「ユエ、部屋に帰ろっか。用事は済んだし」
手に噛みついている彼女は、僕を睨みながらも一緒に部屋へ帰ってくれる。
部屋に戻り、ソファーへ一緒に座った。
甘噛み程度であまり痛くはないけど、正直この体勢は少しキツイなと感じてくる。
「ユエ、口離してくれない?」
そう言うと、彼女は素直に離してくれた。
あ、そこは離すんだと多少驚く。
腕は相変わらずだけど。
暫く無言でいたが、ユエの頭がうつらうつらと揺れ始めた。
眠くなってきてるな、と僕は彼女を眺めつつ思う。
「ユエさん、まだ夕ご飯の時間になってませんが」
「……わかってる」
それにしては船を漕ぎ始めているようですがね。
一応寝るなとは釘を刺してはみるが、もう一度わかってると返答した彼女は、そのままポスンとソファーに突っ伏し、寝息を立て始めた。
「あー…寝ちゃった…」
僕は彼女を抱き抱え、自分のベッドに横たえる。
そのまま、上掛けをかけてあげた。
僕の匂いがするからか、ユエは無意識で上掛けを抱きしめ、幸せそうに微笑んでいる。
そんな彼女の頬を撫でた。
「ユエ、ごめんね。不安にさせて。でも、僕は君を置いて逝ったりはしない。君の望みは出来得る限り叶えてあげたいから。ね、ユエ。愛してるよ」
僕はユエに覆い被さり、その唇を奪う。
唇を離して彼女の様子を見るが、熟睡してしまっているようで起きる気配が全くない。
まぁ、精神的ショックを受けた後だから仕方ないにしても。
「あまり眠り姫だと、襲うぞー…」
彼女の耳元で囁いてみる。
や、と一言だけ発し、ユエは僕から背を向けるように寝返りを打った。
や、だって。
可愛い…っ!!
僕の彼女超絶可愛い!!
いつも可愛いけど、寝てる時はひたすら可愛い!!
眼鏡ごと顔を覆い、仰け反る。
ユエが可愛過ぎて辛い。
何だっけ、ヲタクの友達が言ってた言葉。
尊いだっけ。
尊みが凄い…!!
ユエまじ天使、女神!!
最高!!
ユエには悪いと思ったが、寝顔の写真を一枚撮らせてもらう。
バレたら怒られるのは確定しているが、待ち受けにさせてもらおうと思った。
◆◆◆
後日、僕の報告書とエレオノールさんからの報告書を読んでいた父様が、少し眉を寄せてため息を吐く。
とても頭が痛そうにしていて、僕の報告書何か拙い事書いたかな、と少し不安になった。
「あの、陛下…」
「別にお前のやつに不備があったわけではないから、不安がるな。自信を持て、グンジョウ。そこは本当シャルに似たな、お前」
むしろ、微笑を浮かべたら母様そっくりらしいですよ、父様。
なんて言えるはずもなく、僕は苦笑いを浮かべる。
「で、どうかしたんですか?」
「エレオノールの方の報告書を読んでいたんだが、あの地下墓地? 建国当時からあったものらしい」
建国当時というと、今から526年前か。
結構古かったんだな、あそこ。
「その頃の魔王はまだ、魔術師として活躍していた時だったか。当時の王を妬み、王妃を愛し、どうにか王妃の愛を得られないかと、邪神に祈る為にあの場を作ったそうだ。シャルやカヅキ程ではないが、時魔法の使い手がギルドにいるそうでな。そこにあった書物を復元し、古代語の専門家が読み解いたそうだ」
「あそこに魔王の遺物があったのも、その為でしょうか?」
父様が手元の報告書をパラパラと捲り、一枚の紙を僕に差し出してくる。
受け取ってその報告書を読むと、あの扇は鉄扇だったらしいのだが、その鉄扇の持ち主が教会関係者だと判明した、と書いてあった。
名前はライネクス・アロー。
修道女にも関わらず背信者だったそうで、あの地下の礼拝堂を見つけ、酒池肉林の限りを尽くしたと。
一応詳しくは書いてあったけど、ちょっとだけ読んで気分が悪くなり、僕は報告書を父様に返す。
というか、よく書けたなエレオノールさん。
父様達への忠誠心から、詳しく書かねばと思ったのか知らないが、生々し過ぎる。
こんな女性が今の時代にいなくて良かったと、本気で思った。
そして、父様があんな顔をしていた理由も理解出来る。
見てて頭痛くなるもんな、これ。
「あの場所、どうなさるおつもりで?」
「あそこはジルベルトの管轄だ。王家の出る幕ではない。どうするかは、あの家が決める事だ」
まぁ、それはそうかと納得し、僕は父様の執務室から辞させてもらう。
執務室の外に出ると、ユエが窓際に立って僕を待っていた。
「お待たせ、ユエ。大丈夫?」
「ん…」
ユエが僕へ腕を差し出してくる。
僕は苦笑し、お姫様抱っこで彼女を抱き上げた。
あの日以来甘えん坊になってしまったユエは、事あるごとに僕へ自分を抱き上げるよう、要求してくる事が多くなった。
これで彼女の傷が癒えるならと、ユエからの要求は全て飲んでいる。
別にイチャつく濃度が上がったくらいだし、前のユエなら人前で抱き上げたら降ろせと慌てていたので、僕はどちらかと言えば今の方が良い。
「ユエ。何処か行きたい場所はある?」
「アオと二人きりになりたい。静かな場所で、二人きりで過ごしたい」
ちょっと病んでるのは、まぁ…僕のせいなので。
元気になるまでは、こうやってイチャつこうと考えた。