彼の姿勢、弦を引く角度、矢を離すタイミング、そしてその呼吸。
集中して、的を見る。
僕は矢から手を離した。
矢は一直線に飛び、的の真ん中を射抜く。
ふぅ、と一呼吸をし、僕は後ろを振り返った。
ユエは驚いているようで、口元に手を当て僕を見つめている。
「流石グンジョウ。見稽古上手いねぇ」
「ただの劣化コピーだろ、こんなの。見稽古って程でもないよ。元が良かっただけで、僕自体はそんな大した奴じゃない」
ありがとう、とアラスターに礼を言いながら弓を返し、場に降りて的に刺さった矢を引き抜いた。
矢を回収して戻ってくると、渡せと言われたので素直に渡す。
「道具の手入れ手伝うよ?」
「いーよ、俺のだし。次どこ行くん?」
何処行こうかな。
少し疲れたからユエといちゃつきたいんだけど。
でも僕の趣味って読書なわけだが、学校内の図書室は閉まってるし、行った所で彼女には退屈だろうしなぁ。
時刻は午後3時。
甘いものが好きだったなら、おやつの時間なんて思う所なんだろうけど。
「うーん…どうする、ユエ?」
取り敢えず彼女の意見も聞こうと思って尋ねたが、ユエは僕を見つめたまま微動だにしなかった。
「ユエ? ユエさーん?」
僕は彼女の前に行き、目の前で手を振る。
そんな僕にユエは言った。
「格好良い…動画撮っとけば良かった…」
「えぇ…。さっきも言ったけど、劣化コピーなんだってば。アラスターの動きが良かっただけ。模倣の動きなんて、格好良いわけないだろ?」
ブンブン、とユエは大きく首を横に振る。
ポニーテールもその動きと連動して鞭のように動いた。
「アオは格好良いんだよ!」
「グンジョウ、何であだ名青なん? 全身青いから?」
アラスターは道具を仕舞ってきたようで、首を傾げながら尋ねてくる。
「言うな、アラスター。だいたい私服は青じゃないだろ? 髪と目の色だけで、ユエが僕を青って呼ぶわけないじゃないか。僕の名前、異国だと群れる青って書くんだって。だから、アオって呼んでるんだよ彼女は」
「へー、成程ぉ。いや、ユエ嬢がそーゆー思考の持ち主って決めつけたわけじゃねーからな? 不愉快になんなよぉ」
そんな表情してただろうか?
少し困りながら笑うと、アラスターは僕の肩を軽く叩いてきた。
ただの軽口だから気にするな、と彼は言う。
「そういや、学園都市内に巨大パフェが…」
「僕が甘味類苦手な事を前提に話してるよな? それに、それはシャナが完食したやつじゃないか…見たくねー…」
あれを思い出して、僕は天を仰いだ。
んー、とアラスターは少し考え、一つ手を打つ。
「シャナ嬢、あれ完食したん? マジで? あれ普通、五人前から九人前以上あるのに? すげー。じゃあ、お前の趣味も満喫出来て、ユエ嬢も満足できる店教えてやるよ」
「え、そんな店あったっけ?」
あるある、と彼は言い、携帯を取り出して地図アプリを開いた。
場所を把握した僕は、自分の携帯でそれを調べ店の内容を見る。
確かにアラスターの言う通り、僕の趣味も楽しめるし、ユエも満足出来るかもしれなかった。
「ありがとう、アラスター。休みなのに無理言ってすまない」
「これくらい、いーって事よ。クラス離れたからあんま遊べなくなったけど、暇出来たらエミルとか他の奴らと一緒に遊ぼーぜ。あ、お前の弟のシンク? 運動出来る系?」
どうだろう?
山道登った時息上がってたから、無理じゃないかな…。
「運動出来ないかもな…」
「マジか? 体力無い系? あー、いや…元々病弱だったんだっけ? そりゃ運動系の遊び誘えねーなー。カードゲームとかは得意?」
アラスターは色んな遊びを提案してくる。
本人、ここにいないんだけどな。
「今度シンク連れて、君を紹介するよ。その時にでも聞いてくれ。ユエ、足痺れてない?」
正座したままのユエに尋ねると、彼女はスッと立った後よろめいた。
よろめくくらいなら立たなきゃ良いのに。
そう思いつつ彼女を抱き止める。
「…足、痺れてた…」
「だろうね。アラスター、悪いけど…」
いーよー、と彼は笑いながら手を振ってきた。
僕はユエをお姫様抱っこで抱き上げ、もう一度アラスターに礼を言ってから、弓道場から出た。
◆◆◆
しばらく歩いていたら、ユエから降ろすように言われ、素直に降ろしてあげた。
別にあのままでも良かったが、彼女的に人に見られるのは頂けなかったのだろう。
アラスターに紹介された店に行き、僕らは案内された席に座る。
そこは喫茶店だったが、棚一面に色んな本が収納してあった。
メニューも多種多様なものがあり、女性が好きそうな甘いものある。
「好きな物頼んでいいよ」
僕はユエに笑いかけながら、本棚を見た。
見た事がない本のタイトルが所々にあり、何の本なのだろうと興味が湧く。
「見たいのなら、持ってきて見れば良いじゃない」
メニューを見つつ、ユエが苦笑した。
僕を思って言ってくれているのは、わかるんだけど…。
「んー…別に良いや」
ユエとのデートそっちのけで、本にのめり込むのもなぁ、と思ってしまったのだ。