〈ティアリー、フラムベルグ。君達を宝物庫から出したのは誰だい?〉
ティアリーとフラムベルグは、父様と母様の宝剣だ。
今は無くなってしまった祖国、スェッド国の宝剣であったこの剣達は、飽きたからという理由で二人を使い手として選び、見事祖国から脱出した。
そう聞いている。
統合騒乱で祖国が無くなってしまい、結局返せなかったと父様は少し落ち込んだらしいが、あと数百年はここに居てやるとフラムベルグは言っていた。
使い手、もしくは資格がある者でないと二人の声は聞こえず、どうやら僕は資格を持っていたみたいだ。
二人の声が聞こえたと母様に言った時、とても嬉しそうに笑ってくれたのだから。
「あたし達がいなくなった後、グンジョウが引き継いでくれるのなら安心ね」
そう言って。
〈お前の姉だ。あいつらに許可を貰って、お前の横に置いた〉
〈もう、フラムベルグったら…私の姿が少し見えないだけじゃない。そんなに不機嫌にならないで?〉
相変わらず仲が良いな、この二本は。
というか、体調悪いんで僕を挟んでの痴話喧嘩、やめてもらえないですかね。
〈意識が戻ったのなら、魔力を循環させるぞグンジョウ〉
〈私より、フラムベルグの方が相性良いものねグンジョウ? ふふ、少し妬けてしまうわ〉
あの、ティアリーさん。
フラムベルグ煽らないでもらって良いですかね?
加減間違えて黒焦げにされたら、たまったもんじゃないんで。
〈ティアリー〉
〈ごめんなさい、無駄口だったわ〉
フラムベルグに注意され、ティアリーは口を噤む。
そう言えば、母様に使っている躯体を二人に使用したら喜ぶんじゃないだろうかと、ふと考えた。
しかし、すぐさまその考えを否定する。
父様と母様みたいな事になりかねないから、提案するのはやめておこう。
僕の後の子孫、ユエとの子供や孫あたりが考えて実行してくれる事を祈る。
フラムベルグが僕の魔力回路へアクセスして、自分のと繋いできた。
そして魔力を循環させ始める。
普通の風邪なら薬を飲んで、対処療法で過ぎ去るのを待つのだが、そう寝込んでもいられない。
だからこそ、シャナはティアリーやフラムベルグを僕の横に置いて行ったのだろうから。
ティアリーは僕の額や首辺りを冷やしてくれているらしく、それがとても心地よくて助かった。
「ちょ…待て、水分抜けるぞ、これ…」
風邪だからと、魔力回せば良いってもんじゃない。
自分の再生能力と、発熱でウイルスを殺すのは変わらない。
それを促進させているだけなので、当然発汗はする。
それに気付いた僕は、二人にストップをかけた。
〈あら、私氷属性だから水くらいは生み出せるわよ?〉
「あ、そう…」
ミイラにはならないという事か。
それならそれで良いか。
なんて考えが頭を過っていった。
「水生み出せるからって、それを経口摂取しないといけないでしょうが。ティアリー、貴女グンジョウの中に水生成すればいいとか思ってない?」
ベッド脇から声が聞こえ、次いで蒼色が見える。
声からして母様だと、僕は思った。
「母様…」
「グンジョウ、起きれるかしら? それをやる前に、一回着替えた方が良いわね。あー…シーツも汗でダメになってるわ。貴女達、グンジョウ抱き抱えてるから寝具の交換をして頂戴。ルーティ、グンジョウの寝巻き取ってきて」
力が入らない僕の体を母様は軽々と抱え上げる。
僕は母様の腕の中、苦笑した。
「いや…母様に抱き抱えられたの、何年振り…重くない…?」
「そうねぇ…貴方が初等部の時以来かしらね? 重いわよ? あたしの身長を抜かして、立派に成長してくれているからね? それでも、貴方やシャナ、シンクやリーゼ達は、あたしとナズナの可愛い子供ですもの。そういうのあまり気にせず、ゆっくり休みなさいグンジョウ。今回は熱を出しただけだから、後一回眠ったら体調は良くなるわよ」
寝具の交換が終わったようで、僕はベッドに座らせられる。
母様が指を鳴らし、新しい寝巻きと交換してくれた。
傍に母様以外、ルーティやフラムベルグ、ティアリー、他のメイドがいるのは理解していたが、僕は母様に言う。
「…お母様…子守唄、歌って…」
母様の袖の服を握り、僕は俯いた。
この発言は熱に浮かされているから、と自分に言い聞かせて。
「ふふ。良いわよ。貴方が眠るまで、歌ってあげましょうね」
母様は僕を横に寝かせ、頭を撫でながら子守唄を歌ってくれる。
僕とシャナが小さい頃、眠れないと二人で手を繋いで母様達の寝室に行った時の事を思い出した。
あの時は父様も他国との戦争で城におらず、寂しくて眠れなくなってしまった僕とシャナは、母様達の寝室の扉を叩き、すぐに扉を開けてくれた母様を見て、泣きながら母様にしがみついた。
そんな僕らを優しく抱きしめて母様はベッドに連れて行き、頭を撫でながら子守唄を歌って一緒に眠ってくれたのだ。
それらを思い出す。
「これ…走馬灯ってやつかなぁ…」
「何馬鹿な事言ってるの、貴方は。寝てしまいなさい、グンジョウ。大丈夫。貴方が眠るまで、お母様が一緒にいますからね」
その声と頭を撫でる心地よい手に、僕はまた意識を飛ばした。
次に目を覚ました時、体調はすっかり良くなっていたし、何故かユエが僕のベッドの傍で眠っていて、逆に彼女が風邪ひくんじゃないかと心配したりしたのだった。