「多分あたし以上だよ、グンジョウ。そっちの遺伝、グンジョウの方に行ったのか…」
「世が世っていうか、王子じゃなかったらアイドルで食っていけるくらいだぞ、お前」
同じ顔のお前が言うか、それ?!
あと僕がアイドル?
ないない。
愛想を振り撒くなんて器用な事、自分が出来るとは思えない。
王太子モードの時だって、愛想振りまいた事…いや、あるけど。
各国の要人に対してだけど。
「グンちゃんがアイドルなら、私目一杯推すなぁ」
ははは、と先頭を行くユタカが笑う。
腕に引っ付いてるユエの頭を撫でながら。
場所を交換してもらいたかったけど、ユエがあの状態なら無理かもな。
エレオノールさんと、ユエの位置が近いから。
「えー、ユタカ俺は?」
「うーん…シンクもアイドルかぁ。どっち、とは決められないかなぁ。両方推しちゃうかも」
欲張りだな、ユタカは。
二人同時に推すのか。
アイドルオタクの中には、同担拒否っていう人がいるらしいと聞いた事がある。
ガチ恋勢とか。
僕は全く理解出来ないんだけど。
そもそもアイドルとか見てるよりは、本を見てた方が好きだし。
あとユエ。
「あー、やな想像した…」
シンクがポツリと呟く。
弟の想像を僕もチラリと考えたから、苦笑する他ない。
もしもユエがアイドルをしていたら、同担拒否のガチ恋勢になっていただろうな、なんて。
まぁ、ユエの場合愛想なんて振り撒かず、塩対応をしていた事だろう。
いくら、仕事だからだとしてもだ。
一学年の時の話を、ユエとクラスメートだった友達に少しばかり聞いた事がある。
ウェイターの格好をして注文を取っていたユエだったが、タチの悪い客に絡まれた際、冷たい目をしながら言ったそうだ。
「なんで私が貴方達にお酌しなきゃいけないわけ? お酒の提供なんてしてないんだけど。こんな所でしか女子に声をかけられないなんて、頭イカれてんじゃないの? それに、そういうサービス受けたいんなら学校外に行ってもらえない? 女子高生にセクハラした客って事で、通報しても良いんだけど?」
で、逆ギレした客を叩きのめしたらしい。
僕がユタカとデート擬きをしている間にそんな事があっただなんて、ユエは一言も教えてくれなかった。
僕を心配させたくなかったからなんだろうけど。
「ユエに冷たい目を向けられたら死ねる…」
「アオが乗っ取られた時、私は死にそうだったけどね」
持ち直したのか、ユエがこちらを見ながらそう言う。
言われた僕は、思わずシャナに抱きついた。
それは僕にもダメージが来るので、やめてもらえないだろうか。
「いきなり抱き付かないでよ、グンジョウ。歩き辛い。ユエちゃんも、あの時凄いショック受けてたのは分かってるけど、あれグンジョウじゃなかったんでしょ? もー、痴話喧嘩やめてよ」
シャナが呆れた目で僕らを見たので、僕やユエは姉に謝る。
僕は姉から離れる事はしなかったが。
「あーるーきーづーらーいー!」
「まぁまぁ、シャナ。弟が甘えてんだから、好きにさせてやれよ。それに、背後から襲われてもグンジョウが対処してんだから、文句言うなって」
僕が抱きついている事によって、シャナの動きが制限されて文句を言われてしまうが、シンクが擁護してくれる。
暫くそのままで歩いていたのだが、スタスタと足音が聞こえ、僕の腕に誰かが触れた。
顔を上げるとその足音はツルギだったようで、凄く複雑そうな顔をしながら僕に言う。
「あの、殿下。姉弟仲が良いのは、その、とても良い事…なんですけど…あの……シャナは、俺のなんで!! あまり、ベタベタしないで貰えないでしょうか!!」
「え…あ、ごめん…」
僕はツルギに謝り、シャナから離れた。
ツルギも嫉妬するんだ。
それに、そんな声量聞いた事ない。
なんか悪い事したな…。
こんなに引っ付くのなんて、僕らの間じゃ当たり前だったから。
だって双子だし。
そういう風に、母様から育てられたし。
愛情表現を示すならハグよ、なんて母様いつも言ってるし。
「ツ、ツルギ君…俺のって……ごめん、照れる…!」
シャナはシャナで、ツルギからの言葉に顔を真っ赤にし、手で顔を覆ってしまう。
「皆様仲が宜しくて、私も胸が暖かくなりますわ。でも、急いだ方が宜しいかと進言致します。こんな状態でなければ、もっと見ていたいのですけれど…水を差してしまってごめんなさい」
「いや、むしろ謝罪しなければならないのはこちらの方です、エレオノール様。お気持ち感謝致します。みんなごめん、僕が言うのもなんだけど気を引き締めて進もうか」
クスクス笑いながら注意してくれたエレオノールさんに感謝しつつ、僕は手を叩いて皆に言う。
それに対して、皆は真剣な表情になり頷いてくれた。
◆◆◆
何回降ったか分からないくらい結構な時間歩き、少し疲労が出てきたかなと思ったその時。
急に開けた場所に出た。
そこは礼拝堂の様で、机の上に鎮座している台座の上に開かれた扇のような物が見える。
この瘴気の中で、それだけがはっきり見えていた。