「…2学年に上がった辺りから、私も告白されてまして…その…襲われかけた事も何回か…」
「はぁ?!」
驚き過ぎて、声量が跳ね上がる。
思わず立ち上がった僕に、彼女は落ち着いて欲しいと言ってきた。
「勿論全部撃退したし、やってきた男子は全員ママにチクって、停学とか退学処分にしてもらったから。多分ユタカの方も同じ事してると思うし」
「あー…なんか一時期、男子生徒の数が異様に少ないな、なんて感じてたのその為だったのか…じゃなくて!!」
周りの視線が集まってきたので、僕は食器を片付けるついでに、彼女の手を取って学食から出る。
誰もいない空き教室にユエを連れ込み、肩を掴んだ。
「なんで言わないの?!」
「アオだって言わなかったじゃん。他の女子生徒から告白されてますって」
それはそうなんだけど。
僕とユエでは状況が違うだろうに。
彼女は不満そうに、口を尖らせながら僕を見上げる。
「私の事責められなくない?」
「あのね、ユエ。君女の子なんだよ? …そう言うと君さ、立花の娘だからって言うけど。心配する僕の身にもなってよ。僕の気持ち、理解出来ない?」
あー、やばい。
泣きそう。
うちの彼女、僕より強いからあまり危機感持ってくれないのが、難点なんだよな。
危機感持つの、大人の男性だけとか言ってたし。
僕はユエを抱きしめて深いため息をつき、その肩に頭を置いた。
「…理解出来る。ごめん、アオ。そんなに心配してくれて、ありがとう。今度呼ばれたら、すぐアオに言うね。でも、アオも私を呼んでよ。正妻は私なんだから」
「正妻も何も…僕の奥さんは君だけだってば…」
顔を上げるとユエと目が合って、僕らは笑い合う。
そして、軽めのキスをした。
◆◆◆
ユエと手を繋いで、誰もいない校内を散策する。
あと一年後には卒業かぁ、なんて感慨深くなった。
「来年の今頃には、私アオの奥さんかぁ…ふふ…嬉しいなぁ」
「本当にね。魔王の問題が片付いてなくても、推し通させてもらうから安心してよ」
新入生のレクリエーションも終わったようで、本当に校舎内に人の気配がない。
ユエの手を撫でながら、僕はふと思った事を彼女に聞く。
「そう言えば、ユエは進学しないの?」
「ん? なんで?」
キョトンと、ユエは僕を見上げ首を傾げた。
「ほら、ユタカとかシンクは進学するだろ? シャナはどうか知らないけど。ツルギは騎士団に入るし…僕は多分国外とかに行って、外交とかしつつ、国に戻ったら父様と一緒に政務とかやるだろうし…ユエ、暇にならない?」
「なるわけないじゃん。王妃様の業務、私もする事になってるんだから。それに、アオが帰ってきた時、誰がおかえりなさいって言うの?」
あ、出迎えてくれるんだ。
嬉しい。
「でもさ、ユエ。多分新婚でも僕、仕事優先しなきゃいけないと思うんだけど…」
「それは、まぁ…寂しいけど仕方ないというか。私、アオが帰ってくるまで待ってるから。でも、帰ってきたら甘やかしてね?」
僕も君に甘えたいので、その日は多分濃密な夜になるのだろうな、と想像して顔を背ける。
アオ? と顔を覗き込まれたので、今は顔を見ないで欲しいと伝えた。
「えっちだなぁ、アオは」
「…好きな女性をそういう目で見て何が悪い」
そう告げると、ユエも顔を赤らめてお互い無言で歩く。
そのうち体育館に行きつき、ユエが僕から離れ体育館の扉を開けようとした。
鍵は閉まっておらず、ガラガラと音を立てて扉が開いていく。
更に彼女は用具室を開けて、中からバスケットボールを出してきた。
「ユエ、勝手に入って良いの?」
「あとで片付けておけば問題ないんじゃない?」
そういうもんかなぁ…。
ユエはドリブルしながら、バスケットゴールにシュートする。
ガコンッと音がして、それはゴールに入らず落ちた。
「んー…難しい。選手の人とか見るけど、綺麗に決めるんだよねぇ。魔法なら的を外すなんてしないんだけど」
「そりゃ練習してるから当たり前でしょ…。あと、魔法をスポーツに持ち込まないの」
ユエは少しボールをドリブルした後、僕にパスしてくる。
やってみせろって事なのだろうけど、僕だってそんなに上手い方ではないんだが。
僕はボールを少し回転させながらシュートする。
ポスンと、ボールはゴール中央の網の中に吸い込まれていった。
「…すご」
「いやいや、これでも下手な方なんだからね?」
ボールと僕を交互に、ユエは見る。
褒められてなんだけど、男子生徒なら大体は出来る事ではないだろうか?
「アオ! あれやってあれ!!」
「あれじゃ分かんないよ、ユエ…」
こう、と彼女の動きで理解した僕はボールを回収し、少し離れた所からドリブルした後、高く飛んでゴールに叩き込む。
しかも片手で。
途端、ユエの黄色い声が上がった。
「きゃーっ!! アオ格好良いーっ!! 素敵っ!! 好きーっ!!」
「…テンションたっか…」
バスケの選手には見劣りするだろうに、そんなに格好良いだろうか?
僕はゴールリングから手を離し、床に着地する。
ユエは目を輝かせながら、次は何をしてもらおうかと思案しているようだった。