうから…出来るだけ、傍にいたいのです」
ユエを抱き上げ、僕はカヅキおばさんに言う。
おばさんは何も言わず、僕らに背を向けた。
泣きじゃくっている母様を慰めるためだろうな、と思いつつ、父様に一礼して処刑場を後にする。
僕の部屋に着くとシンクが扉を開けてくれ、僕らは部屋の中に入った。
「グンジョウ…!!」
シャナがソファーから立ち上がり、僕らの方に駆けて来る。
その顔はとても心配そうで、僕はぎこちなく笑った。
「シャナ、ごめん。ユエを預かってくれないかな。今若干気持ち悪くて…吐きそうなんだよね…」
「…わかった」
シャナにユエを預け、僕はすぐさまトイレに行くと、胃の内容物を全て吐く。