「へぇ、ロスヴィータの家宝ですか…ちょいとアンタ、起きな。家宝の事で、殿下方が話を聞きたいってよ」
住居に立て掛けてあった箒を持ってきて、サマンサさんは柄の方でハンフリーさんを殴打し始めた。
あんまりな横暴に、僕は止めに入ろうかと思案した所で、ガッハッハと笑いながらハンフリーさんが起き上がる。
「サマンサ…お前、元々人族側で暮らしていたはずなのに、うちの流儀に慣れてきたんだなぁ」
「当たり前だろ。アンタと番って何年になると思ってんだい? あたいは起こす為とはいえ殴打されたくないから、早くは起きるけどねぇ。まったく、人族の嫁貰ってんだから少しは容赦しな、ハンフリー」
これ、日常茶飯事なんですか…。
亜人族について少しは勉強していたとはいえ、こういう事があるとは思わなんだ。
父様、母様、もうちょっと詳しく教えてもらえませんでしょうか…。
内心そう思っていると住居のカーテンの隙間から、ハンフリーさんに似た半獣人の女の子が僕を見ている事に気付いた。
そちらに目を向けると、目が合ったその子はカーテンの影に隠れてしまう。
僕の目線に気付き、サマンサさんは住居に向かって声をかけた。
「スノウ、殿下方にご挨拶しな! 全く、なんでアンタはそんなに引っ込み思案なんだい? 別に殿下方はアンタを取って食いやしないよ!」
「うぅ…」
スノウと呼ばれたその子は、そっとカーテンから顔を出し、
「スノウ・フレイアです…よろしくお願い、します…」
そう自己紹介してくれた後、また引っ込んでしまう。
その様子に、サマンサさんは盛大にため息をついた。
「誰に似たんだか…すんませんねぇ、殿下方」
「いえいえ。知り合いにも似たような子がいましたし…」
ツェリ、元気かなぁ。
彼女の事を思い出していると、後ろから服を引っ張られる。
見なくても誰がやっているかなんてお見通しで、僕は後ろを振り向きつつ苦笑した。
「ユエ」
「………」
少し拗ねたような表情を浮かべ、彼女は僕から目を逸らしていた。
それでも、僕の服を掴む手を離してはいない。
本当に、僕の婚約者で恋人の彼女はとても可愛い。
周りに誰もいなかったら、抱きしめて愛でられるのに。
残念で仕方ない。
「ア、アオ…」
ユエは手を離し、少し頬を染める。
読ませる為に思考したし、本心でそう思っているので読まれても別に構いやしない。
本当にユエ可愛い。
「もう良いから…っ!」
小声で彼女は抗議してくる。
そんなユエを見られて満足なので、話を戻す事にしよう。
「それで、ロスヴィータの家宝の事ですが…」
「おう。オーリッドのずーっと前のロスヴィータの奴が、俺達の土地に祭壇を建てさせて欲しいって言うからよ。何でも、禍々し過ぎて家に置けねーってんで、それに対抗出来そうなうちにって寄越して来たらしい。俺のひい、ひい、ひいじいさんの代だったか。オーリッドの家から結構物資とか融通して貰ってたから、まぁうぃんうぃん? ってやつだったんだろ。欲しけりゃ持ってっていーぜ。別に無くても、ロスヴィータは引き継いでいくしな。王妃の嬢ちゃんからもお願いされたってのもあるが、それがオーリッドへの手向けだ」
付いてきな、とハンフリーさんは僕らを案内してくれる。
案内された先は洞窟で、全く人の手が入っていない様子から見るに天然なのだろう。
「この先は、ロスヴィータの家との契約で入れなくてよ。悪いが、俺の案内はここまでだ」
「いえ、ありがとうございますハンフリーさん。何か困った事があれば、王宮に連絡して下さい。出来得る限り力になります」
僕がそう言うと、ハンフリーさんはまたガッハッハと笑った。
「坊ちゃんは、やっぱり王妃の嬢ちゃんの息子だなぁ。嬢ちゃんも言ってたよ。『何か困った事があったなら、すぐに連絡してきてください。あたしなり陛下なりがすぐお力になりますから』ってな! 俺と力比べして、俺を打ち負かした後によぉ! あれ言われた瞬間爆笑しちまったぜ!!」
「あー…ははは…まぁ、それが王家の総意だと思っていただければ幸いです。では、失礼します」
気を付けろよ、とハンフリーさんに見送られ、僕らは洞窟内に足を踏み入れる。
少し進んでから、シャナが口を開いた。
「亜人族って、何種類くらい人がいるんだろ?」
「シャナ…それ授業で習っただろ…」
確か中等部あたりの学習のはずなんだけど、忘れたんだろうかこの姉は。
ツルギが挙手し、俺も知らないです、と言ってきたので、僕は少し嘆息しながらも話す。
「まず獣人族のフレイア一族。この一族は獅子の体躯を持った屈強な戦士が多く、性格はハンフリーさんみたいに豪快な人が多い。物事を決める時は戦闘で決める事が多いと聞いているよ。フレイア一族はこの土地に長くいて、ロスヴィータの家とも友好関係を築いていた。力も強いから、他の亜人族のまとめ役をしてくれている」
シャナが光の魔法を使って僕らを照らしてくれ、足元に注意をしながら進む。