「おまっ! 落としたらどうすんだ?!」
「落とさんだろう、お前なら。ヴァリエール夫人、憲兵はいますね? 連れて行って尋問して下さい。証人が必要というのなら、私がなりましょう」
唖然として僕らを見ていたアエラおばさんは、ハッとなった後近くにいたメイドに憲兵を呼んで来るよう指示を出す。
その隙に逃げようとしていたアレンだったが、僕はブランシュを首元に突きつけた。
「何処に行く気だ、アレン・ヴァレリィ。逃げた所で、貴様に逃げ場などないと知れ。既に貴様には、姉君がマーカーをつけて補足している。何処へ逃げようとも、すぐに見つけ出されるのがオチだ。大人しくしていろ」
そう声をかけると、アレンはガクリと肩を落とし俯いてしまう。
僕は憲兵が到着するまで、アレンにブランシュを突きつけたまま見つめていた。
ようやく憲兵が到着し引き渡した後、僕はホッと息を吐く。
ヴァリエール家の家宝は、一時的に王家が引き取る旨をシンクがアエラおばさんに伝えてくれていたし、おじさんも伝えられた所で了承してくれる事だろう。
「はぁー…」
僕は深いため息を吐きながら、天を仰ぐ。
あの腕輪が暴走しなくて、本当に良かった。
嫌な気配を漂わせていたのに気付いて、アレンから引き剥がさなければとあの行動をしたのだが、案外彼が小者で助かったな。
さて、ロゼおじさんに挨拶してから帰るか、と僕は体勢を戻して振り向くと、ユエが顔を赤らめ僕を見つめていた。
「…ん? ユエ、どうしたの?」
「………っ…格好良いー……っ!! …好きー……っ!!」
彼女はそう言い、自分の顔を手で覆ってしまう。
え、マジでどうしたの君。
困惑しながらユエを見つめていると、隣にいたユタカが苦笑した。
「さっきの王太子モードのグンちゃんが格好良すぎて、さっきからこの状態なんだよユエ」
「え、えぇー……? あんなの、王宮にいたらいくらでも見れるだろ…? それにそのモードの僕、今より着飾ってるじゃん。そっちの方が格好良くない? ユエ? 戻っておいでー?」
彼女の肩を掴み、軽く揺さぶる。
しかし、キュー…とイルカみたいな声を上げながら、ユエの状態は治らない。
「アオが王子様してて格好良いぃ…好きぃ……っ! 私の王子様って感じ…ヤバ…血圧上がるわぁ…っ!!」
「うん、僕も君が大好きだけどね? ちょっと現実に戻って来ようか、ユエ? あと血圧上げないで、まだ君若いだろ?」
そう言いつつ揺さぶるが、やはり治ってくれない。
どうしたら良いのかわからなくなって、僕はユタカを見た。
「放っておいて良いよ、グンちゃん。私が連れてくから。ほら、ユエ。行こうか」
ユエの手を取り、ユタカは歩き出す。
心配でユエの横を歩いていたが、熱に浮かされたような表情を浮かべる彼女に、僕は苦笑いを浮かべた。
「そんなに格好良いかなぁ…」
「グンちゃんは格好良いよ」
クスクス笑うユタカの言葉に、僕らの後ろを歩いていたシンクが少し不満そうな声を上げる。
「ユタカ、俺はー?」
「グンちゃん以上に格好良いよ。もう…すぐ嫉妬するんだから。大丈夫だよ、シンク。私はシンク以外見ないからね」
おーおー、お熱い事で。
うちの彼女は、いつになったら正気に戻ってくれるんですかね。
と、僕の携帯に着信が入り、僕は皆に断って少し離れる。
「はい、もしもし?」
『よー、グンジョウ。俺俺』
王立図書館からの着信だったので、またリリアさんが何かやらかしたのかと思ったのだが、相手はタイラーさんだった。
意外な相手で、ほんのちょっとだけ僕は驚く。
「タイラーさん…オレオレ詐欺というものが流行っているらしいですよ」
『個人所有の携帯にかけるって、それどっから情報漏洩してんだって話になるだろ。しかも、王族が所有してる携帯にだぞ? そんなん逆探知されてすぐお縄だろうに…じゃなくて』
僕が戯けて、タイラーさんにそう言うとマジレスされてしまった。
いや、まぁ…その通りなんだけどさ。
むしろこれカヅキおばさんのとこの製品だから、悪用した瞬間におばさんのとこに通知行くって言っていたような…。
『お前が読みたがってた本の新作出て、今日入庫したんだわ。今回も結構分厚いんで、読みにくるか? ってお誘いだったんだけどよ』
「本当ですか?! うわ…読みたい…!!」
春休み中だから夜更かしした所で問題はないし、次の魔王の遺物もまだ探知出来ていない。
春休みだからといって宿題は渡されてはいたが、春休み初日に全て終わらせたし。
次の訪問先もまだ決まっていない。
これチャンスでは?
『まぁ、来るなら来いや。んじゃな』
タイラーさんはそう言い、通話を切った。
僕は他のメンバーを見る。
「グンジョウ、おじさんに挨拶してからだからね? 読みたい気持ちはわからなくもないし。挨拶したら飛ばしてあげるから」
シャナが呆れた目を僕へ向けながら、こっちへ来る様手を振った。
「姉君、ありがとう。本当に感謝する」
「まったく…この本馬鹿め」
全くもってその通りなので、僕は何も反論せず近寄った後、姉からのデコピンに耐えるのだった。