ロゼおじさん達に挨拶をした後、シャナに王立図書館まで飛ばしてもらい、職員用の扉から施設内に入る。
「よー、お疲れー」
カウンターにいたタイラーさんが、ヒラヒラと手を振りながら僕に声をかけてくれた。
「お疲れ様です。連絡ありがとうございました」
「おー。お前の机に置いてあるから、読め読め」
ニッ、と笑ったタイラーさんに感謝しつつ、僕は自分に与えられた机に向かう。
そこに鎮座している本のタイトルを見てワクワクが止まらず、僕は椅子を引いて座った後、本にかぶりつくように読み始めた。
どれくらい時間が経っただろうか。
カチリ、と机上のライトがつく音がして、僕は本から顔を上げる。
「…リリアさん」
「やっほー、グッさん。その新刊面白い? あ、いや、面白いからこんな時間まで読み耽ってるんだもんね。愚問だったわ」
たはは、とリリアさんは笑う。
周りを見ればもう人はおらず、図書館内も暗くなっていた。
かなりの時間ここに居座ってしまったようで、僕は立ち上がる。
「…すみません、業務の邪魔してたようで…帰りますね」
「あー、良いよ良いよ。新刊いっぱい来ててさ。私他、残業組がいるんだよ。この間グッさんには迷惑かけちゃったし、読み終わるまでいてていーよ。部屋の電気消さなきゃだから、ライト付けただけだしね」
ゴメンだけど消すね、とリリアさんは言い、後ろ手に手を振りながら退室して行った。
直後、部屋の電気が消され、光源は僕の机のライトのみとなる。
「やべぇ…今何時だ?」
携帯を見ると午後8時くらいで、おじさんの家を辞したのが確か昼前だったはず。
約8時間もぶっ通しで読んでて、まだ半分くらいしか読み終わっていない。
しかも携帯には、シャナからメッセージが入っていた。
【訓練の事忘れてるでしょ。カヅキおばさんと母様呆れてたよ。春休みだから、訓練早めにするって話してたじゃん。後で二人から扱かれろ、馬鹿弟】
「やっちまった…っていうか、なら電話して来いよ馬鹿姉。何のための携帯だと思ってんだ……まぁ、やらかしたもんはしょうがないし…うん。開き直ろう」
他にメッセージが入ってないかと、アプリを開く。
まぁ、カヅキおばさんからも入っていたのだが…ちょっと心抉られる内容だったので、そっと閉じておいた。
「よーし、読破して明日怒られよう。そうしよう……なんで誰も電話くれなかったんだよ…っ?!」
机に突っ伏して、少しだけ嘆く。
これで着信履歴があったなら、それこそ僕が全面的に悪…いや、訓練の事忘れて読書してた僕が悪い。
だって仕方ないじゃん。
この新作出たの、5年ぶりなんだからさぁ?!
統合騒乱で作者さん亡くなったかと思ってたら、ちゃんと無事だったけど…続編がなかなか出なくて、やっと今日見れたってわけなんだから…大目に見てくれないかな、おばさん。
「いや、無理か。うん、分かってる、分かってますよ希望的観測だってのは…」
「グッさん、独り言多くね? 糖分足りてない系かい?」
作業場の方からリリアさんが声をかけてくる。
カフェオレ飲む? と聞かれたので謹んで遠慮させていただいた。
リリアさんが作るカフェオレは激甘で、昔一口飲んで吐いた事があるからだ。
これが頭を回転させるのだ、と言われて、それは僕には必要ないですと答えた記憶がある。
「いや、あの、訓練があるのすっかり忘れてて…」
「あー、成程。先生が厳しいから怒られるのが怖い系か。まぁ、本の虫のグッさんには仕方ないねー。と? 誰か来たみたい?」
僕の傍でカフェオレを飲みながら、リリアさんが職員用の扉の方を見た。
職員の一人が応対に出ているようだが、僕がいる場所から遠く、誰が来たのかわからない。
その内、職員の男性がリリアさんの所に来て彼女に耳打ちする。
それを聞いたリリアさんが、僕の方を見てニヤリと笑った。
「何ですか?」
「愛しい彼女さんが会いに来たってさ。あの後全員に、写真見せてグッさんの彼女って触れ回った甲斐があったなぁ」
僕はガタッと椅子を鳴らしながら立ち上がり、慌てて職員用の扉に向かう。
そこには、レジ袋を持ったユエが立っていた。
「ユエ!!」
「…はい、これ」
ユエが僕に袋を差し出してくる。
彼女は少ししょんぼりしているようで、俯いていた。
「ユエ、どうしたの? 僕が訓練サボったから、カヅキおばさんから何か言われた?」
袋を受け取り、彼女に問いかける。
ユエは首を横に振り、更に俯いた。
「ううん…むしろ、ママは笑ってたけどね。普段のメニューの十倍は熟させてやるから覚悟しておけ、って伝えろとは言われた…」
「あー…うん、それは勿論なんだけど。じゃあ、なんで君そんなに落ち込んでるの?」
ユエは少し声を落としつつ、言う。
「アオが行っちゃったの、全く気付かなくて…気が付いたら寮って…私どんだけ惚けてたんだって、落ち込んでるだけ…」
「うーん…」
そこは僕の手に負えなかったから、ユタカに任せてしまったんだけど。
そんなに落ち込む事かなぁ…。