いや、ヴァリエールの家でも反応していたと言っていたから、ある事にはあるんだろう。
僕はツルギの方を見る。
もしかしたら、と思ったというのもあるが。
「ツルギ、その風って何処から来てるかわかるか?」
「多分この辺りかと…」
彼は祭壇に近寄ってその足元へ屈むと、ペタペタとそれを触り始めた。
あんまり触りすぎるのもなぁ、なんてツルギの様子を見ていたら、主祭壇がギッ、と音を立てて動いてしまう。
「えっ」
僕は驚いた声を上げた。
ツルギもまさか動くとは思っていなかったようで、動いてしまった主祭壇を唖然と見ている。
いや、机なんだから動くだろうけど…こんな重そうな祭壇が普通動くか?
それに、ツルギが身体強化を使ってもし動かしたのだとしたら、祭壇よりも傷ついているのは床の方だろう。
普通の床ではあるだろうが、それでも教会。
年季が入っているはずだし、この一部だけ傷つけたとあっては、全ての床材を剥がして総取り替えになるだろう。
「あの…殿下…これ、破損したら…一体いくらくらいになりますかね…」
ツルギもそこら辺に考えが至ったようで、少し顔を青ざめさせながら僕を見上げつつ聞いてくる。
「……日本円で数百万は下らないと思うよ…」
そう答えると、ヒェ、とツルギにしては珍しくか細い悲鳴を上げた。
そんな彼の声が聞こえたシャナが、ツルギに言う。
「大丈夫だよ、ツルギ君。そんな事になったら、あたしが返済するから」
グッ、と拳を握り締める姉の肩に手を置きつつ、ユエとユタカがないないと首を横に振っていた。
「いや、シャナちゃん。彼女に返済させるって、それどんだけクズ男なんだって話だと思うよ…」
「そもそも、そんな国宝級の祭壇破壊したとかなったら、陛下達に怒られるだけじゃ済まないでしょ。下手したら処刑なんじゃないの?」
ツルギと同様か細い悲鳴を上げた姉は彼に、逃げよう駆け落ちしよう、とか馬鹿な事を言い始める。
「飛躍し過ぎ。これ、元々動くようになってたみたいだよ」
僕も祭壇を軽く押してみた。
今度は音も立てず祭壇がスーッと動き、地下への階段が現れる。
「固定されてたっぽいけど、ツルギが軽く触っただけで動くなんて、その固定具老朽化してたんだろうね。壊してないからそんな青ざめるな、ツルギ」
それにこれの返済が出来るくらい、ツルギは城から給料を貰っているはずだ。
なんて言ったって、王太子の姉であるシャナの専属護衛なのだから。
無駄遣いしてなければの話だけど。
「ちなみにお前…貯金いくら持ってるんだ?」
こっそりツルギに聞いてみる。
彼はシャナの方をチラリと見つつ、小声で
「銀行に預けてある金額が、この間2300万になりました…」
そう言った。
「うぇ、エグ…どんだけ高給なんだよ、うちの給料…」
祭壇の様子を見ようと思ったのか、シンクが僕らに近寄り、会話が聞こえたようで引いた表情をする。
ツルギがシャナの専属護衛になったのは、僕らが高等部一年のイフリート1の月。
それから大体2年くらいだから…。
「月100万給料貰ってるのか、ツルギ」
「みたいです。それに、危険手当っぽいのが、付いてまして…一応、そういうアプリが、携帯で見れます」
自分の携帯を取り出し、少し微妙そうな顔をするツルギ。
何だろうと思ったのだけど、ツルギの携帯を覗き込んだシンクが唖然とした顔で彼を見た。
「どうしたんだよ」
「いや、これ見てみろよ」
人の携帯覗くとかどんだけだよ、と思ったのだが、シンクが良いからと僕の腕を引っ張る。
「良いからって…これツルギの携帯…」
チラリと見た僕も、シンク同様唖然とした。
給料明細が見れるアプリをツルギは開いていたようだが…基本給何千万、諸々の税金やらを引かれ、城を破壊した時の金額も引かれて100万、らしい。
「何これ…」
「多分、王妃殿下か、陛下の温情かと…普通はこんなに貰えないと、カナリアさんが仰っていたので…」
自分の給料の話、カナリアにしたのかツルギ…。
まぁ、彼女は結構そこら辺気にしないタイプなので、話したところでカラカラ笑うだけだろうが。
「聞いた話、お前城の天井破壊したんだってな?」
「…本当にその節は大変申し訳なく…むしろタダ働きも覚悟していたのに…陛下達優しすぎませんか…?」
その分、シャナの護衛で命張れよって事なんだろうけど。
それでも、彼の基本給おかしくない?
どういう事なのか、後で母様辺りに聞いた方が良いだろうか?
「地下への階段があるなんて…知りませんでしたわ」
エレオノールさんはとても驚いているようで、階段を見つつ呟いた。
「そういう伝記とか、残ってはいなかったのですか?」
「いいえ、全く。中の構造も把握しておりません…私が参りますので、殿下方はこちらでお待ちになっていて下さい」
何かを決意したのか、彼女は僕らの横を通り過ぎ地下へ行こうとする。
しかし、シンクが腕を掴む事でその行動を止めた。
「いやいや、待ってくださいよ。どうしたって言うんです?」
鬼気迫る様子のエレオノールさんに、弟は疑問を覚えたようだ。