これからはツルギが作ってくれるみたいだぞ、良かったなシャナ。
取り敢えず、クッキーの作り方をツルギに教え、僕は二人の部屋を後にする。
次に訪れたのはユエとユタカの部屋で、シンク達の所と同様にインターホンを押した。
少し扉を開く時間が遅かったが、ドアスコープで来訪者を確認してからだろうから、防犯意識はしっかりしているようで安心する。
「グンちゃん、いらっしゃい。どうしたの?」
いつもの可愛らしい服装に、フリルがついたエプロンをつけている所を見るに、家事をしている途中だったのだろう。
邪魔したようで申し訳ないと思いつつ、僕は彼女に紙袋を差し出した。
「これ僕が作ったんだけど、作りすぎちゃって。消費手伝ってくれないかな。あ、味の方はシャナのお墨付きだから大丈夫だよ。中身シナモンクッキーなんだけどね」
「え、本当? ありがとう。お茶の時間に頂くね」
ユタカはそう言って受け取る。
中身の説明をしていると、奥からバタバタと走ってくる音が聞こえ、リビングから玄関に続く扉が開け放たれた。
「アオの手作り?! はぁ?!」
掃除機片手に走ってきたのだろうか。
ホースの柄を固く握り締め、驚いた顔で僕を見つめている。
「ユエ、声大きい。あと掃除機壊れるから、引きずって来ないで。グンちゃんだって、お菓子の一つや二つくらい作れるよ。物覚えが早い子なんだから」
「あの、ユタカさん。僕小さい子供じゃないんですが…せめて、手先が器用とか言って…」
あら失敬、とユタカは笑った。
そんな僕らを見て、ユエは手を差し出してきた。
「ユタカ、それ全部私が消費するから渡して」
「えー。私だってグンちゃんのクッキー食べたいんだけど? そんな嫉妬しないの。おねだりしたら、グンちゃんきっと作ってくれるよ? それにユエの好物だって…」
ユエの好物?
僕はその情報をユタカに聞こうとしたが、慌てたユエが彼女の口を塞いでしまう。
「ダメッ!! 絶対言っちゃダメ!!」
「隠し事か、ユエ?」
ニコリと笑うと、ブンブンと音がつくほどユエは首を横に振った。
隠し事では無いけれど、言いたくないって事か。
僕はチラリとユタカを見る。
ユタカも僕を見ていたようで、困ったように眉を下げた。
〈喋らなくても念話って方法があるんだけどね〉
〈頭に血が上ってる今のユエからしたら、そこは頭から抜け落ちてるんだろうなとは思うけど。グンちゃん、ユエの好物知りたいのってなんで? 作ってあげたいの?〉
僕は彼女の言葉に、うん、と返す。
〈好きな人に喜んでもらえるの、素直に嬉しいから〉
〈だよねぇ。ユエも恥ずかしがらずに教えてあげたら良いのに〉
僕らが黙ってユエを眺めているのに、彼女は不審感を覚えたらしい。
まさかと、ユエはユタカを揺さぶった。
「ちょっと、ユタカ! まさかアオに教えてないわよね?!」
「まだだけど、揺らすのやめてよ。グンちゃん、好きな物知ったところで笑わないし、むしろ嬉しいって思ってくれるって」
ユタカがそう言うと、彼女は自分の姉を揺らすのを止める。
そして、僕の方を見た。
「…笑わない?」
「絶対笑わない」
僕は頷きながら断言する。
ユエはユタカから手を離し、僕に耳打ちしてきた。
「…小さい子供が好きなメニューが好きなの。ハンバーグとか、唐揚げとか、卵焼きとか…」
「それ雪那もそうだったじゃん。何処に笑う要素があるって言うの、ユエ」
ほらね、なんてユタカは苦笑いを浮かべながら、ユエに言う。
「だって、子供っぽい…」
「普通。難しいものばかりじゃなくて良かった。むしろ練習すれば作れるやつばっかで、助かったよ。今度シャナに習って作ってみるから、楽しみにしてて」
僕も苦笑しながら、ユエの頭を撫でた。
彼女は少し照れたようで、軽く俯いてしまう。
可愛い。
「じゃ、僕の用件これだけだから」
そう言って立ち去ろうとした時、僕の携帯が鳴る。
誰だと思って見てみたら、母様からだった。
「はい、もしもし?」
『グンジョウ、ユエちゃんとイチャイチャしている所悪いのだけど、みんなで城に来てもらえないかしら? 次の魔王の遺物が見つかったのよ』
イチャついてはいないけど、見てたんだろうなぁ。
まぁ、それは良いや。
「分かったけど…なんで城? ここからじゃダメなの?」
城から向かったら近い領なのだろうか?
近場の領って、ロスヴィータとかヴァリエールとか、ベルナールとかだったはずなんだけど…全部行ったしなぁ。
『ベルゼビュートが来てね、サンテブルクに魔王の遺物があるから回収して欲しいって、あの無能が言ってたって言うから』
「サンテブルク……サンテブルク?! 待って母様!! それじゃあ…っ!?」
僕が突然大声を出したからかユエが驚き、ユタカはといえば僕を部屋に押し込め、扉を閉めた。
うん、近所迷惑だもんね。
ごめんユタカ。
『うちの膝下に、ずっと魔王の遺物があったって事よ。あそこの管轄はジルベルト家。てっきり家にあると思っていたのだけど…』
頭が痛そうな声を出す母様に、労わるような女性の声が聞こえた。