「あれだね」
シャナがリブロを開き、扇を睨みつける。
禍々しさが離れた所にいても感じ取れ、僕らは警戒を強めた。
「あれじゃあ、封印したくもなるよな…」
「確かに。普通に壊せると思う? シンク」
弟が冷や汗をかきながら、扇から目を離さず言う。
ユタカも魔武器を構え、シンクに尋ねた。
「わかんねぇ。でも、壊さなきゃいけないのは分かるわな…」
「アオ、撃っていい?」
ユエが魔武器を遺物に向けながら、僕に判断を仰いでくる。
この中で中遠距離攻撃が出来るのは、ユエしかいない。
僕は頷き、念の為シャナにリンクを繋いでもらう。
「やれ、ユエ」
「はい!!」
僕の合図でユエが魔武器を撃った。
カーンと甲高い音がして、弾丸が扇に当たる。
だが、ただそれだけだ。
扇に当たった音だけで、何も変化は起こらなかった。
「防衛装置はなし、か…」
「あるわけないでしょ? だって私がいるんだもの」
僕の頭上から声がする。
反射的に剣を振るうのと、ユエが魔武器を撃つのは同時だった。
「ひどーい。体がボロボロになってしまったわ」
顔を上げると金髪に、赤目の綺麗な女性がいて。
しかし、気配はあの魔王の遺物と同じく禍々しかった。
体が、とか言ってる割には僕らの攻撃は無かった事になっているようで、傷一つなどついておらずニコニコと笑っている。
「おいおい…マジかよ…」
「これ母様案件だよグンジョウ!!」
シンクが唖然としながら呟き、シャナが悲鳴じみた声を上げる。
母様案件…つまりは、僕らの手に負えないという事だ。
「やってみなければ、分からないと…思います、殿下」
「………」
ツルギの言い分もわかるが、対峙していて理解出来るものもある。
こいつは、遺物の精みたいなものだ。
昔、母様が対峙したという魔玉にもいたと言う。
「シンク、どうする?」
「撤退を推奨したいね。瘴気が濃くなって来やがってるし、そのせいで魔物も発生してる。囲まれたら、
エレオノール様守りながらってのはキツいぞ」
僕も同じ考えではある。
しかし、僕らが危険に陥っているのなら、母様が転移なりしてすぐ来るはずだ。
カヅキおばさんを伴って。
それだけ、母様は自分と父様の子供達を愛してくれている。
それが無いという事は、僕らだけで対処が可能だと判断を下したという事だ。
もしくは、僕らを成長させる為にカヅキおばさんに止められているか。
そのどちらかだろう。
「…シンク、可能な限り戦闘を行う。無理だと思ったら、撤退の指示を出してくれ」
「マジかよ兄ちゃん。まぁ、母様が来ない時点でそういう判断になるよな……
お前ら!! 気合い入れろ!! これは魔王への戦闘訓練の一環だと思え!!
ただし、負けたら死ぬ!!
それは頭に入れとけ!!」
シンクの号令に、ユタカとツルギが遺物の精に攻撃を仕掛ける。
僕は脚力強化で扇の所まで駆けようとしたが、体に何かが纏わり付いた。
「だーめ。行かせないわよ」
「…ユエ!!」
遺物の精がもう一体出てきたようで、二人と戦闘しているのとは別に、僕の体を拘束しているようだ。
僕は遺物を破壊するようユエに声をかける。
「ダメっ!! 近付けない!!」
瘴気から出てきた魔物を相手にしているようで、ユエもその場から動けないようだった。
シンクやシャナも、エレオノールさんを守りながら戦っているようで、その場に留まっている。
「ふふふ。万事休すって、この事を言うのかしらね?」
僕に纏わり付きながら、精が笑う。
先程から抗おうと踠いてはいたが、ビクともしない。
昔聞いてた父様状態だな、これ。
「随分お喋りだな、お前……シャナ!!」
「良いよ!! 使って!!」
シャナの魔力を僕の中に取り入れ、魔力回路をガンガン回す。
ブランシュとノワールを呼び出し、僕ごと精を斬り刻んだ。
「アオ?!」
僕の状態を見てユエが悲鳴を上げる。
しかし、シャナの魔力を使って僕の体に時魔法を使用していたおかげで、血は吹き出したものの体は無傷だ。
「動揺するなユエ!! 集中しろ!!」
「っ! …はいっ!!」
魔法も駆使して、魔物を掃討しているユエの横を脚力強化で走り抜け、扇に近付く。
エレオノールさんも参戦してくれているようで、瘴気から魔物が現れても、それ以上増える事はなかった。
「っ、やらせない!!」
遺物の精が、扇に近付く僕を攻撃しようとする。
しかし僕はそちらを見ず、ただ片腕を上げた。
「
四大元素と無属性が組み合わさった魔法を、精に放つ。
シャナとリンクを繋いでいるからこそ出来る芸当ではあるが、本当うちの姉君規格外過ぎないか?
僕がこんな魔法使っても、シャナの方にはダメージ一つ残らないんだから。
「ぐぅ…っ?!」
物凄い爆音が礼拝堂内に響く。
精の苦しむ声が聞こえたが、僕は構わず扇へノワールを叩きつけた。
「壊れろぉぉぉぉっ!!!」
ピシッ、と扇にヒビが入り、力任せに叩きつけたお陰か粉々に砕け散る。
精の悲鳴と共に、瘴気が徐々に晴れていった。