ノーム1の月。
最高学年に上がった僕は、ぼんやりと空を見上げていた。
「アオ? どうかしたの?」
「いや…春だなぁ、って思って」
ユエが顔を覗き込んできて、僕は彼女に笑いかける。
入学式が行われている体育館から学園長のスピーチが流れてきており、少し眠そうにしているようで言葉が途切れ途切れだ。
そんなBGMを聴きながら、僕はユエに膝枕をしてもらい、誰もいない屋上で二人きりを満喫している。
卒業式同様入学式も生徒数が多いので、在校生は新学期が始まるまで休みなわけなのだが。
それを良い事に、僕とユエは屋上デートをしているわけである。
誰もいない校舎を二人で歩くのは、少し楽しかった。
音は体育館の方から聞こえてくるのだが、それでも僕らだけしかいないような錯覚を覚えたから。
「制服着てきてって…。みんなに内緒、って言うからどうしたのかと思ったんだけど」
「んー…ダメだったかなぁ?」
僕は彼女に甘えるように、ユエのお腹に顔を埋めた。
女性特有の柔らかさで、尚且つ彼女の甘い匂いが鼻腔をつく。
安心できる匂いに、僕はユエの腰に手を回し抱きしめた。
彼女はしょうがないなと笑いながら、僕の頭を撫で始める。
先月のカヅキおばさんの扱きがキツすぎて、ユエに癒されたかったのだが…迷惑だっただろうか?
ここにいるの、つまらないかな?
「ダメじゃないけど…少し驚いただけ。ん、もう…アオ、そんなに顔押し付けないでよ。甘えん坊だなぁ」
「二人きりだし、良いじゃん。こんな事するの、君以外いないんだからさぁ」
ふふ、とユエは笑い、優しく頭を撫でてくれる。
僕は心地良くて、目を閉じた。
「春の陽気ってさ、眠くなるよねぇ…」
「寝ないでよ? 寝たら、アオを城の寝室に飛ばすからね」
それユエも一緒? と尋ねたが、僕一人だと答えられてしまう。
それは勿体無いので、僕は渋々起き上がった。
「アオ。私、少しお腹空いてきた」
「うん…キューキュー音してるもんね…」
ユエのお腹から顔を離したが、それでも彼女の腹の虫が鳴っているのが聞こえる。
少し頬を染め、ユエはお腹を抱えて蹲った。
「…言わないでよ、恥ずかしい…」
「そんな君も可愛いよ」
僕がそう言うと、ユエはほんの少しだけジト目になり、睨みつけてくる。
何故?
「アオは、私が太っても愛してくれるの? 私がブクブク太ったら嫌でしょ?」
「え? 別に嫌じゃないけど? まぁ、意図的に健康を害するレベルになるのは、ちょっとどうかとは思うけど。別に君が太ろうが、それこそ何処かしら欠損したり、動けなくなっても、僕は君を愛し続ける自信しかないけど?」
そこまでのレベルは引く、とユエに言われてしまったが、逆に聞いたら君だって同じ事言うだろうにね?
ここに来てから2時間は経過しているし、もう昼前なはずだから仕方がない。
僕は立ち上がり、彼女に手を差し出す。
「お昼ご飯食べに行こうか、ユエ」
「うん」
ユエは僕の手を取り立ち上がった。
校舎内に入った瞬間、この季節にしては珍しいスコールが降り始め、間一髪だったな、なんて後ろを振り返りながら思う。
「うわ…凄い土砂降り…」
「本当だね。着替えがないから、すぐ城に引き返す羽目になってたよ」
ユエと手を繋ぎながら外を眺めていると、彼女がぎゅっと握っていた手に力を込めてきた。
「ん? どうしたの、ユエ?」
「…私が制服濡れたら、アオ…そういう気分になる?」
何聞いてきてんだ、こいつ。
上目遣いでそんな事聞かないでくれ。
襲われたいんだろうけど、そうはいかないからな?
「ユエ…あと一年だから我慢しろよ…。それに、今妊娠したら戦力から外されるの理解してる? むしろ僕、魔王関係なしに殺されるんだけど? 君、父親無しで子供育てる気?」
片手で彼女の肩を掴み、真剣な顔で問う。
ユエは目を泳がせ、困ったように眉を下げた。
「…う…好奇心で聞いただけじゃん…そんなに詰め寄らなくても…」
「煽るなって言ってんだよ。それに正直に言えば興奮はするよ。そういう気分になるに決まってんだろ。好きな人のそんな状態なんて…実行しようとするなよ?」
少し動こうとしたユエに釘を刺す。
もうそろそろ雨も止むだろうに、何処に行こうというのか。
「しないってば。お腹空いたから学食行こうよ。お休みでも、先生達はいるから開いてるはずだよね?」
「あ、うん。春休みでも、残ってる学生もいるからね。常時開いてるよ」
ユエは僕から手を離し、階段を数段降りた所で振り返る。
そして、
「アオのえっち」
とニヤリと笑って降りていった。
「ほぉ…? …煽ったのは何処の誰だ!! 待て、ユエ!!」
待たない、と彼女は笑って走っていく。
僕も彼女の後を追うように、階段を駆け足で降りていった。
◆◆◆
学食には、いつもより人は少ないが昼食を食べにきている人がちらほらいる。
メニューも春休みだからか、あまり多くはなく、僕とユエは別々の物を頼んだ。
それを持って空いているテーブルに置く。