だが彼の方が一瞬反応が速かったようで、母様の刀を肘と膝だけで止める。
「流石転生者だと褒めてやろう。だが、私の攻撃がそれだけだと思っていたのか?」
ニヤ、と笑った母様は体を捻り、回し蹴りをツルギの側頭部に見舞った。
その攻撃も、彼は腕を使って防御する。
母様の攻撃に耐えられているツルギに、僕は驚くしかない。
転生者とは、こうも僕らと違うのかと。
「…その動き、貴様…」
母様も驚いていたようで、ツルギの頭突きに反応出来ず、攻撃を受けてしまう。
思わず刀を離し、母様はツルギから距離を取った。
「っ! 貴様、それは誰から習った。私が知る限り、それは要の一族の動きだ。貴様、要とどのような…」
「そんな無駄口を叩く暇があるなら、帰り方を教えろと言っている」
今度はツルギが仕掛ける。
獲物は持たず、母様に徒手空拳で戦いを挑んでいるようだ。
受け、いなしを繰り返していた母様だったが、目には疑問の色が浮かんでいる。
「カナメって、確か…」
「ママの旧姓だね。結婚する前はカナメカヅキだったはず」
僕の口から出た言葉に、ユエが補足を入れてくれた。
彼女も母様達の戦闘から目を離さないでいるようで、真っ直ぐ前を向いている。
しばらくツルギと打ち合っていた母様だったが、イラついたようで彼を蹴り飛ばした。
「帰り方とか知らぬと言っているだろう! えぇい!! 面倒だ! 一回吹き飛ばしてくれる!!」
母様の手に、魔力が収縮していく。
父様と僕はマズイと感じた。
「シャル! ここではダメだ! せめて外でやれ!!」
「待って母様!! ツルギ上に吹き飛ばしてからやって、それ!!」
僕らの焦りように、ユエはついていけていないようだったが、とんでもなくまずい事態になっているのは察しがついたようだった。
母様が詠唱なしの魔法を放とうとした瞬間、後ろから手を掴まれる。
「だから大技を使う時は、考えてから使えと何度も言っているだろうが」
「貴様がこちらに寄越した問題だろう。貴様の所で留めておけば、この事態にはならなかったはずだ。この責任は私にあるというのか、立花夏月」
母様が、背後に現れたカヅキおばさんにそう言った。
集めた魔力は霧散してもう発動の気配はない。
おばさんは手を離し、母様の足元に跪く。
「いえ。私の落ち度でございます、お嬢様。しかし、論点をずらさないでいただきたい。あの魔術はここら一帯を破壊するもの。苦言を呈させていただきますが、人体破壊の方が陛下や殿下の心労はなかったと進言致します」
「ならば責任を取れ。あの者の処遇、貴様に預けようではないか。立花邸にも地下牢はあったな? 明日までに答えを出せ、カヅキ」
は、とカヅキおばさんは頭を垂れる。
ツルギが、おばさんの魔法で影に飲み込まれていく。
彼の反応がなかったのは、多分蹴り飛ばした時に衝撃が脳までいって気絶したからだと察しがついた。
その時。
食堂の扉が大きな音を立て、開け放たれる。
その方向を見ると、息を切らしたシャナと、姉を止めようと走ってきている親衛隊が目に入った。
「母様! 彼、あたしの専属護衛にして!!」
一瞬、シャナの気が狂ったのかと思った。
母様も驚いて、自分の娘を見つめてしまっている。
「シャナ、何を馬鹿な事を言っている。黙って自分の部屋に帰っていろ」
「黙んない! あたしの勘が言ってるの! ここで黙って見逃したら、絶対後悔するって!」
冷たい母様の瞳がシャナを射抜くが、頑として譲るつもりはないようだった。
普段なら、こんな目を向けられたら絶対涙目になるような姉なのに。
しばらく睨み合いの状態が続いていたが、先に折れたのは母様の方だった。
「…カヅキ。私の娘も一緒に連れて帰れ。これも貴様の責任と心得よ」
「は。お前らすまんな。シャナ、手を出せ。屋敷に連れて行く。ユエ、お前も帰るか?」
カヅキおばさんに問われたユエは、首を横に振る。
「私は、グンジョウ殿下の専属護衛だよママ。犯人はママが連れて行くとしても、この状況で殿下を放り出すなんて、私には出来ない。代わりにユタカを連れて行って。シャナ姫も立花の家に行くんでしょう? なら、姫の専属護衛であるユタカも行くべき。そうでしょう? ママ」
なるほどな、とカヅキおばさんは納得したようで指を鳴らす。
ここでは何も起きてはいないが、多分ユタカが立花邸に転移されたのだろう。
おばさんは僕らに一礼した後、シャナの手を取り影に沈んでいく。
相変わらず、長距離転移が苦手なようだ。
「シャル! お前なぁ!!」
父様の怒声が聞こえ、僕らはそちらに目を向ける。
母様の肩を掴み、眉が吊り上がっていた。
「あれはやめろって、結婚前から言っていたはずだぞ?! 見たくないとも言っていたよな?!」
「あの状況下で、よくそんな感想が抱けたものね。ナズナ。あたしのあの態度は笑って流せ、と言ってたはずよね? あたしも」
母様も腕を組んで、父様に反論する。
夫婦喧嘩に突入しそうだったので、僕はユエの肩を掴んで、回れ右をした。
「殿下?」