『私も、初めてヴェスタ神にお聞きしました。申し訳ありません、シャルさん。父にも確認を取ってみたのですが、うちに家宝と呼べるものはないと仰っておりましたので…』
穏やかな声が電話の向こう側から聞こえ、僕はカヅキおばさんの他に、母様の執務室に人がいる事を悟る。
「母様? 誰か来てるの?」
『エルよ。貴方も二回くらい会ってるでしょ?』
覚えてるはずよ、と言われて、あの人かと思い出す。
水色の髪の穏やかな表情を浮かべた女性。
初めて会ったのは、僕らが学園に行く前だったか。
あれに祈るのは癪だけど、子供達の無事を祈る為だとか何とか言って、サンテブルク教会に僕らを連れて行った。
そこで聖女をしている、エルさんに会ったのだ。
次に会ったのは、僕が王太子として立太子する時の式典だったか。
教会で行われるから、そこでだったはず。
確か名前は…。
「エレオノールさん、だったっけ」
『そうよ。出来れば早くいらっしゃい? あまりエルを待たせるのも、申し訳ないもの』
大丈夫ですよ、と声が聞こえた辺りで電話を切られる。
携帯をポケットにしまっていると、疑問に満ちた二人の顔が目に映った。
「アオ、王妃様何だって?」
「すっごい大声でサンテブルク教会の名前言ってたけど…どうかしたの?」
あー…と僕は声を出し、頭を軽く掻く。
「ごめん。ユエ、ユタカ。シンク達を僕達の部屋に連れて来て。みんな集まったら説明するから」
そう言うと、二人は真面目な顔をして頷いてくれた。
僕も頷きを返し、二人の部屋から出る。
まずは姉に説明しないとと、足早に自分の部屋へ向かった。
◆◆◆
シャナとシンクの転移術で城に着くと、母様と共に妙齢の女性が僕らを出迎えてくれる。
「お久しぶりです、グンジョウ殿下」
「お久しぶりでございます、聖女エレオノール様」
彼女に一礼すると母様以外、皆も頭を下げた。
クスクスと、エレオノールさんは笑う。
「そんなに畏まらないでください、殿下。私の方が身分は下なのですから」
「そういうわけにもいかないでしょ、エル。一応貴女、聖女なんだから」
その聖女様と対等に話出来てる母様、凄いんですけど。
流石、近代史の教科書にも載るくらいの英雄。
怒ると怖いが、普段は穏やかな僕らの母親なんだけどね。
「アオ、エレオノール様って…」
「リューネ国で唯一、聖女の称号を戴いてる方だよ。ヴェスタ神の声を聞ける方でね。神託があると、それを僕らに伝えてくれる役目を持っているんだ」
今回神託を持ってきたのはベルゼビュートって話だったけど、同じくヴェスタ神から話を聞いたエレオノールさんも、母様にそれを伝える為に来たのだろう。
なんで母様なのかといえば、二人が友達同士だからだ。
陛下である父様にも話は行っているだろうが、エレオノールさんは女性の方なので…護衛がいると言っても二人きりになってしまうと、危惧したのだろうか?
母様が嫉妬で怒り、テスタロッサに帰るとでも?
こんなにポンポン子供作っておいて、今更嫉妬するかな母様?
そこまで気を使わなくても良い気がするけど。
「はいはい、嫉妬はするわよ。あたしが彼にとって唯一の女ではあるけど、ナズナに色目使う馬鹿は後を絶たないのだから」
「心読まないでよ…」
僕らの様子に、エレオノールさんはクスクス笑う。
仲良いな、と思われてるんだろう。
実際仲は良いけど。
親子だから。
「陛下からお達しがあった後、私共も領内を捜索いたしましたが、家宝と呼べる物もシャルさんが言う魔王の遺物? らしきものも発見出来ませんでした。ですが、一つ気がかりな事がありまして…」
「気がかり?」
シャナが首を傾げると、エレオノールさんは頷いた。
「領内にはなく、しかしお話を聞く限り私共21貴族に、その魔王の遺物が渡っている。ならば、その遺物は何処へ行ってしまったのかと、父と共に文献を調べたのです。ですが…」
「見つからなかったわけだ」
シンクの言葉に、彼女はまた頷く。
確かに、領内になければ何処へ行ったというのかと調べはするだろう。
文献を調べるのも妥当だ。
だけど、その記述すらも見つからなかった。
「だからこそ、教会だと貴女は判断したわけですね。 王都にあるサンテブルク教会は、ジルベルト家が代々受け継いでいる場所だったはずですし」
「成程。危険な物だと判断したからこそ、封印する為に教会に安置したって事なんだね。あれ? でも、そしたらすぐに見当つかない? グンちゃん」
僕の言葉へ重なるように、ユタカが疑問を提示してくる。
「その通りでございます。教会内も調べましたが、そのような物は見つからず。途方に暮れてしまいまして…ヴェスタ神にお尋ねしようと思い、祈りを捧げておりました所…」
「神託が降りてきた、と?」
ツルギが尋ねると、エレオノールさんは頷いた。
だからこそ、彼女は母様を尋ねてきたのだろう。
「というわけだ、お前達」
母様の傍に控え、今まで僕らの会話を傍観していたカヅキおばさんがパンパン、と手を叩き、自身に注目させた。