案の定、姉妹喧嘩になったようで、課題そっちのけでタップ音が図書室内に響き渡った。
僕は今日分の課題のノルマは終わったので、ユエが飽きるまで本でも読んで待とうと思い、席を立つ。
「アオ、何処行くの?」
画面を見ながらだったが、音で分かったのだろう。
立ち上がった僕に、ユエが尋ねてくる。
「本取ってくるだけ。何処にも行かないよ、僕の姫」
「っ!! あの、口説かないでもらっても良いかなぁ?!」
頬を染め怒鳴るユエが可愛くて、僕は苦笑しながら近くの本棚から本を一冊取った。
まぁ、近くにあったの父様と母様の馴れ初め本なんだけど。
パラパラと適当に捲る。
別に本なら何でも良かったけど、なんでこの席の近くにあるんだろ、あれ。
美談にされているけれど、当時の母様の心境思ったらとんでもないと思うんだよなぁ。
平民で王子と恋に落ちて、魔王討伐まで成し遂げ、貴族の養女として迎えられ。
そして戦争の英雄となり、王妃にまでなるなんて。
母様の半生、怒涛過ぎると思わざるを得ない。
「それで篠原財閥のご令嬢だもんなぁ…」
「うん? どうかしたの、アオ?」
母様が死んだ時の事を思い出して、ゲンナリしてしまう。
ユタカとの喧嘩が終わったのか、ユエがこちらを見つつ首を傾げた。
「いや? この本見てて、ちょっとね」
「あー…王妃様のファンクラブの会長が書いたっていう…それ本当なのかな? よく黙認してるよね、それ」
僕もそう思う。
父様が許可を出してるようだから、黙認ではなく公認ではあるのだけど。
僕は窓の外を見た。
日が傾きかけてきてて、もうそろそろ夕飯の時間かと思う。
「ユエ、少し薄暗くなってきてるし夕飯食べに行こうか」
「そうだね。お腹空いてきちゃった。あっちで食べるご飯も良いけど、今日から1ヶ月アオと二人きりで食べるご飯も嬉しいな」
そう言って、図書室の扉に向かうユエを見ながら僕は内心荒ぶった。
え、何?
めっちゃ可愛い事言ってんですけど、うちの奥さん。
そんなに動揺させて楽しいのか、僕の姫は。
うん、僕も嬉しいよユエ。
誰にも邪魔されず君とイチャつけるなんて、夢のようだもの。
「夢じゃないのかな、これ」
頬をつねってみるが、とても痛い。
いや、明晰夢の可能性もあるから、一概に夢ではないとは言えるが。
「アオ? 早く行こうよ」
扉の所で振り返り、ユエは僕を手招きしながら呼ぶ。
そんな彼女に、僕は言った。
「僕の嫁可愛い!!」
「何を大声で言ってるの?!」
慌てるユエも可愛いな、なんて思っていたが、近付いてきた彼女から思い切り腕を叩かれ、食堂に連れて行かれる。
いやー…これ夢なら覚めないで欲しいなぁ…。
幸せすぎて死にそう。
◆◆◆
ユエと二人きりで食事をし、自室に帰る。
シンクもシャナもいないから、食堂内がとても静かだった。
母様達がトリスタンに行ってて、早朝と深夜の訓練もないし。
もしかしたら、僕ら以外で訓練してるかもだけど。
部屋に備え付けの風呂に入りながらそんな思考をしていると、スーッと音も立てず浴室の扉が開いた。
「アオ、一緒に寝よ?」
そこから顔を出したのはユエだったが、僕は濡れた髪を掻き上げながら、彼女へ苦言を呈す。
「分かったから、扉開けないでユエ。伝えるなら扉の外でも良かったはずだよね? 何、抱かれたいの?」
「…っ!! アオのばーか!! 一緒に寝るだけだからねっ?!」
ユエはそう怒鳴り、扉を勢いよく閉める。
扉の内枠にガラスがあしらわれていて割れそうではあったが、そこはカヅキおばさんの技術。
たとえ銃弾を撃たれたとて、割れない強化ガラスになっているらしい。
というか、ユエの反応可愛過ぎでは?
可愛過ぎて飽和状態起こさない?
「あー…僕の嫁本当可愛い…」
「聞こえてるからっ!!」
扉の外にいたらしいユエが、僕の呟きに対して怒鳴ってくる。
部屋に戻ってると思ってたんだけど、まだそこにいたのか。
クックッと笑っていると、部屋に続く扉が閉められる音がする。
浴室から出て、体をタオルで拭いてから寝巻きに着替えた。
置いていた眼鏡をつけて部屋に戻れば、ユエが僕の枕を抱きしめ、顔を真っ赤にしている姿が目に入る。
「ん? どうかしたの?」
「いや、あの…」
返答がしどろもどろになっている彼女へ、僕は首を傾げた。
隣に座り、額に手を当てる。
「風邪でも引いた?」
「引いてない! …あの、一緒に寝よって、言い出したのは私だけど…その…初夜みたいだなって、思って…誰も、今いないし…」
誰もいないって言ったって、働いているメイドやら親衛隊や騎士団は城内にいるんだけど。
家族はいない、って意味なんだろうけどね。
「手は出さないからな」
「わかってるもん!」
そう言うが、ユエはその状態のまま動こうとしない。
僕は苦笑しつつ、彼女をベッドに押し倒した。
「ひゃっ?!」
「はいはい。そのまま寝落ちされても困るから。ユエ、もうちょっとこっち来て」
僕も横になり、ユエを抱きしめる。
掛け布団をかけ忘れていたなと思って布団に手を伸ばすと、僕から逃れて彼女が端に行こうとするので、肩を掴んで止めた。