分かっているのなら、何故やるのかと彼女の目は語っていた。
最善策だと思ってやった事が、ユエを傷つけているのは知ってる。
それでも、あれ以上の策は出せないと感じたからこそ、僕はあの選択をした。
おばさん達からしたら、愚策だろうとは思うけど。
自分の力量を分かっているから、あんな事をしたのだ。
「ユエ。前も言ったけど、同じ状況になったら僕は迷わず同じ事をする。それが最善だと思ったのなら、必ず。だけど、死ぬつもりはない。君を残して逝くなんて事、絶対にしない。約束する」
「…信じらんない」
ですよね。
でも、言った通り死ぬつもりは全くないし、ユエを置いて逝くなんて真っ平ごめんだ。
それでも、自分を犠牲にしなければ勝てないような状況なら、僕はいくらでも自分の身を傷つけるだろう。
それは覚悟しててもらいたいんだけどな。
「自分を犠牲にしなくていいと、私は思う。私達は、そんなに頼りない?」
「頼らせてもらってるよ。使える時は君達だって使う。それでも、僕だけでどうにかなるならそうするだけだ。納得出来ない?」
そう聞くと、頷かれた。
僕は苦笑しながら、彼女と一緒に城の中をあてもなく歩く。
手を振り解かれていないから、僕に対してそれ程怒っているわけではないのは、わかるのだけど。
ユエは僕に傷を負って欲しくはないと、願うのだろうな。
彼女の願いは叶えてあげたいけど、こればっかりはなぁ…。
自分の技術をもっと磨けばいいのだろうけど、それでも敵わない相手と対峙した場合、皆は僕を逃すと言う。
だが、僕は皆がいない世界…特にユエがいない世界などに興味はない。
生きてさえいたくない。
なら多を残し、一が死んだ方が効率がいいのではないかとさえ思ってしまう。
「アオ」
ユエから厳し目の声が上がる。
僕を睨みつけるように見る彼女へ、微笑んだ。
「思考読むなってば。あと、そんな顔しても可愛いだけだぞユエ」
「ふざけないでよ」
あー…これ完璧怒らせたな。
魔力波が立ち昇ってるし。
「ごめん」
僕は両手を上げ、彼女に降参の意を示す。
「謝っても許さないから。さっきから何なのアオ。アオを残すのは、ママや王妃様、私達の総意だよ。アオが残ってくれていれば、次に繋げられるから…」
「それはリーゼやアンナ、ラゼッタでも良いはずだ。事の詳細を知りたいと言うのなら、僕でなくとも転移が出来るシャナやシンクでも、君達姉妹でも良いはずなんだ。僕を残す意味なんかない。ユエ。僕は王太子ではある。でも、どうしても僕でなければならないなんて事はないんだ。代わりなんていくらでもいる。それこそ、両親がまだ若いから跡継ぎなんていくらでも産める……あぁ、泣かないでユエ。別に死にたいわけじゃないんだよ。それでもそんな事態になったら、僕は君と一緒に死ぬよ。君を置いてなんて逝かない。むしろ、僕を置いて逝かないでユエ」
泣き始めてしまった彼女の頬を両手で包み、額を合わせる。
暫く泣いていたユエだったが、ポツリと呟いた。
「アオ、お願いがあるの」
「ん? 何?」
ユエが僕の両手を掴んで、真剣な顔で言う。
「痛覚共有の呪いかけていい?」
「いや何でだよ?!」
しかも呪い?!
そんなの何処で習ったの君?!
近くで叫んだものだから、ユエが顔を顰めた。
しかし、そんな事を言った彼女が悪いので、僕は謝るつもりはない。
「アオに痛い思いをさせるんじゃなくて、私にアオが感じてる痛みを共有するっていう…」
「ますます駄目なんだけど?! いや何でそんな話になるわけ?! 僕の痛みを君に共有する?! いや、無理、やだ、絶対嫌だ!!」
彼女から手を離し、僕は思い切り首を横に振る。
勢いで眼鏡が吹っ飛んだけど、今はそんなものに構っている暇はない。
何とかして諦めさせなければ。
「アオ、そうやって制限かけないと自分だけで良いから、って言って死にそうなんだもん。私と痛覚が共有されてるから、無茶しようとは思わないでしょ?」
「だからって…!! それに、死ぬつもりはないって言ってんだろ?!」
ユエの肩を掴み、そう大声で怒鳴る。
だが彼女は僕の口に指を添えて、微笑んだようだった。
「アオとお揃いを増やすだけだよ。さっき言った事もそうだけど、どうやったらアオが自分を犠牲にしないで戦えるかって、ママに相談したの。そうしたら、この呪いを教えてくれた。普通のよりもとても重いんだって。普通のは確かに痛覚は共有されるけど、死ぬような痛みとかは共有されないんだって。これは、相手が死んだら自分も死ぬようなもの。ね、アオ。私と一緒に死んでくれるんだよね?」
「ユエ…」
僕は深いため息をつき、俯く。
「君、そんなに病んでたのか…」
「窮余の一策って言ってくんないかな。それに、アオがそんな行動をしなければ、私だって考えもしなかったよ。私がアオのブレーキ役になる。それでも相手が強大すぎて、私達が束になっても敵わなくて…アオが覚悟を決めたのなら、私は貴方と運命を共にする。今世で添い遂げられなくても、来世で添い遂げよう? アオ」
多分いつもの笑顔を浮かべているんだろうけど、眼鏡がないせいで見えない。