「確定だな」
「何故、家宝を持ち出すのでしょうか…別に、宝石も何も嵌っていない、少し錆びた腕輪ですのに…」
おばさんは、本当にわからないという顔をしながら首を傾げる。
僕は弟に尋ねてみた。
「シンク、どっちだと思う?」
「お前が言いたい事は分かるが、本人に会って見ない事には何とも、な。シャナ、マーカーは付けてるだろ?」
シンクがそう聞くと、姉はにこやかに笑い、ピースをしてくる。
「不審者がいたら、とりあえずマーカー付けておけって言われてたから、その通りにしたよ。今は中庭にいるみたい」
いつの間にそんな意思疎通やってたんだよ。
僕だけ除け者か?
というか、そういうの報告しろよ。
「はいはい、兄ちゃんはうっせぇな」
「何も言ってないし、心読むなって言ってんだろシンク。一度本気の喧嘩でもするか?」
良いじゃないか、と笑うシンクをユタカが止め、僕の方もユエが宥めに入ってくる。
いや、ただの冗談だから。
本気でシンクと喧嘩をするとしたら、多分両方熱くなって歯止めが聞かなくなる気がする。
それをシンクもわかっているから、ただの軽口で済ませているのだろう。
「んじゃ、ま。行きますか」
シンクの言葉に、僕らは頷いた。
◆◆◆
アエラおばさんの案内で、僕らは中庭に行く。
そこには鈍色の髪をした男性が立っていた。
「お前か。何の用だ」
アエラおばさんの顔を見た瞬間、その男性…アレンは不遜な態度を取る。
いくら分家筋だからと、本家の当主の妻であるアエラおばさんにそんな態度を取るとは。
〈ヴァレリィ家って、中流の家?〉
ユエが念話で聞いてくる。
僕は彼女の手を握りつつ、答えた。
〈いいや、下流の家だよ。ヴァリエール家の分家筋も、中流から下流まで結構いるからね。それでも、ちゃんとしてる所はちゃんとしてるんだけど…〉
アレンを見つつ思う。
これ、シャナが嫌いなタイプの人間だな、と。
「証拠は上がってんだよ、アレン・ヴァレリィ。ヴァリエール家の家宝を返しな」
アエラおばさんを庇うようにシンクが前に立ち、手をヒラヒラとアレンへ向けて振る。
しかしアレンは肩を竦めた。
「何を仰ってるのか分かりませんな、シンク第三王子殿下。ヴァリエール家の家宝? そんな物、見た事もありません。私は、ヴァリエール家の分家でも下の方の位でしてね。ご当主様が懐の深い方で、こんな身分が下の者でも、尋ねれば快く招いてくれるんですよ」
押しかけた、の間違いじゃないのかとは思うけれど黙っておく。
確かにおじさんは気の良い人ではあるけれど、それでもヴァリエール家の当主だ。
侮られるような事はしないはず。
「だから、証拠上がってんだって言ってんだよ。それとも何か? その証拠を提示してもしらばっくれるつもりか?」
「いやいや。証拠も何も、家宝なんぞ知らないと言っているのです」
シンクとアレンの押し問答が始まり、僕は少しため息をつき、小声でシャナに言った。
「シャナ、時を止めろ」
それに対して、姉は嫌そうな声をあげる。
「うっわ、簡単に言ってくれるよね。あたし、母様程の力ないんだけど。止められても10秒だからね、グンジョウ」
「充分」
シャナが指を鳴らす。
瞬間皆の動きが止まり、僕はユエから手を離して地面を蹴り、アレンに近寄った。
あの映像を見ていたが、腕輪を入れたのはスーツの内ポケットの中。
対象に触ったらその対象も動き出してしまうが、動き出す前にその部分だけを切り取ればいい。
僕はノワールを出し、左胸ポケットを切り裂いた。
そこから腕輪が転がり出て、カランと音を立てながら地面に落ちる。
瞬間時が動き出し、アレンが驚いた声を上げた。
「なっ! なっ、何をするのですか! グンジョウ王太子殿下!!」
「私の弟が言っただろう、証拠は上がっていると。ほら、私が切り裂いた貴殿の胸ポケットから転がり落ちた、それはなんだ? 答えろ、アレン・ヴァレリィ」
僕はノワールを鞘にしまいつつ、問う。
冷たい目線を投げかけると、ひぃ、と怯えた声を出し、アレンは地面に座り込んだ。
「グ、グンジョウ王太子殿下は、おかしいとは思いませんか?! たかが平民風情が、それも捨て子の身分でヴァリエール家の当主になるなどと…っ!!」
「貴殿は忘れているようだな。私が誰の子かを。ローゼヴィッヒ・ロードナイト・ヴァリエールを当主の座に据えると決めたのは、我が父であるナズナ陛下だ。それに、貴殿のその発言は我が母であるシャルロット・マリアライト・ブリリアント王妃殿下を貶める発言であると心得よ。王妃殿下も、元は平民である。それに対して、否と発言するか貴殿は」
滅相もございませんと、アレンは平伏する。
まぁ戦争の英雄である母様を、平民だからという理由で王妃に相応しくない、否だと言える国民など、極少数だろうなとは思う。
自軍の三倍はいた敵軍を、母様はたった一人で滅したのだから。
僕は腕輪を拾い上げ、後ろのシンクに投げ渡した。