ノーム2の月。
魔王の遺物探しの為、僕らはロスヴィータの領地にやってきていた。
「私、ロスヴィータ領って初めて来た」
「私も。妃教育でどういう所かは知っていたけど、話に聞くだけじゃ分からない事もあるんだなって、今実感してる」
ユエとユタカが、馬車の窓から外を見ながらそう呟く。
まぁ、カヅキおばさんが他の領地を訪問する理由も特にないし、訪問した所で彼女らを連れて行く道理もないから、ロスヴィータを知らないのも無理はない。
ロスヴィータは元々農耕が主流の領で、リューネでは唯一亜人族が暮らしている領だ。
統合騒乱が起こる前、父様と一緒に来た事があったが、他の領とは違い領都というものが存在していなかった。
何故、と父様に問いかけると、
「ロスヴィータは、亜人族と共に暮らす一族だ。人族だから、式典やら何やらはちゃんとした格好で出てくるが、基本民とそう変わらない姿で過ごしている。オーリッド・シトリン・ロスヴィータは驕り高ぶる事とは無縁の男でな。民や亜人族に寄り添うような者だ。だからこそ、亜人族の代表達も彼の話には耳を傾けるのだろう。あとはシャルだな。力で語る亜人族も多いと聞く。彼女の言葉に従う者も多くてな…本当、オーリッドがシャルに求婚しなくて良かった…」
最後の方は安堵が入っていたような気がするが、概ねそんな感じの事を父様は言っていた気がする。
統合騒乱で、一族全て亡くなってしまった時に母様が、ロスヴィータで一番力を持っていた獣王であるハンフリーさんにお願いして、ロスヴィータの称号を引き継いでくれないかとお願いしに行った。
結局力勝負になっちゃったわ、なんて笑って帰ってきた時なんて、父様が顔真っ青にしてめちゃくちゃ心配してたっけ。
まぁ、ラゼッタを産んだ後くらいに統合騒乱は起こるわ、世界が崩壊するのを止めるために力を振るい、重傷を負ったにも関わらずハンフリーさんと力勝負するわで、父様としては胃が痛くなった事だろう。
「亜人族って、結構力で話が決まるって聞いたけど…グンジョウ大丈夫そう?」
シャナが心配そうに僕を見つつ尋ねてくる。
姉はハンフリーさんに会った事がないので、そういう反応になるのだろうけど。
「心配してくれてありがたいけど、ハンフリーさんには僕も何回か会ってるし、亜人族のまとめ役だからね。話はちゃんと聞いてくれるよ。まぁ、何か決める物事があったら、それは戦闘でって事になるだろうね」
父様とは互角だったけど、今の僕はどうだろうか?
いや、今の父様にも負けているのに、獣王であるハンフリーさんに僕が勝てるとは思えないな。
「…帰ったら、父様にも稽古つけてもらおうかな…」
「グンちゃん向上心凄いねぇ。あ、ねぇねぇシンク! 帰ったらトーナメントで、誰が一番強いかって決めない? 一番ビリの人は、ママ特製の地獄の特訓メニュー受けてもらうの!」
なんて事言い出すんだ、ユタカ。
シンクも苦笑いしてないで止めろよ。
「ユタカ、それさ。自分がビリになるって想定で話してるの? ママの特訓メニューなんて生温いって、テスタロッサ夫人が出張ってきたらどうするつもりなの?」
「う……それは困る…」
流石ユエ。
ユタカの暴走を止めてくれて助かった。
後、トーナメントっていうけど何で競うつもりだったんだ彼女は。
「ユタカ、興味本位で聞くんだけどさ。何で勝負するつもりだったの、それ」
「ん? えーと、魔法と体力測定と学力と…」
ユタカは指折りそう言っていくが、魔法は僕とツルギに分が悪すぎる。
それに、体力測定は魔力を使わない純粋なものだろうから…。
「シャナに不利だな、それ」
「はぁ?! 魔法には自信ありますがぁ?!」
シンクがポツリと呟いた言葉に、シャナが食ってかかる。
いつも乗っている車より狭いので、あまり暴れられると困るんだけど。
「シャナ、落ち着け」
「だってさ、ツルギ君…っ!!」
ツルギが姉の頭を撫でて、落ち着くよう言うがシャナは涙目になり、彼に抱きついた。
だから狭いので、イチャつかないでもらえないだろうか。
「シャナちゃん…」
「羨ましい…」
ユエとユタカが、僕とシンクを見る。
僕らは彼女らから目を逸らして苦笑した。
三人掛けなので、僕の隣にツルギとシャナ、シンクの隣にユエとユタカが座っているわけなのだが。
「アオー…」
「城に帰ったら存分にしてあげるから、今は我慢して」
シンクの隣に座っているユタカは弟に抱きついてご満悦だが、僕の正面に座っているユエはジト目で僕を見る。
そう彼女に返すと、ブスッと膨れてしまった。
してあげたいのは山々なのだが、この状態で出来るかと言われたら出来ないので、ユエには我慢してもらう他ない。
その内、ハンフリーさん達がいる場所に到着したようで、馬車が止まった。
「わぁ…!!」
「すごーい…!!」
草原の中、移動式の住居が寄り固まって一つの集落を作り上げている様子に、馬車から降りたユエとユタカが感嘆の声を上げる。