my way of life   作:桜舞

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236話『お姉ちゃんにも頼ってね』

それでも吐き気が治まらず、胃液も吐いた。

 

「グンジョウ、大丈夫?」

「……キツイ……姉上、来なくて正解だよ…あんなの…見るに耐えない…うぇ…」

 

まだ吐き続ける僕の背を、シャナは摩ってくれる。

その手が暖かくて、少しだけ安心した。

 

やっと吐き気が治まって部屋に戻ると、シンクとユタカの姿が見えず、僕はツルギに尋ねる。

 

「…二人は?」

「…先程の殿下と同じ状態になられて…部屋を出ていかれました…」

 

シンクもショックを受けていると言っていたし、今頃ユタカに介抱されているのだろう。

そうか、と返事をして、僕はソファーに座った。

 

「グンジョウ、よく耐えたね。お姉ちゃんは、グンジョウが錯乱して帰ってくるかと思ってたよ」

 

隣に座ったシャナが、僕の頭を撫でてくる。

少しくすぐったかったが、やめてほしいとも思えなくて、されるがままになった。

 

「……錯乱、一歩手前な感じがするよ…ユエが起きるまでに、まともな精神になっておかないと…」

 

ユエはどうやら僕のベッドに寝かされているらしく、今このソファーにいるのは僕とシャナ、ツルギだけだ。

 

「膝枕してあげる、おいで」

「それはツルギにしてやれよ…」

 

自分の太ももを叩いた姉に僕はそう言うが、無理やり頭を掴まれ横にならされる。

しかもツルギから見えないように、背を向ける形で横になった。

シャナの香りがして、僕はまた安心感を覚える。

 

「本当に、あたしの自慢の弟だよグンジョウ。頭良いし、優しいし、姉思いの良い子。辛い事を経験したね。でも、それを糧にしてグンジョウは成長出来るはずだから。辛くなったら、お姉ちゃんにも頼ってねグンジョウ」

 

姉は、僕へ優しげな表情を向けながら頭を撫でてきた。

寝てはダメだと思ってはいるのだが、訓練で疲弊した体に、先程の凄惨な光景で負った精神的疲労が、僕を眠りに誘う。

 

「シャナ……姉上……寝たく、ない……」

「大丈夫。グンジョウが悪夢を見ても、お姉ちゃんが助けるからね。あたしは長女だもの。弟達が苦しんでいるのを、見過ごすはずないでしょ?」

 

ギュッとシャナを抱きしめると、姉のそんな声が聞こえる。

限界を迎えていた僕はシャナの匂いと頭を撫でる手、姉の体温で安心しきって、意識を落としてしまった。

 

◆◆◆

 

自然と目が覚め、僕は目を開く。

部屋は暗くなっており、僕が寝たのを確認したシャナが、ベッドまで僕を運んで電気を消し、退室したのかと寝ぼけた頭で思考する。

もしかしたら、運んだのはツルギかもしれないが。

 

夢も見ずに眠れていたようで、僕は覚醒する意識の中、彼女の名を呼ぶ。

 

「ユエ…」

 

月明かりが入ってきており、僕より先に目を覚ましていたであろうユエが、起き上がって僕をぼんやりと見つめていた。

 

「…どう、したの…?」

「……ううん…シャナちゃん、凄いね。流石お姉ちゃんって感じ。私だと、逆にアオの負担になってないかな、ってシャナちゃんの言葉を聞いてて思ったの」

 

もう一度彼女の名前を呼ぶと、ユエは苦笑する。

 

どうしてそんな表情をするのかわからないが、そんな事は絶対にない。

ユエが僕の負担になっているなんて、あるわけがない。

 

シャナは確かに姉として頼りになる所はある。

だけど、それは姉弟だからだ。

弟として、シャナは僕を慈しんでくれているだけだ。

 

僕は起き上がり、ユエを抱きしめる。

 

「ユエ。僕は自分の気持ち、ちゃんと伝えてきたつもりなんだけどな。迷惑ならそう言うし、負担になっているのなら、君にそう告げる。言ってないっていう事は、そう思ってないんだって理解して欲しいな」

「アオ……うん、ありがとう。大好きだよ、アオ」

 

そう言いつつ、彼女は僕の服を握りしめてきた。

そして、声もなく泣き始める。

僕は彼女の背を撫でつつ、ユエの頭に自分のをくっつけた。

 

僕もだが、ユエもあの凄惨な光景に耐えられなかった。

だが、僕らは乗り越えなければならない。

僕は次期国王であり、ユエは次期王妃になるのだから。

 

「ユエ、一緒に頑張ろう。君がダメになりそうな時は、僕が支えるよ。だから…僕がダメになりそうな時は叩いてでも叱咤してね」

「…私も、そうしてもらいたいんだけど…」

 

ユエに対して、僕が出来るわけないと思うんだよなぁ。

逆は容易に想像が出来るが。

 

うーん、と僕は困った顔をする。

ユエが少し体を離し、涙に濡れた目で僕を睨んできた。

 

「夫婦になるんでしょ? ちゃんと私の事も叱ってよ、アオ」

「…君が愛おしすぎて、大事すぎて、叱るなんて選択肢が見えないんだよね。喧嘩の時は怒るけどさ。君が弱っている時に、そんな事したくはないかな」

 

ちょっとムスッとしたユエの頬にキスをする。

彼女の涙の味がして、ほんの少しだけ舐めた。

 

「ちょ、アオ?!」

「舐めただけで、そんな大声出さないでよユエ。本当に君の反応、可愛いったらないね」

 

僕はユエを抱きしめたまま、彼女をベッドに押し倒す。

今日は流石に、ユーリおじさんも許してくれるだろう。

彼女が望んだ事だが、精神的ショックを受けたのはユエもなのだから。

 

「ねぇ、ユエ。朝まで一緒にいようか」

 

彼女の上から退いた僕の提案に、ユエはクスリと笑いながら手を握ってくる。

 

「朝までなんて嫌。私はこの先も、ずっと、ずーっと、アオと一緒にいるよ」

 

そういう意味で言ったのではなかったが、微笑むユエに、僕も笑い返した。

 

「そうだね。ずっと一緒にいよう、ユエ。死が二人を別つとも、君を死んでも愛し続けるよ」

 

とても嬉しそうに笑う彼女の笑顔が、今日の事を洗い流してくれるようで…僕らは手を繋いで眠りに落ちる。

夢は、見なかった。

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