「アオっ!!」
ユエが僕の名を呼ぶ。
そちらに目を向けると、ユエがこちらに駆け寄ってくる所だったが、最後の悪あがきか遺物の精が背後から彼女へ攻撃を仕掛けようとしていた。
「ユエっ!!」
間に合わないと思った僕は、時魔法を使って時間を止める。
シャナの限界は10秒。
その10秒で僕は脚力強化を使い、ユエと精の間に入り込んだ。
「なっ?!」
いきなり僕が目の前に現れた精は驚き、攻撃の手が鈍る。
その隙を見逃さず、僕はブランシュで精を斬り伏せた。
「アオ…いつの間に…」
「シャナの魔力借りてるんだ、シャナが出来る事は大体出来るんだよ。あー…危なかった…怪我ない? ユエ」
精が消えてから、ユエが問いかけてくる。
僕はそれに答えつつ、彼女の身の心配をした。
それを聞いたユエの眉が吊り上がってしまったが。
「私よりアオの方が重傷でしょ?! 何あれ?! 何してんの?! 馬鹿じゃないの?!」
「いや、あの、揺さぶらないでユエ。うん、咄嗟の事だったから、どうしようもなかったと言うか。あのまま人質にされても癪だし、シャナの時魔法で逆行させれば、無傷だろうなって判断で…痛い、痛いって…ごめんって…叩かないでユエ…」
まぁ、逆行させたのは体だけなので服はズタボロのままだし、血も付着しているから、あまり触らない方が良いと思うのだけど。
「アオの馬鹿!! 本当に馬鹿!! 死んじゃったかと思ったじゃん!!」
「あの、うん…心配させてごめん、ユエ。いや、確かに首も斬ったから、そう思ったのは仕方ないというか…」
あの判断が出来たのは、おばさんに訓練と称して首を何回も切られた事が発端ではある。
首を切っても、時魔法で戻せば問題ないじゃん、と。
勿論、ただ無策でやったわけではない。
意識を保てなければ、時魔法など意味がないのだから。
首や胴体を斬った瞬間に巻き戻るよう設定はしていた。
まぁ、それを知らないユエは、側から見ていて心臓が止まりかけただろうが。
「グンジョウ、無茶するなぁ…魔力かなり持っていかれた…」
「大丈夫かよ姉ちゃん。ま、俺とリンク繋ぐよりかは魔力量の多い姉ちゃんと繋いだ方が、効率が良いっちゃ良いけど」
戦闘が終了したのを見てか、シャナがその場に座り込んでしまった。
瘴気も完全に晴れて、周囲の様子がはっきり見えてくる。
最初の印象通り、ここは礼拝堂のようだった。
「なんでこんな所に礼拝堂なんて作ったんだろ。結構地下だよね、ここ?」
「地上から数百メートル下だな。なんでかは、調べてみなけりゃわかんねぇけど」
ユタカの疑問に、シンクが答える。
だが、それは僕らの仕事ではないので、あとはエレオノールさんとギルドに任せよう。
「じゃあ、地上に帰ろうか。シャナ、歩ける?」
座り込んでいる姉に声をかけるが、シャナはブスっと頬を膨らませた。
「無理。誰かさんがあたしの魔力大量に消費してくれたおかげで、一歩も歩けない」
「あっそう。だってさ、ツルギ。悪いけどシャナ運んでくれない? 僕、血だらけだから触れな…痛い、痛いってユエ?! さっきから謝ってるじゃん?!」
暗に運べと言う姉に、僕はツルギに声をかけて運んでもらうよう頼んだのだが、直後ユエが僕の腕を掴み、尚且つ爪を立ててきてかなり痛い。
これ血が滲んでるんじゃなかろうかというくらい、痛い。
「私の心配と怒りと、悲しみを知れ!!」
「…あー…うん…もう好きにしてて良いよ…」
そう言われると、僕はそれ以上抵抗は出来なかった。
逆にユエが同じ事をしたのならその嘆きは相当なものだし、無事に彼女が生還出来たとしても、そんな行動をした怒りだって湧いてくるというものだ。
本当ごめん、ユエ。
でも、あれが最善策だと思ったんだ。
◆◆◆
地上に戻ってくると、教会内の長椅子に母様が座って僕らを待っていた。
「お帰りなさい、みんな。エル、貴女が無事で良かったわ」
長椅子から立ち上がった母様は、僕らに歩み寄ってくる。
「グンジョウ、貴方相当無茶したわね? 全く…その潔さというか、判断力は誰に似たのかしらね?」
「父様と母様の子供だよ? 2人に似たに決まってるだろ」
それもそうね、なんて母様は笑いながら指を鳴らした。
途端、僕の血まみれの服が交換される。
吾妻ノ国で着られていたという服で、色は黒。
なんでこれなんだと思ったが、この服に見覚えがあった僕は母様に尋ねた。
「これ、父様のじゃないの?」
「そうよ。血まみれの状態で車なんて乗れないでしょう? まぁ、あれだけズタボロじゃもう着られないでしょうけど」
それは僕も思っていたので、あの服は捨てるつもりではあったけど。
あと、この服を僕にお下がりするなんて、母様は絶対言わないだろうなと思った。
だって、父様との思い出の服なのだから。
城に帰って着替えてから返せ、とその笑顔は語っていた。
なら、城に置きっ放しの僕の服でも良かったとは思うのだが。
「シャルさん。後程、調査をした結果をお伝えに上がりますね」
僕らの後方にいたエレオノールさんが、母様に声をかける。