「えぇ。うちの子達が迷惑かけてごめんなさいね、エル。引率ありがとう。シンク? 遺物の欠片は持ち帰って来てるわね?」
当然、と弟は母様の問いに答える。
城に帰ったらカヅキおばさんに提出するよう言われ、今晩の訓練はなしとも言われた。
やったー、本がゆっくり読めるぞー、なんてぬか喜びはしない。
未だに僕の腕に爪を立てている、ユエのケアをしなければならないのだから。
母様と共に城に帰り、城のエントランスホールでユエ以外の皆と別れる。
自室で着替えてからこの服返さなきゃな、なんて思いながら歩くのだけど、ユエが腕にしがみついていて、若干歩きにくい。
しかし、離せなんて言うつもりは全くなかった。
むしろ気が済むまでしてても良いとさえ思う。
また彼女の心に傷をつけてしまった僕からしたら、それで贖罪になるのだったら僕自身を縛ってくれても構わないと、本気で思っていた。
部屋に帰って片手でクローゼットを開き、どれがいいかなと見る。
今はノーム3の月。
梅雨と呼ばれる時期だというが、リューネでは雨は滅多に降らない。
他の所だとあまりにも雨が降らず、作物が枯れ果て飢饉に陥ったりするらしい。
リューネは魔法大国だから、雨が降らなくても水魔法でどうにかなるのだが。
「ユエ、ちょっと離れてくれない? 着替えられなくて…」
「やだ」
クローゼットの中から少し薄手の、シック系統の服をハンガーごと取る。
着替える為に彼女に声をかけるが、拒否された。
まぁ、ですよね。
離れたくなくて、僕の部屋まで来てるんだもんね、君。
僕は苦笑を浮かべ、シャナに念話でリンクを繋いでも良いか聞く。
〈え。ユエちゃん、まだグンジョウに引っ付いてるの?〉
事情を説明するまでもなく察した姉は、その表情を見る事は出来ないが、多分僕と同じく苦笑している事だろう。
最初ブスくれていたシャナだったが、ツルギに運んでもらえてご満悦のようで機嫌が治っている。
〈トラウマ植え付けちゃったみたいだからね。ごめん、姉君。ちょっと魔力貸して欲しいんだけど〉
〈仕方ないなー。うちの弟は本当、世話が焼けるんだから〉
感謝してます、と姉に伝えた直後、リンクが繋がれた。
僕は指を鳴らし、持っている服と、自分の着ている服を入れ替える。
ちゃんとハンガーにかけられたそれを持ち、僕はユエを伴って廊下へ出た。
「シアリーズ、悪いけどこれクリーニングに出して母様に返してくれない?」
ちょうど通りかかった、プラチナの髪色をしたメイドに声をかける。
シアリーズは王家が運営する孤児院出身の子で、そこの子達は皆、親衛隊か騎士団に入隊するか、メイドになるかを選ぶ。
別にこちらから強制しているわけではなく、他にも職業は沢山あるんだと、孤児院で孤児達を養育してくれているシスターが言っても、皆この道を選ぶらしい。
統合騒乱で孤児になってしまった皆は、寂しいと泣く自分達に寄り添い、暖かい家や食事を用意してくれるシスター、そして孤児院を運営し、度々訪問しては話を聞いてくれる、自分達を救ってくれた母様。
ひいては王家に感謝の意を示し、僕達に忠誠を誓ってくれているようだった。
統合騒乱での孤児のみならず、親を病気で亡くしたり、親に捨てられた子達も、王家が運営する孤児院に来るらしい。
ちなみに、孤児院で母様はママ先生と呼ばれている。
僕も一回母様について孤児院を訪問した事があるが、シスターが王妃様ですと言ってもずっと、母様をママ先生と言って慕っていたっけ。
ちなみに僕はお兄ちゃんと呼ばれた。
「承りました、グンジョウ殿下」
「別に昔みたいに、お兄ちゃんって呼んでもいいよシアリーズ」
シアリーズもここ最近メイドになったようだが、彼女が孤児院に来た頃を知っている身としては、少し揶揄いたくもなる。
「そういうわけには……グンジョウお兄ちゃん…ユエ様がすごい顔でお兄ちゃんを睨んでいるから、もうそろそろ戯れはやめた方が良いと思うよ…私も、ルーティメイド長に怒られるから」
ユエの方を見ると、彼女の言う通り少し涙目になりながら睨んでいた。
頭を撫でようとしたら手を噛まれてしまい、何故と首を傾げる。
「あの、痛いんですがユエさん……ごめんって……シアリーズを小さい時から知っててさ。立派になったなと思って、声かけただけなんだって。あ、それ宜しくねシアリーズ。父様と母様の大事な物だから」
「……畏まりました、殿下。あの、ユエ様。私と殿下はそんな関係ではありませんし、浮気が出来る程器用なお人柄ではないのは、ユエ様もご存知のはずです。むしろ不器用な類のお方ですので、ユエ様がお支えにならないとすぐさま崩れてしまうと思います。では、失礼致します」
結構言うな、シアリーズ。
まぁ、彼女は優秀な部類に位置するから、言われても怒りはしないけど。
言われたまま、その通りだし。
ユエがいなければ、僕なんてすぐ瓦解するくらい脆いのだから。
彼女がいてこそ、僕は立っていられるのだ。