うん、確かに僕も疑問に思うけど。
「殿下方を危険に晒すわけには参りません。ここは我がジルベルト家の管轄。それに、私はギルドで水の称号を頂いておりました。多少なりとも危険があれど、戦闘は行えます」
「エレオノール様…」
僕達の身を案じて言ってくれているのは、理解出来た。
それに、彼女の言葉には慈愛も含まれている。
母様とカヅキおばさんの子供達だからだと言うのも、理由の一つだろう。
だが、僕らもここへは仕事で来ている。
彼女の提案を飲むわけにはいかない。
「有難い御言葉ですが、私達も王命で此方へ来ています。それに、エレオノール様は我が国の聖女です。むしろ聖女を危険に晒したとはあっては、陛下の叱責を受けるでしょう」
父様は、そんな事では怒らん、とは言いそうではあったけど。
母様が危険な所に行くと言って僕らがそれを止めなかったのなら、絶対と言っていい程怒られるとは思う。
だが、エレオノール様やカヅキおばさんが行くと言ったのなら、自己責任で行ってこいと許可を出す。
父様は国を大事に思ってはいるけど、その次に大事なのは母様だ。
僕らはその次か、そのまた次だと思っている。
母様が度々言っている言葉を思い出した。
「ナズナは王としては優秀な部類の人なのだけれど…人の父親としては、ねぇ…」
と、ため息をつきながら。
なんでそんな人と結婚したのか、そしてあの騒動で何故離婚しなかったのか。
疑問は尽きる事は無いが、それはまぁ、追々思い出した時にでも聞いて見る事としよう。
「なら、エレオノール様もご一緒にいらっしゃるのはどうでしょうか。何かあれば私達がお守りしますし、もし私達が危険に陥ったとしても、エレオノール様がお守りして下さる。そうした方が、双方納得のいくものではないかと進言致します、グンジョウ殿下」
「ユエ嬢」
王太子モードで話す僕へ、ユエがニコリと笑いながらそう言った。
彼女の擁護が効いたのか、エレオノール様は彼女の提案に頷いてくれる。
「わかりました。では、その様に。殿下、シャルさんみたいな聡明なご婚約者様ですね、ユエ嬢は」
「えぇ。私には勿体無いくらいの女性ですよ、彼女は」
僕らの言葉が聞こえていたのか、ユエが少し頬を染めて目を逸した。
可愛いと思って見ていると、エレオノールさんはクスクスと笑い出す。
「あの、何か?」
「いえ、殿下も陛下そっくりになられて来ていらっしゃるな、と思いまして」
僕が父様に?
いや、親子なんだから当たり前なんだろうけど。
何処が?
顔の作りかな?
うん? と首を傾げると、シンクとシャナが、あーと言う顔をする。
「何だよ」
「エレオノール様が言ってる意味わかった…顔だわ顔。ユエを見るお前の顔、父様が母様見る時の顔そっくり」
うんうん、とシャナも頷いた。
…あー、そう。
それはそうだろうな、としか思わないんだけど。
だって親子だもん。
似てても仕方ないって言うか…。
「あんまり時間かけるのもどうかと思うから、私が先行するね?」
指をパチンと鳴らし、ユタカの服装が可愛らしいものから軍服風の物に変わる。
そのまま魔武器を取り出し、タタタ、と駆けて行ってしまった。
「あ、おい! ユタカ!!」
シンクも慌てて彼女を追って行ってしまったので、僕らは顔を見合わせ、二人の後に続く事にした。
◆◆◆
地下へと続く階段を降り切ると、ユタカを説教してるシンクがいた。
二人がいる空間は広場になっているようで、しかも地下だからか気温も低くなっている。
「危ないから一人で行くんじゃねぇよ!! お前に何かあったら、俺どうしたら良いって言うんだ?!」
「ご、ごめんなさい…」
シンクが光魔法を使って頭上を照らしてくれているからわかるが、所々壁に穴が開いていて、そこに蝋燭を置ける事の出来る燭台が設置されていた。
「シャナ、蝋燭持ってない?」
「持ってるわけないじゃん」
ですよね。
分かってて聞いただけだから、無くてもいいんだけど。
一体ここはどういう所なんだと、調べる為に動く。
僕は壁に現代語ではない文字が彫られているのに気付き、シャナを呼ぶ。
「シャナ、光源頂戴」
「はいはい」
姉が光魔法を使い、壁を照らしてくれた。
僕がそれを頭の中で解読していると、背後からユエが声をかけてくる。
「アオ、その文字何? 読めるの?」
「古代語っぽそう。一応古語の授業受けてるだろ、ユエ。それと、王立図書館で読んだ古代語の本の応用で解読してるだけ。所々、年月が経っているせいか欠けているけど…静か……所……眠り……これは妨げるかな……災い、あれ? うん?」
静かなる場所、眠りを妨げる者に災いあれ、って読むのか? これ。
って事は…。
カタカタと音が聞こえ、僕はそちらを振り返った。
「シンク、ユタカ!! 伏せろ!!」
僕はノワールとブランシュを呼び出して投げ、それを触媒に炎魔法を行使する。
二人は僕の言葉通りにその場に伏せ、頭上を一対の剣が通り過ぎていくのを眺めていた。
一対の剣から炎が吹き上がり、炎の中スケルトンが燃え上がっている。